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毒親 第8話 美和の支配
第8話 美和の支配
美和の言葉に怒りをこらえたカイは、リビングのドアを一瞬見つめた。この家が、家族にとっての平和な場所であることを彼女に示したかった。しかし、これまでリナが生き抜いてきた生活の残酷さが、少しずつカイの心に明確に刻み込まれていた。リナが幼少期から、母親の徹底的な支配下で育てられたと知るほどに、カイの心は締め付けられるような思いだった。
その日、リナが職場から戻ると、カイは一日の出来事を静かに話し始めた。美和が再び「リナを連れ戻すため」に来たこと、そして「家族のあり方」について彼女が不穏な発言を繰り返したこと。その言葉を聞くたびに、リナの表情は次第に曇り、目には怯えの影が見え始めた。
「またお母さんが、そんなことを…?」リナはかすかに震えた声でつぶやいた。
「リナ、僕がついているから大丈夫だよ。でも、何が起きても、僕とユイを守りたいって思ってる」
リナは深いため息をつき、遠くを見るような目で言った。「カイ、お母さんは昔からそうだったの。家の中のすべての物に、触れる前に許可を取ることが普通だった。携帯なんか持つなんて考えられないし、郵便物は全部、母の手を経てからじゃないと開けられなかった。風邪をひいただけで『どうして自分を管理できないのか』って、怒鳴られたりして…」
その話を聞くうちに、カイは彼女の幼少期の無邪気さが、徹底的に封じ込められてしまっていた理由を理解し始めた。リナは母の許可なしに自分の意思を表すことができず、自分の持ち物すら管理する権利を与えられなかった。日常のすべてが管理され、支配されたその中で、リナは心を閉ざし、自分を守る術を覚えるしかなかったのだ。
「そうだったんだな…」カイは静かにリナの肩を抱き寄せ、彼女が心の奥で抱え続けてきた痛みを少しでも和らげたいと感じた。
しかし、リナの瞳には深い悲しみと恐怖が宿っていた。「カイ…お母さんがこうしてまた私の前に現れるのは、何か意味があるのかもしれない。もしかしたら、私がまだ母の期待に応えられていないと感じているからじゃないかって、ふとそう思ってしまうの」
カイはその言葉に、彼女が今もなお母親の言葉に囚われている現実を目の当たりにした。彼女が抱える自己否定の影響がどれほど深いか、カイは痛いほど理解した。
「リナ、君はもう十分すぎるくらい母親の影響を受けてきた。だけど、ここにいるのは君の新しい家族なんだ。僕たちと一緒に、過去を乗り越えていこう」
その瞬間、ユイが隣の部屋からカイの膝に飛び乗り、二人を見上げてニコッと笑った。「パパ、ママ、何してるの?」
その純粋な笑顔が、暗い空気を少しずつ和らげていくのを感じた。リナは涙を浮かべながら、ユイを抱きしめ、そっと耳元でささやいた。「大丈夫よ、ユイ。ママはここで、ずっと一緒にいるから」
カイはその様子を見守りながら、ユイとリナの温かい関係が、彼女の母親との冷え切った関係を少しでも癒してくれることを願った。そして、彼女を守り抜く決意を改めて心に誓った。
リビングに流れる穏やかな空気の中で、カイとリナ、そしてユイの3人は、新たな絆を少しずつ築いていった。その絆が、過去の支配を断ち切り、新しい未来へと向かう力になると信じて。
つづく