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毒親 第69話 毒親の策略
第69話 毒親の策略
翌日、カイはユイを幼稚園に送った後、リナの病室へ向かっていた。病院の廊下は白く静かで、どこか張り詰めた空気が漂っている。病室に入ると、リナがベッドで薄く微笑んで彼を迎えた。
「カイ、ユイは元気にしてる?」リナの声は力強くはないが、優しさに満ちていた。
「もちろんだよ。リナが心配しなくていいように、俺がちゃんと面倒を見る。」カイはそう答えながら、リナの手をそっと握った。
そのとき、病室のドアがノックされ、ゆっくりと開いた。現れたのは美和だった。
「お母さん……」リナは驚きと戸惑いの入り混じった表情を浮かべた。
「リナ、大丈夫?」美和は気遣うような声色を装って近づいてきたが、その視線にはどこか冷たい計算が宿っていた。
カイはすぐに警戒心を抱いたが、表情には出さずに美和の様子を観察した。
「お母さん、どうしてここに?」リナが尋ねると、美和は少し微笑んで答えた。
「娘の様子を見に来るのに理由がいるの?」
その言葉にカイは言い返したくなる衝動を抑えながらも、目を細めて言った。「美和さん、リナには休息が必要です。長居は控えてください。」
しかし美和はカイの言葉を無視するように、リナのそばに腰を下ろし、囁くように話し始めた。「リナ、あんたね、こういうときこそ家族に頼るべきなのよ。サキやカイさんに頼ってばかりで、本当に大丈夫なの?」
その言葉はまるで優しさを装いながらも、リナの心に楔を打ち込むようだった。リナの表情が曇るのを見て、カイはすかさず介入した。「美和さん、リナは今、私たち家族が一丸となって支えています。それで十分です。」
美和は冷たい笑みを浮かべた。「家族ですって?サキがその“家族”にどれだけ関わるべきなのか、私は疑問だけどね。」
「お母さん!」リナが声を張り上げた。「もうやめて!サキは私を救ってくれてるの!お母さんには分からないかもしれないけど、彼女がいなかったら今の私はいない!」
その言葉に美和は一瞬、表情を硬くしたが、すぐに落ち着きを取り戻した。「まあいいわ。ただ、私はリナが幸せになるために言っているのよ。」そう言い残して、美和は立ち上がった。
「また来るわね。」美和はそう言い捨てて病室を出て行った。
美和が去った後、リナは深いため息をついた。「カイ、ごめんなさい……。お母さんがまた何か言い出して……。」
「リナ、君が謝る必要はない。あの人が何を言おうと、俺たちの家族は揺るがない。」カイはリナの肩に手を置き、安心させるように言った。
「でも……お母さんは昔から私を支配しようとしてきた。今回もそれを止めることができるのか、自信がないの。」リナの声は弱々しかったが、その奥には恐怖が隠れていた。
「俺が守る。」カイの言葉は力強かった。「君もユイも、俺が絶対に守る。」
リナはその言葉に微笑みを返し、目を閉じた。その横顔を見つめながら、カイは決意を新たにした。
その夜、サキは自宅でパソコンに向かい、田嶋の件で進展がないか調べていた。警察が田嶋の悪事を掘り下げているという情報はあるものの、決定的な進展には至っていない。
「まだ何か隠されてるのかもしれない……」サキはそう呟きながら、ふとスマホに目をやった。着信には美和からの名前が表示されていた。
「また何か仕掛けてくるつもり……?」サキは不安を感じつつも、電話には出なかった。
しかし、その夜遅く、家のポストに一通の封筒が投函されていた。中身を確認すると、リナとカイ、さらにはユイに対する嫌がらせとも取れる文章が記されていた。差出人の名はなかったが、その内容から美和が関与している可能性が高いことは明らかだった。
「これが毒親のやり方……」サキは封筒を握りしめながら、改めて美和の恐ろしさを実感した。
翌朝、カイとサキはリナにそのことを伝え、今後の対応を話し合った。
「お母さんがここまでしてくるなんて……」リナは怯えたように呟いた。
「でも、絶対に俺たちは負けない。」カイはきっぱりと言った。「リナ、君もユイも絶対に守る。どんな手を使っても。」
サキも頷いた。「今は家族が一丸となるとき。お母さんの言葉や行動に振り回されないために、私たちが強くならなきゃ。」
そして、家族は新たな戦いの準備を始めた。毒親との対峙が、次なる試練として立ちはだかっていた。
つづく