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毒親 第38話 揺れる心、そして予感

第38話 揺れる心、そして予感


リナの病状は刻一刻と進行していた。医師からは「今後はご家族で、穏やかな時間を過ごされることをお勧めします」と静かに告げられたが、カイはその言葉に現実を突きつけられるような重さを感じた。

病室に戻ると、リナはベッドの上で微笑んでいた。彼女の顔色は以前にも増して青白く、細い手がシーツの上で力なく動いている。

「おかえり、カイ。先生、なんて言ってた?」

カイはリナの目を見つめ、嘘をつくことができなかった。「リナ…これから、家に帰ろう。ユイと一緒に、3人で少しでも穏やかに過ごそう。」

リナの表情が一瞬曇ったが、すぐにまた柔らかい笑みを浮かべた。「そうね…ユイも、私がいないと寂しいもんね。」

その言葉にカイは胸が締め付けられた。リナは自分の残された時間を悟っているのだ。それでも彼女は、母として、妻として、最後まで「家族」の形を守ろうとしていた。


病院からの帰り道、カイの隣に座るリナは車窓の外をぼんやりと眺めていた。

「ねえ、カイ。」リナがぽつりとつぶやいた。

「ん?」

「サキと…ちゃんと向き合ってる?」

突然の言葉に、カイは驚き、思わずハンドルを握りしめた。

「サキとは、何も…」

リナはカイの言葉を遮るように続けた。「いいの。私、知ってるから。」

「…何を言ってるんだ。」

「私のいない未来を考えてるんでしょ?サキは、私の代わりにユイを守ってくれる…そんなふうに思ってるんじゃない?」

カイは何も答えられなかった。

リナは静かに言葉を重ねる。「私ね…サキには感謝してる。彼女がいてくれたおかげで、私は安心していられる。でも…」

「でも?」

「カイ、あなた自身の心に嘘をつかないで。」

その言葉は、カイの胸の奥に深く刺さった。リナは全てを察している、それでも、彼女はカイの未来を縛りつけようとはしなかった。

その夜、家に戻ると、サキがキッチンで夕食の支度をしていた。リナが家に戻ると聞いて、彼女なりに準備をしていたのだろう。サキの姿を見たリナは、柔らかい声で「ただいま」と言った。

「おかえりなさい、お姉ちゃん。」サキは少し緊張した面持ちで迎えた。

「ありがとう、サキ。色々と手伝ってくれて…本当に感謝してる。」

リナの言葉にサキは笑顔を見せたが、同時にどこか苦しそうな表情も浮かべていた。

夕食の時間、3人は久しぶりに一緒に食卓を囲んだ。ユイは無邪気に話し続け、リナはその笑顔を見つめながら穏やかな時間を楽しんでいるようだった。しかし、カイとサキの間には言葉にできない空気が漂っていた。

夕食後、リナが眠った後、カイはサキをリビングに呼び出した。

「サキさん…少し話せる?」

サキは静かにうなずき、カイの隣に座った。リビングはシンと静まり返り、2人の間には微妙な距離が生まれていた。

「リナは、気づいてるんだ。」カイが口を開いた。

「…え?」

「俺たちの気持ちに、気づいてる。でもリナは…俺たちを責めない。」

サキは目を見開き、涙をこらえるように唇を噛んだ。「そんな…お姉ちゃんに、申し訳ない…」

「サキさん、俺は…」

カイが言葉を続けようとしたその瞬間、インターホンが鳴り響いた。2人は驚き、顔を見合わせた。

「こんな時間に、誰だ?」

カイが玄関を開けると、そこには美和が立っていた。彼女の目は異様なほどに光り、冷たい笑みを浮かべている。

「お邪魔するわね。」

美和は無理やり家に上がり込み、リビングへと向かった。サキの顔を一瞥すると、すぐにカイを鋭く睨んだ。

「カイ、いい加減にしなさい。このままじゃ、あなたもサキも、取り返しのつかないことになるわよ。」

「美和さん、帰ってください。」カイは低い声で言った。

しかし、美和は聞く耳を持たない。「リナはもう長くないわ。でも、だからといって、あんたたちが許されると思ってるの?」

サキは顔を覆い、震えていた。美和の言葉は容赦なく、彼女の心に突き刺さった。

「あなたたちが一緒になろうなんて、絶対に許さない。リナのためにも、絶対にね。」美和の声は冷たく、しかしその奥には狂気じみた執念が滲んでいた。

カイは必死に冷静を保ちながら、美和を押し返そうとするが、美和の言葉の刃は確実に家族の平穏を切り裂いていた。


その夜、サキは自分の部屋に戻り、一人涙を流した。「お姉ちゃん、ごめんね…」

彼女の心には、リナへの罪悪感と、カイへの抑えきれない想いが渦巻いていた。

カイもまた、リビングで一人、頭を抱え込んでいた。「このままじゃ…全てが壊れる。」

美和の影がますます濃くなり、家族の未来に暗い予感が忍び寄っていた。


つづく

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