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哀しいホスト 第33話 旧友やホスト仲間がキクを励ましに訪れ、それによって得た気づき

第33話 旧友やホスト仲間がキクを励ましに訪れ、それによって得た気づき

銀座の街から戻った翌日、家の中は再び静けさに包まれていた。タケルや仲間たちとの夜は楽しかったが、やはりミサがいない生活は、これまでの自分にとって考えられないほどの孤独感を伴っていた。

「ミサ……お前がいないと、やっぱり空っぽだな……」

写真の中で微笑む彼女を見つめながら、俺はもう一度決意を新たにしようとしたが、簡単には心の整理がつかない。過去を振り返り、未来を考えたところで、ミサがいた時のような充実感はまだ感じられなかった。

だが、その日は突然訪れた。


昼過ぎ、ドアベルが鳴った。誰だろうと思いながらドアを開けると、そこには久しぶりに会う顔が並んでいた。ホスト時代の仲間、ユウジとリョウだ。二人は昔、俺と同じ店で働いていたホストで、今はそれぞれ別の道を歩んでいる。

「キクさん、元気してますか?」

ユウジが軽く笑って言ったが、その目には少し心配の色が見えていた。リョウも同じように、俺を見つめながら微笑んでいた。

「お前ら……久しぶりだな。どうしたんだ、急に?」

俺は驚きながらも、どこか懐かしさを感じて彼らを家に招き入れた。二人は俺を心配してわざわざ訪ねてきてくれたらしい。

「キクさん、タケルから聞きましたよ。銀座で一緒に飲んだんでしょ?」

ユウジがそう言うと、俺は少し笑いながら頷いた。

「ああ、久しぶりにな。みんながいてくれて、少しは気晴らしになったよ」

「それは良かった。でも、正直、まだミサさんのことから立ち直るのは大変ですよね……」

リョウがそう言いながらも、俺に向けて静かに励ますような眼差しを向けた。

「まあ、そうだな……お前らも知ってるだろう。俺はもう65だ。これから何をして生きていけばいいのか……正直、まだ分からないよ」

俺は正直な気持ちを打ち明けた。二人も、俺がどれだけミサを愛していたかを知っているからこそ、その話に静かに耳を傾けてくれた。


しばらく雑談を続けていると、ユウジが突然真剣な表情で俺に向かって言った。

「キクさん、俺は思うんですけど……今、これからどう生きるかって悩んでいるなら、もう一度昔の自分に向き合ってみたらどうですか?ホスト時代のキクさん、あの頃は本当に輝いてましたよ」

リョウも頷きながら同意した。

「俺たちみんな、あの頃のキクさんを見て憧れてました。だからこそ、今もまだあなたには何かやれることがあるって信じてるんですよ」

その言葉に、俺は少し驚いた。昔の自分!ホストとして新宿でトップを取っていた時の自分が、今の俺に繋がるなんて考えたことはなかった。

「でも、もう俺は歳だし、あの時のような輝きは戻らないよ」

そう言いかけた俺に、ユウジはすかさず反論した。

「歳なんて関係ないですよ。俺たちは今でも、キクさんみたいな人間を尊敬してます。だからこそ、もう一度自分を見つめ直してほしいんです。ホストじゃなくてもいい、でもあなたにはまだ何かできることがあるはずです」

リョウも続けた。

「そうですよ。俺たちもそれぞれ別の道を歩んでいますけど、あの頃のキクさんに背中を押されて生きてきました。だから、今度は俺たちがキクさんを応援する番です」


彼らの言葉が、俺の胸に強く響いた。確かに、過去の自分に誇りを持ち、今まで生きてきた。だが、それは過去の栄光として封じ込めてしまっていたのかもしれない。今の俺にも、まだ何かできる!?そう考えると、少しだけ心が軽くなった。

「ありがとう……お前たちがいてくれるから、俺ももう一度やってみようって思えたよ」

俺はそう言いながら、彼らに感謝の言葉を述べた。


その夜、二人が帰った後、俺はミサの写真を再び手に取った。

「ミサ、俺、もう一度頑張ってみるよ。お前が望んでいたように、俺はこれから新しい道を探してみる」

彼女の微笑みに答えるように、俺は新しい目標を見つける決意を固めた。


つづく

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