毒親 第10話 言い知れぬ不安
第10話 言い知れぬ不安
その夜、カイは眠れず、リビングのソファで一人静かに考え込んでいた。リナの変貌ぶりが心にのしかかり、彼女の苦悩をどうにかして和らげたいという思いが渦巻いていた。しかし、美和の存在が影のようにリナの心に食い込み、彼女の人格にまで影響を与えていることがあまりに根深く、カイ自身の力だけでは解決できない現実があった。
翌朝、リナは少し落ち着いた様子で朝食の準備をしていたが、表情にはどこか陰りがあった。カイは心配を抱きながらも、あえて何も聞かず、いつも通りの朝を過ごすことにした。ユイがリビングに入ってきて、いつものように無邪気に話しかける姿に、カイはほんの一瞬、救われたような気持ちになった。
しかし、その安堵も束の間だった。リナがユイに声をかけようとした時、彼女の顔が再び険しく変わり、「ユイ、ちゃんと姿勢を正しなさい!お行儀が悪いのは誰のせいだと思ってるの?」と、冷たい声で指摘したのだ。その声にカイは驚き、ユイも怯えるように目を伏せた。リナの言動に、カイは美和の影を感じた。
「リナ、ユイはまだ小さいんだよ。あんまり厳しくしなくてもいいんじゃないか?」とカイが言うと、リナは一瞬戸惑った表情を見せたものの、すぐに険しい目つきでカイを見つめた。「カイ、あなたにはわからないのよ。今きちんとしつけなければ、あの子もだらしない人間になるわ。私は子どもに恥をかかせたくないの」
カイは胸の内で怒りと無力感が渦巻くのを感じた。リナが母親の影響をここまで強く受け、自分の考えを曲げられなくなっていることが、彼女自身をも苦しめているように思えた。そして、ユイまでもがその影響を受け始めていることに、カイは危機感を覚えた。
夜、カイはもう一度リナと真剣に話をしようと決意した。二人きりになったリビングで、カイは穏やかに切り出した。「リナ、君が頑張りすぎているのはわかる。でも、僕たちの家族は美和さんの影から自由であるべきだと思うんだ。ユイも、君も、そして僕も、もっとお互いを大切にして支え合いたい」
リナはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと呟いた。「私、どうしていいか分からないの。母が正しいって思い込んでいたから、今さら変えるなんて…でも、時々、母がいなくなれば、私はもっと自由になれるのかなって考えてしまうの」
その言葉にカイの胸は痛んだが、彼女の苦しみを理解していることを伝えたいと思い、そっとリナの手を取った。「リナ、僕たちは一緒にこの家を明るく、安心できる場所に変えていけるよ。母親の言葉に縛られる必要なんてないんだ」
リナはカイの言葉に少しだけ安堵したような表情を見せたが、その奥にはまだ不安と迷いが潜んでいた。
次第にカイは、リナの心の奥深くに入り込んだ美和の「毒親」としての影響を取り除くには、専門的なサポートが必要かもしれないと考え始めた。
つづく