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哀しいホスト 第27話  家族や旧友との関係を見直し、再び繋がりを求める

第27話 家族や旧友との関係を見直し、再び繋がりを求める

ミサの病状が急変し、俺はこれまでにないほどの重圧と孤独を感じていた。彼女のために下した決断が正しかったのか、自問自答する日々が続く。延命措置を取らずに、彼女を静かに見守る選択をした俺だが、その現実を受け入れるのは容易ではなかった。

ある朝、ふと俺は思い出した。もう長い間、家族とも旧友とも連絡を取っていないことに気づいたのだ。ホスト時代には、家族や古い友人たちとの関係が徐々に薄れ、俺は自分の成功とミサとの生活に没頭していた。だが、今の俺には、その繋がりを再び求める必要があるのではないかと感じ始めた。

「キクさん、誰かに頼ってもいいのよ。あなた、ずっと一人で頑張ってきたんだから」

ミサの弱々しい声が、心に響いた。彼女は俺の孤独を感じ取り、誰かに助けを求めることを勧めていた。俺は、これまでミサのためにすべてを捧げてきたが、自分自身の孤独には目を背けていたのかもしれない。

まず、俺は電話を手に取り、兄に連絡を取ることにした。最後に話したのは数年前のことで、家族の中でも俺は特に疎遠になっていた。何を話せばいいのか分からなかったが、どうしても今は一人で抱え込むわけにはいかないと感じていた。

「兄貴……久しぶりだな。俺、キクだ」

電話越しの声に少し戸惑いを感じたが、兄はすぐに反応してくれた。

「キクか!久しぶりだな。どうした、急に連絡してきて?」

俺はためらいながらも、ミサの病状とこれまでの経緯を簡潔に説明した。すると、兄は真剣に耳を傾けてくれた。

「大変だったんだな。お前一人でよく頑張ってきたよ。でも、今は無理しないでくれ。俺たち家族もいるんだから、いつでも力になる」

その言葉に、俺の胸に詰まっていた感情が一気に解放された。ずっと自分一人で支え続けるしかないと思っていたが、家族にこうして話すことで少しだけ肩の荷が軽くなった気がした。

「ありがとう、兄貴。正直、誰にも頼らずに頑張ろうと思ってたんだけど、今はもう……俺も限界なんだ」

兄との会話を終えると、次に考えたのは昔のホスト仲間たちだった。あの頃の自分は、成功に夢中で周囲の人間を顧みなかったことが多かった。だが、今こそ昔の仲間にもう一度会い、話をする必要があると感じた。

俺は旧友であるユウジに電話をかけた。ユウジは俺と同時期にホストクラブで働き、気の合う仲間だったが、俺がホストを辞めてからは連絡が途絶えていた。

「ユウジ、キクだ。久しぶりに会えないか?ちょっと話したいことがあって……」

驚いた様子のユウジだったが、俺の声を聞いてすぐに「もちろんだよ」と言ってくれた。

数日後、俺はユウジと久しぶりに会うことになった。昔の仲間と再会することは少し不安だったが、彼の変わらない笑顔を見て、すぐに緊張は解けた。

「お前、変わってないな。どうしてたんだ?」

ユウジは懐かしそうに俺を見つめ、酒を注ぎながら尋ねてきた。俺はミサのこと、そして今の自分の苦しみを素直に打ち明けた。

「今は、ミサの介護をしながら生活してる。正直、どうすればいいのか分からないことも多い。でも、彼女が俺にとっての全てなんだ。だから、こうして頑張ってきたけど……限界を感じてる」

ユウジは黙って俺の話を聞いてくれた。そして、静かに言った。

「キク、お前は昔から責任感が強すぎるんだよ。誰にも頼らずに全部抱え込もうとする。でも、俺たちがいるじゃないか。昔みたいに頼ってくれてもいいんだぜ」

その言葉に、俺は救われた気がした。ホスト仲間との再会は、かつての自分を思い出させると同時に、孤独ではないという安心感をもたらしてくれた。

家族や旧友との関係を見直し、再び繋がることができた俺は、少しずつ心の中の重荷が軽くなるのを感じた。ミサとの時間は限られているかもしれないが、彼女のために頑張るだけでなく、周囲の支えを受け入れることが、これからの俺の課題だった。

「ミサ、俺はもう一人じゃない。お前のために、みんなの力を借りるよ」

彼女の寝顔を見つめながら、俺は静かにそう誓った。これからの道のりは決して楽ではないが、俺は再び繋がった絆を胸に、前に進んでいくことを決めた。


つづく

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