見出し画像

毒親 第5話 消された真実

第5話 消された真実

リナの母、美和からの連絡が増えるにつれて、カイとリナの穏やかな生活は少しずつ変わり始めていた。美和が電話をかけてくるたびに、リナは顔色を曇らせ、何かに怯えるような表情を見せる。その様子を見ていたカイも、次第に胸騒ぎを覚えるようになっていた。

ある夜、カイは意を決してリナに話しかけた。

「リナ、もし君が話せるなら、もう少し君の過去について教えてくれないか?僕も、君が抱えているものを少しでも理解したいんだ」

リナはカイの真剣な目を見つめ、迷いを見せながらも小さく頷いた。二人でソファに座り、リナはゆっくりと、語り始めた。

「…実は、私の弟が亡くなったとき、母は何一つ悲しみを見せなかったの。お線香一本、立てることすらしなかった」

リナの言葉に、カイは心が締め付けられるようだった。美和がリナにとって「毒親」だとは感じていたが、これほどまでに冷淡だったとは予想していなかった。

「それだけじゃないの…母は、弟が亡くなったことを、まるで私の責任かのように言い続けてきた。『お前のせいで、弱い子が生まれた』って」

リナは目を伏せ、苦しそうに息をついた。彼女の心に刻まれた母の言葉が、どれほどの重みを持っているのか、カイには痛いほど伝わってきた。

「リナ、それは…ひどすぎるよ」

リナは小さく頷きながら、さらに話を続けた。「それだけじゃなく、私には妹もいたの。でも、妹は耐えきれなくなって、私たちがまだ高校生だった頃、家を出て行ってしまったの。母は妹のことなんて、いなくなった瞬間から忘れたみたいだったわ」

リナの目には、消えそうなほどの小さな光が宿っていたが、その光は母の影に覆われ、曇っていた。

「妹が家を出たときも、母は何も気にしなかった。まるで、ただの家具が一つ減っただけのように無表情でね。あの人は、娘がいなくなっても、まったく心配する様子もなかったの」

リナの言葉に、カイの胸には怒りと悲しみが渦巻いた。美和という母親が、どれほど冷酷で自分勝手な存在なのかが浮き彫りになり、リナがこのような母親の影響に縛られて生きてきたことに対して、彼はやりきれない思いを抱いた。

「リナ、君はよく耐えてきたんだね。でも、僕は君にこれ以上苦しんでほしくない。君が背負ってきたものを、少しずつでも僕と分かち合ってくれないか?」

リナは、カイの優しい言葉に顔を上げ、彼の瞳に安らぎを見出したように微笑んだ。


翌日、カイは一つの決意を固めた。リナとユイの未来を守るため、そしてリナが母親の影から自由になるためには、過去と向き合わなければならないと考えた。彼女が本当に美和の支配から抜け出せるようにするためには、今まで避けてきた問いと向き合う必要があるのだ。

カイはその夜、リナに提案した。

「リナ、君と一緒に実家に行こう。君が今も母の影響を受けている理由を、ちゃんと見極めたい。もちろん、君が本当に望むならだけど」

リナは驚き、しばらく言葉を失った。彼女にとって、実家は忌まわしい思い出の場所だった。それでも、カイの真剣な表情を見つめるうちに、彼女の中で少しずつ決意が芽生えた。

「…わかった。カイが一緒なら、行ってみる」

リナは小さく頷いたが、その瞳にはまだ不安の色が残っていた。しかし、彼女のそばにはカイがいてくれる。そのことが、リナにとって何よりの支えだった。

つづく

いいなと思ったら応援しよう!