秋の散歩
大学の授業が早く終わり、午後の時間を持て余した私は、大学の周辺を探索することにした。
辺りはマンションや住宅地が多く、路地裏のような枝分かれした道が何本もあるという地形になっている。
私は路地裏をワクワクしながら歩いた。お昼を過ぎたばかりなので洒落たレストランの異国風料理のにおいや、住宅地からの家庭料理のにおいが漂ってくる。
しかし私の財布には260円しか入っていないので、空腹をごまかしてレストランに入るのはまたの機会にしようとその場を通り過ぎた。
しばらく坂と曲道を繰り返しながら歩いていくと、なにやら開けた道に出た。左側にふと目をやると本屋があった。店先に沢山本を積み、ラックには80年代ごろのCDを置いてある。店内を覗くと、本棚に入りきらず床に平積みされた本があるのが見えた。入ろうか悩んでいる最中、店内からものすごい量の本をエコバッグに入れ、息切れをしながら男性が出てきた。
私は道を譲った後、店の中に入ってみた。この本屋は古本屋のようで、絵本も雑誌も小説も昭和から平成位に出版されたもののようだ。
古いものは魅力的で、いまの情報社会では体験することがない手間に温かみを感じる。
高く積まれた本に囲まれてレジカウンターがひっそりと設置されていた。店員さんは何やら本の包装をする作業に集中しているらしく、こちらには気づかない。
私はまた店内を見渡した、すると床に積まれた本の中にみなれた背表紙を見つけた。母が最近集め始めた漫画だ。しかし値札がついておらず、いや、ついてはいるがほかの古本屋の値札が貼ってあったのだ。私は続きの巻を手に取り、カウンターまでもっていった。
すみません、この本ってこの価格でしょうか。
そう尋ねると、店員は、その本はまだ査定が終わっていないと説明してくれた。
店主が外出中であるため、連絡をして査定額を聞いてもらい、その間にねこぢるの表紙の雑誌や、虫の標本を見た。今度来たときはガロを買おうと思う。
なかなか店主からの返事がない。どうやら先ほどのエコバッグの男性が店主だったようで、近日中にあるフリーマーケットに出店するために、昼間は忙しくしているらしかった。
その説明の流れで、店員から「学生さんですか?」と尋ねられた。私は大学生であること、今日は授業が早く終わったので、散歩中にここにたどり着いたことを話した。
店員は時に学生時代へ思いを馳せるようにして深く頷きながら話を聞いてくれた。
店主に連絡がつき、査定をしていただいたが、21巻あるその漫画は、纏め売りするつもりだったらしく、まとめて買うなら一冊100円で売るということだった。私は承諾し、来週また取りに来ることを約束してから店を出ようとしたら、店員さんから
学校頑張ってくださいね
と声をかけられたので、
店員さんも頑張ってください。
というと、ははは、と笑ってくれた。
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