ぬか床との共存
ぬか床を、飼っている。20年近く。
一人暮らしで生きものを飼いたかったのだけど、たびたび家を長く空ける仕事をしていたので、不平を言わないぬか床を飼いはじめた。
が。ぬか床も立派に不平をいう。驚いた。
もうずっと前のことだけど、スプーンに残ったほんの少しの塩麹がもったいなくて、床に混ぜてみた。どちらも菌だし、案外おいしくなるかも、と。
翌朝。内蓋までパツンパツンに膨らんだぬか床と対面した。普段は容器の三分の1くらい。それが、パツンパツン。怖い。懸命に混ぜた。数日で落ち着いたと思うけど良く覚えてない。
そして先日、重い突き指(たぶんヒビ)をした手で混ぜたら、翌日、表面にここ何年も無かった白い膜がはった。
これは。。。。。指から毒素でもでたのか。
なんてことない、過発酵のしるしなのだけど、あまりに久々の出現で驚いたと共に、私と共に痛んでくれてるのか、と勝手に共存感覚。
糠と塩、そして鷹の爪、粉がらし、昆布、柿の皮、また糠と塩。
そうして一週間ほど、ぬか床のご機嫌取りに追われ、ある日急に美味しく漬かる(ごきげん)
やれやれ、と台所仕事を続けると、目に入ったのは、四十九日に納骨をすませた祖母の写真。
ぬか床よ。私の痛みは指ではなく、心だったのか。
ぬか床はただ静かに、次の撹拌を待っている。