「ニートだけど、異世界で最強の美少女に転生したので、無双して左団扇で暮らす予定です」第二話

 ゴクゴクとスープを飲む。とりあえず、口の中は潤った。一息ついて、改めてスープを飲んでみた。ん? これ、味がしない? いや、完全に味が無いわけじゃないけど、もの凄い薄味? 野菜と干し肉? 後は塩が少しという超薄味だ。しかも、スープの具も少ない……。これって、病人食? いやでも、パンは硬かったし……。どっちにしても、これだけじゃ足りないからおかわりを頼もう。


「あの、お母さん……おかわり」


 そう声をかけると、お母さん? は嬉しそうな顔をした。


「ちょっと待っててね」


 お母さん? は急いで部屋を出て行く。それにしても、おかわりってさっきと同じメニューなのかな? スープは病人食みたいだけど、パンは違うしな……。なんか、物足りないよな。量も少ないし……ってか、女の子だとあれぐらいで足りるのか? そういえば、女の子って甘いものしか食わないんだよな? 


 すぐに、ドアからお母さんが入ってきた。お母さんって呼んでも否定しなかったし、間違い無いよな。


「もう、これしか残ってないけど……」


 先ほどのパンが二つとスープが俺の膝の上に置かれた。これ、もしかして病人食じゃないとか? 普通の食事? もしかしなくても、食文化が貧しい国なのか?


「ありがとう」


 それでも腹は減ってるし、ありがたくいただく。そういえば、生きていたとき? いや、今も生きているっぽいけど、あの頃は適当に食べたいときに食ってたよな。閉じこもるようになってしばらくは、母親も飯を作ってくれてたけど、いつからか俺の分だけは作らなくなった。いつも、カップ麺とかインスタントラーメン、スナック菓子ばかり食べていた。


「あまり食べない子だから心配していたけど、今日はたくさん食べてくれて嬉しいわ」


「あーなんか色々あったみたいで、なんだかお腹空いたって感じかな?」


 お母さんが嬉しそうに笑う。それにしても、ナーナーさんとよく似ているよな。ちょっとおばさんだけど美人だし……。もしかして、今の俺もこんな顔? だとしたら、すっげー美少女じゃね? 胸は、ナーナさんと比べると残念だけど、アナトには余裕で勝ってるしな。あれだ! もしかしなくても、これからの俺は美少女で人生、勝ち組ってやつか? 玉の輿に乗って、左うちわで好き放題ってことか? ヤベぇ、人生、美味しすぎる……。


「ミーナ?」


 呼ばれて気が付くと、お母さんが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。あ、あやしい妄想が顔に出てたか?

「なに?」


「あ、その……ご飯、足りる?」


「うん」


 本当は足りないけど、女の子ってそんなに食べないんだろうし、それに……この堅いパンは食べるのつらい……。


「そう。それなら良かった」


 なんか、聞きたいことは別にある感じがするんだけど、俺には分からないだろうしスルーしておこう。だって俺には今、とてもつもない重大なミッションがあるんだ……。今の俺にとっては、勇者になるとか魔王を倒しに行くとか賢者を目指すとかよりも超重要なミッションだ。


「あの……」


 思い切ってお母さんに声をかけてみるが、言葉が続かない……。だって、なんて言えばいいんだよ? こんなこと、恥ずかしくて言えないだろ? 


「なに?」


 お母さんが聞き返す。表情は普通だ。今なら言えるんじゃないか? というか、今を逃したら俺、どうすればいいか分かんないし……。


「と……」


「と?」


「トイレどこですか?」


 言った……。家族? に聞くのは超絶バカみたいだけど、実際、俺どこになにがあるか分かんないし……。


「外だけど……」


 やっぱり、不思議そうな顔をしてお母さんが答えた。


「ありがとう」


 俺は、急いでベッドから抜けだしてドアへ向かった。ドアを開けると廊下があると思っていたけど違った。居間? なのか? ナーナさんと、ナーナさんによく似た幼女と、やたらゴツイおっさんが木のテーブルを囲んで座っている。もしかしなくても、家族集合だよな? ということは、あのゴツイおっさんが父親? 幼女は妹? 


「ミーナ? どうしたの」


 ナーナさんが、不思議そうな顔で俺に尋ねてきた。


「あ、あの……俺、じゃなくて私、トイレに……」


「あぁ、まだ身体がつらくて歩くの大変? 連れて行ってあげるね」


 ナーナさんが椅子から立ち上がり、俺に向かってくる。ちょっと待て! これってなんて罰ゲームだ? 巨乳美少女とトイレって、これ、なんてエロゲ?


「ミーナ?」


 その場でフリーズする俺の顔を、心配そうにナーナさんが覗き込んだ。


「え? あ、あの……場所さえ教えて頂ければ、自分で行けます……」


「もう、無理しなくていいのよ」


 ナーナさんが俺の手を取る。


「外はもう暗いし、心配だからね。あ、つらかったら私に寄りかかっていいからね」


「は、はい……」


 有無を言わせずに、ナーナさんは俺の手を引いて歩き出す。


「あ、つらい? 抱えた方がいいかな?」


「だ、大丈夫!」

 ナーナさんと共に、玄関と思われるドアへと向かう。少しだけ外を知ることが出来る期待感と、ナーナさんと一緒にトイレという状況に、俺の胸は高鳴った。


「暗いから気をつけてね」


 ナーナさんの言葉通り、ドアを開けた先は真っ暗だった。街の灯り一つ見つけることが出来ないほどの暗闇。もしかしてここって山奥とか? ふと空を見上げると、地上とはうらはらに、もの凄い数の星が煌めいていた。暗い夜空を彩るように多くの星で埋め尽くされ、まるで光が振ってきそうな気がする。こんなたくさんできれいな星空、始めて見た。


「ミーナ? 大丈夫? これ、履いてね」


「え?」


 ナーナさんは、手にしたサンダル? のようなものを俺に差し出してきた。


「やっぱり、調子悪い?」


「え? あ、大丈夫」


 そういや俺、裸足だった。まぁ、ベッドに寝てたしその辺は仕方がないよな。ってか、こっちでは家の中でも履き物が必要なのか? とりあえず、俺は差し出されたサンダルもどきを履く。


「こっちよ」


 別方向に向かおうとしていたらしい俺を、ナーナさんが止めてくれた。


「ミーナ? 本当に大丈夫?」


「う、うん……。でも、ちょっと記憶が色々と曖昧で……」


 そう答えたとたん、俺は再びナーナさんの柔らか殺人兵器の犠牲になる。


「そうよね……。ほんのちょっととは言え、死んでたんだし……。大変よね……」


「あ、あの……くるしい……です」


「あ、ごめん」


 死ぬ前に柔らか殺人兵器から解放された。こう一日に何回もされていると、マジこれで死ぬんじゃないかと思える。


「じゃあ、ここで待ってるね」


 掘っ立て小屋? なんか超簡易制作の小屋? と言っていいんだかどうだか分からないところへ連れてこられた。ここがトイレ? ま、まぁ、田舎の山奥ならこんなのもあるよな。って、それよりもここで待ってるって言わなかったか? ナーナさんがすぐ側にいるのに、用を足すのか? ナーナさんとトイレと思われる建物を交互に見比べる。どうしたの? って感じで、ナーナさんが俺を見ている。とりあえず、何か話しかけられる前にトイレに行くか……。

 叫び声のような音を上げるドアを開けて、中へと入った。まぁ、分かっていた……。水洗トイレなんて無いってことは分かっていた。なんか、土に穴を掘っただけって……あまりにも文明とかけ離れてる……。まぁ、もうこのさい、それもどうでもいい。俺は色々と限界なんだ! 用を足そうと思った瞬間、俺の動きと思考が止まる。女の子って、どうやって用を足すんだ? とりあえず、パンツを下ろす。これは、男も女も間違ってないよな? 自信ないけど……。


 ふぅ……。何とかミッションクリアしたぜ……。たぶん……。間違ってるとか、もうそんなのはどうでもいいや。気にしたら負けだ。というか、もし本当に俺が死んでいて、これからこの世界で生きていかなきゃならないとしたら、色々と困ることはあるよな。だって俺、男だし、女の子の身体なんて全く分からないし……。どうすればいいんだ? ってこと、山のようにあるよな? たとえば風呂とか……。


「もういいの?」


 ナーナさん、本当に待ってたんだ。さっきと同じ場所にいる様子に、なんだかもの凄く恥ずかしくなる。


「うん……」


「じゃあ、戻ろうか」


 ナーナさんに手を引かれ、家へと戻る。そのまま部屋まで案内され、ベッドに横たわった。ナーナさんは、ジッと心配そうに俺を見下ろしてる。


「お姉ちゃん?」


 どうしたのかと思い尋ねてみる。ナーナさんは一瞬、驚いたような顔をしたけどすぐに笑顔になった。


「何?」


 なんとなく気になって声をかけたけど、これと言って用があるわけじゃ……って、あった!


「あの、鏡はどこ?」


「かがみ? なにそれ?」


「え? あ、なんでもない。なんかふと思いついた単語だった」


 俺の答えに、ナーナさんは更に首を傾げる。とりあえず、鏡は無いって事だよな? あったとしても、別の名前とか?


「あ、そうだ。なんか寝込んでたから、今、どんな顔になってるか気になるんだけど……?」


「じゃあ、明日の朝は早く井戸に行きましょう」


「井戸?」


「顔を洗ったりするときに水に映してみるといいわよ」


 水が鏡がわり? ということは、鏡は無いのか……。水に映したので、俺の今の顔って分かるんだろうか? 悩む俺を、嬉しそうにナーナさんが見ている。


「ミーナも、自分の顔とか気にするようになったんだ」


 え? 元の持ち主って、顔とか気にしてなかったのか? マジで引きこもり? 俺と同じ?


「今度、町へ行ったときに紅でも買ってこようか? あ、それとも、一緒に行く?」

 返事に困っている俺に向かって、ナーナさんは言葉を続けた。


「お金なら大丈夫よ。紅ならなんとか買えるわ」


 その言い方だと、紅って口紅か? 高価なものなのか? いや俺、自分の世界の口紅の値段も知らないけど……。化粧品は高いってイメージはある。


「ミーナは可愛いから、明るいピンクとか似合いそうね」


 可愛い? 俺は可愛いのか? 身内の欲目じゃなくて? まぁ、この姉とあの母親なら、その可能性は高いんだろうけど、チラッと見た父親らしきのがかなりごつかったからな……。


















































































































































































































































































































































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