「ニートだけど、異世界で最強の美少女に転生したので、無双して左団扇で暮らす予定です」第三話

「とりあえず、町へ行くのはミーナの身体が良くなったらね」


「う、うん……」


「じゃあ、ゆっくり休んでね」


 ナーナさんはそう言うと、部屋から出て行ってしまった。また何もない部屋のベッドで時間を潰さないといけない。灯りはロウソクぐらいで、部屋はかなり暗い。こんなに暗いのに、ナーナさんたちは平気なんだろうか? オレがいた世界とは、かなり文明レベルが違うみたいだ。いや、俺がいたところでもこういう生活もあるようだし、やっぱりまだ分からない。


 そういや、この身体の死因って何だったんだろう? アナトは丁度空きがあったみたいに言ってたし、ナーナさんもお母さんも何も言わなかった。マジで、ナーナさんの柔らか殺人兵器が死因じゃないよな? 


 しばらく、ベッドに横たわりながら薄暗い天井を見つめる。ロウソクの灯りが揺らぐ度に、なんだか不思議な影を作る。とても静かだ。テレビの音も無い。ゲームの音も無い。そして、とても暗い。テレビの画面も無い。ゲームの画面も無い。蛍光灯すら無い。こんなのは初めてだ。いつも、部屋には明かりが点いていた。テレビもパソコンもゲーム機も、いつもいつも画面に何かが映っていた。


 そういえば、部屋から出なくなってどれだけ経ったのだろう? 何日? 何週間? 何ヶ月? 何年? もう、思い出せないほどの年月なのは分かる。俺は、なにをしていた? あぁそうだ。学生だった。この薄暗い雰囲気のせいか、ふと頭の中に色々と浮かぶ。思考を邪魔するものが無いせいだ。無駄な雑音がない。無駄に動く映像がない。思考を邪魔するものが何もない……。この部屋で変化するものと言えば、ロウソクの灯りの揺らぎだけだ。


 次々と浮かんでくる思考を振り払うように、俺は頭を振る。そして、ゆっくりと目を閉じた。まぁ、死んだのは良い。どうせ、死んだように生きていたんだから……。でも、どうせなら俺の記憶も消してくれれば良かったのに……。新しい世界で、新しく生きていくならその方が良かった。


 今更、うじうじと考えていても仕方がない。セーブポイントなんて無いんだろうし、元の世界に戻れそうもないし……。それよりも、一つ疑問がある。あのとき、アナトは弟の名前を呼んだ。ということは、死ぬのは弟だったってことか? 弟はどうなったんだ? 俺の代わりに生きているのか? アナトに聞けば分かるんだろうか? そもそも、教えてくれるのかどうかも分からないが……。


 色々と考えているうちに、ロウソクの灯りが消え辺りは闇に包まれた。それに釣られ、俺の意識も暗闇へと落ちていった。

 なんか声がする。何度も誰かを呼んでいる。近所の誰かが大声を出しているのか? やけにうるさい。ゆっくり寝られないじゃないか! 俺は、文句を言いたい気分で目を開けた。目の前には、何か見慣れた柔らかそうな肉の塊がある。


「うわっ!」


 驚き、声を上げて跳ね起きる。なんだ? 一体何が起こったんだ? 


「ミーナ?」


 軟らかい肉の塊がしゃべった! じゃなくて、あれは胸か? いわゆる巨乳というやつか? てか、なんで俺の部屋に巨乳が?


「どうしたの? まだ体調悪い?」


 あ……ナーナさんだ。そうだ、俺、ラノベや深夜アニメみたいに異世界転生? したんだった。いや、異世界転生なのかどうか、まだよく分かってないけど……。


「あ、おはようございます。体調は大丈夫です」


「おはよう。全然、起きないから心配したよ」


「えっと……、なんだか寝付けなくて……だから、寝たの遅くなっちゃって……」


「そっか。そうだよね。色々とあったもんね」


 ナーナさんが、うんうんと頷きながら答える。色々ってなんだろう? この身体の死因とか? マジ、それが気になるんですけど? でも、家族に聞くのってやっぱり酷かな? 今日、アナトが来るって言ってたし、アナトに聞いてみよう。


「とりあえず、顔を洗って朝ご飯にしようか?」


「うん」


 寝ている間も腹は減る。それに、昨日の晩飯があれだったからな……。ほぼ、寝てただけだけど腹減りすぎてる……。


「じゃあ、行こう」


 ナーナさんに手を引かれ、ベッドから降りるとサンダルもどきを履きドアへと向かう。特に体調はなんともないんだけど、心配してくれているみたいなので素直に従うことにした。リビング? らしきところには、お母さんと父親? と思われるゴツイおっさんと、幼女がいる。幼女、可愛いな。いや、別にロリが好き的な意味でじゃなくて、ペットとかなんかそういう可愛さだ。


「おはようございます」


 無難に朝の挨拶をすると、ゴツイおっさんが驚きの表情をした。それを見たナーナさんは、少しイタズラっぽく笑う。この身体の持ち主、一体どんな人物だったんだ? ものすげー気になる……。まぁ、嫌な予感しかしないけどな……。色々と気になりながらも、ナーナさんに連れられて外へと向かう。


「ミーナ!」


 ナーナさんに声をかけられ、井戸にぶつかる寸前で足を止めた。やべー、考え事してたら、このまま進んであそこに落ちてたわ。考えること多すぎだけど気を付けないとな……。

「今、水を汲むから待っててね」


「うん」


 俺が答えると、ナーナさんが嬉しそうに笑う。ナーナさんが笑うと、なんだかドキドキするけど……、俺、今は女の子なんだよな? 同性、しかも姉にドキドキってどうなのよ?


「はい。まずは顔を見てみる?」


 井戸から水をくみ上げた桶が俺の前に置かれた。見たいような見たくないような……複雑な気持ちでゆっくりと桶の中を覗き込む。どうか、お母さんやナーナさんに似てますように……。あのごついおっさんには、似てませんように……。


 まだ、くみ上げたばかりで水面が揺れる水面を見た。ゆがんだ水面でも分かるほど、ちょー美少女だ! こんな美少女なら、人生イージーモードだろ? 玉の輿だっていけるだろ? 一生、左うちわの人生、確定だろ? ってことは、死因は自殺じゃないよな……? 事故? それとも……。


「ニーナ?」


「うわっ!」


 不吉な考えが頭をよぎったとき、いきなり背後から声をかけられて飛び上がるほど驚いた。


「え? ごめん、驚かせた?」


 いきなり叫んで飛び上がった俺を、心配そうに見つめるナーナさん。


「あ、ちょっと見惚れてたから……」


 違うって! 自分で自分の顔に見惚れるって変な奴だろ!


「じゃなくて……その……」


 なんとか言い訳をと思ったら、ナーナさんは嬉しそうに笑う。


「ミーナも色々と気にするようになったね。誰か気になる人とかできた?」


 それはあなたです! とは答えられないよな……。


「その、そういうわけじゃなくて、寝込んでいたからちょっと気になって……」


「ちょっとやつれてるけど、大丈夫! 可愛いよ」


「あ、ありがと……」


 身内の欲目を除いても、確かにこの顔は美少女だからナーナさんも本音なんだろうな。それにしても、こんなに美少女なのにニートっぽいし、家族もなんだか腫れ物を扱うみたいな感じだったし……。この身体の元の持ち主がどんな人物だったのか気になる。なんだか、家族には聞きにくいし……。


 あ、そうだ! アナトに聞けばいいんだ。今日、来るって言ってたし、この身体を選んだのもアナトなんだろうし、詳しく知ってるよな?


「ミーナ、お母さんがご飯って呼んでるから、急ごう」


「あ、うん」


 ご飯と聞いて、俺の腹が空腹を訴えた。急いで桶の水を手に取り、バシャバシャと顔を洗う。あ、そういえば顔を洗う洗顔料? とかは……あるわけ無いか……。手早く顔を水で洗い終わると、ナーナさんがタオル? のようなものを差し出していた。

「ありがとう」


 礼を言い、タオルのようなものを受け取る。すぐに顔を拭くが、なんだかゴワゴワした布だ。それでも、顔の水分は拭き取れたから、気にしない。


 さて、次は朝飯だ。腹が減っては戦は出来ぬと言うし、アナトが来る前に万全な状態でいたいからな。期待に胸を膨らませ、小屋の中に戻る。そういえば、俺の胸はナーナさんと比べると、ちょっと寂しいよな……。ちらりと視線を下に落として見る。でもまぁ、アナトには余裕で勝っているし、これだけあればいい方なのか? ナーナさんが凄すぎるだけだよな。


 少し、浮かれ気分で食卓に着く。目の前には、昨日と同じ変な形の硬そうなパン、スープ、野菜と果物らしきものがあった。いや、朝からステーキとは言わないが、もう少し腹に溜まりそうなものってないのか? 昨日の晩飯がイマイチだったので期待をしすぎたのか、とてもガッカリな朝食だった。それでも、野菜と果物みたいなのがあるから、少しはマシか……。


 俺の新しい家族? が揃って朝食を食べ始める。俺もそれに続く。そういえば、家族そろっての食事って何年ぶりだろう? 自分の家族だと、こんなに穏やかに食事を一緒に食べるって事は出来なかったな。やっぱり、本当? の家族じゃないからだろうか? とは言っても、この身体の本当の家族だから、なんだか微妙なんだけど……。やはりまだ、実感が無いっていうか夢みたいというか、不思議な感覚っていうのも大きいと思う。


 朝食を口に詰め込む俺を、家族達がジッと見つめてる。ヤベっ、もっと上品に食わないとダメだよな……。この身体、女の子だもんな。少し食べるペースを落とし、少しずつパンや果物を口に運んでいく。


「ミーナ、お腹減ってるならたくさん食べて良いのよ」


 お母さんが俺に向かって嬉しそうに言った。すぐに、ゴツイおっさんってやっぱりお父さんだよな? は静かに頷く。お父さん? あまりしゃべらない人なのか? 少し観察をしながら食事を進める。ふと、小さな女の子が俺を見てることに気が付いた。そっちに視線を向けると、嬉しそうに笑いながらフォークに刺した果物を俺に向かって差し出した。これ、食えってことか? この子は妹だよな? 小学校低学年ぐらいだし、ナーナさんやお母さんに似ているし、たぶん妹? 姉妹だと、こういうプレイもあるのか? って、プレイってなんだよ! 

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