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日本が取るべき今後のAI戦略について

非常に長い記事となりますので、まず結論からお話しします。

世界最速でASI(Artificial Super Intelligence:人工超知能)獲得を目指さなければ、日本は消滅します。

そのキーテクノロジーは「AI × ブレインテック × 量子コンピュータ」の垣根を超えた連携による相互進化です。

煽り記事でも週刊誌のゴシップを狙うでもありません。その理由を大まかに下記構成でご説明しますので、長くなりますがお付き合いをお願いいたします。

第1章 日本の現在地とこの延長線上に訪れる未来
第2章 生成AIに関する現時点までの動向
第3章 日本が取るべき今後のAI戦略の詳細

第1章 日本の現在地とこの延長線上に訪れる未来

ChatGPT登場から間もなく2年が経過しますが、皆さまはもうご活用されていらっしゃいますでしょうか?
特に目新しい情報ではありませんが、衝撃的な数字をご紹介いたします。

1. 9.1%
2. 12位
3. 31位
4. 3,000万人

1つ目の「9.1%」は2024年7月に公開された総務省情報通信白書における、日本人の生成AI利用率です。

1位から順に中国(56.3%)、米国(46.3%)、英国(39.8%)、ドイツ(34.6%)と続きます。

総務省 令和6年版 情報通信白書(第5章 第1節「国民・企業における利用状況」)

続く統計を見ると、6~7割の方はニーズと合致すれば利用する意思があり、「やりたいこと」と「できること」の乖離が伺われます。
「使ってみたけれど、期待外れだった」という意見や、使ったことがない人からは、チャットという自由過ぎる画面構成ゆえに「何を入力すればいいか分からない」という意見が多い印象です。

2つ目の「12位」は、2075年の日本のGDPランキング予測です。

世界最大の経済大国と呼ばれたのも今や昔、2023年にドイツに抜かれて現在4位、インドが猛追しています。

The Path to 2075 — Capital Market Size and Opportunity (Daly/Gedminas)

3つ目の「31位」は、OECD加盟38ヵ国中、一人当たりの労働生産性ランキングにおける日本の順位(2022年)です。

日本の労働生産性は昔からそれほど高くはありませんでしたが、一人当たりのGDPでは27位、1996年には主要先進7ヵ国で米国に次ぐ5位だったことを考えると、「失われた30年」の深刻さが実感できます。

公益財団法人 日本生産性本部 労働生産性の国際比較

4つ目の「3,000万人」は、2065年までに減少すると予測される日本の生産人口です。
住民基本台帳に基づく2024年のデータでは7,457万人ですが、2065年には4,529万人と予測されています。

総務省 情報通信白書令和4年版「第1部 特集 情報通信白書刊行から50年~ICTとデジタル経済の変遷~」

これらの数字が示す意味、お分かりいただけたでしょうか?

2065年の日本は、現在より3,000万人少ない労働人口で、2075年には経済規模は12位に転落。

2022年時点でOECD加盟国中31位という低い労働生産性でありながら、2024年時点で米欧中では2~3人に1人が活用する生成AIを、日本では10人に1人も利用していないという厳しい現実であり、あなたが老後に見る日本の姿、あなたのお子様やお孫様が直面する世界です。 

現在地と、この延長線上にある日本がイメージ出来たところで、次に生成AIの実情はどうなのか見ていきましょう。

第2章 生成AIに関する現時点までの動向

この2年で生成AIは驚異的な進化を遂げています。テキストだけでなくマルチモーダルにも対応、Web検索や外部サービス連携も可能になり、性能は向上し続ける一方で、コストは劇的に低下しました。

主要なオープンモデルも高性能で、誰でも改良できるため、多種多様な生成AIが次々と誕生しています。

最近ではOpenAI o1-preview(サム・アルトマン氏はXアカウントにて思わせぶりに「o2が博士号レベルのベンチマークで105%のスコアを達成」と投稿しています)に代表される推論能力の強化されたモデルも登場しています。

セキュリティ面での不安に応えるクローズドなサーバー環境や、パソコンやスマホでも動く小型軽量モデルも登場し、生成AIはあらゆる場所に浸透しつつあります。

これまでのITサービスと大きく異なるのは、特別なスキルが不要な「会話」で操作でき、「無料でも一定レベルまで使える」点です。

世界中の人々が生成AIを活用して生産性と品質を向上させる「知の民主化」が始まり、私たちはまさに第4次産業革命の渦中にいます。

一方で、生成AIを取り巻く状況は、初期の熱狂から「幻滅期」へと移行しつつありますが、同時に自律型AIシステム(エージェント)への期待が高まり、関連ソリューションも登場し始めており、先日のMicrosoft Igniteでもエンタープライズ向けの明確な方向性が打ち出されました。

さらに、OpenAIから「Operator」と呼ばれる、AIがPCを操作して能動的に問題を解決できる、エージェントに対する新たなアプローチが2025年1月リリースか、と報じられており、AnthropicはClaude 3.5 Sonnetに「Computer use」と呼ばれる同様の機能をすでにβ版として提供しています。

長い前置きで大変失礼いたしました。

それでは、この先想定される出来事と、日本が取るべき今後のAI戦略の詳細について、いよいよ解説いたします。

第3章 日本が取るべき今後のAI戦略の詳細

OpenAIはAGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)に至る5段階スケールを発表しています(表1)。

表1:OpenAIによるAGIに至る5段階スケール

残念ながら、レベル5に至ってもなお、日本はMATANA(旧GAFAM)の後追いが体力的に不可能なのは間違いなく、内閣府のAI戦略会議も国の研究機関も名立たる国内企業も、日本語特化型AIやドメイン特化型AIを「日本の勝ち筋」と見ています。

それ自体は決して悪いことではなく、ビジネスとして眼前の利益を確保することは営利企業の至上命題です。

ただし、そう遠くない将来、上記スケールにおけるレベル3で一つ残らず駆逐されます。

彼らに勝利するために必要なのは、レベル5のさらに先、世界初のASI(Artificial Super Intelligence:人工超知能)獲得の一点突破のみです。

レイ・カーツワイル氏は「指数関数的に進化するAIが2029年に人間を超え、2045年には自分で自分を超えるAIを生み出し、人間の想像が及ばない領域、技術進化速度が無限大へと発散する」と予測し、ASIの登場が「シンギュラリティ(技術的特異点)」を引き起こすと言われています。

2024年のノーベル賞で物理学賞・化学賞をAI関連が3件も受賞がしたことは記憶に新しい歴史的出来事で、今後もより多くの分野での受賞が容易に予測されますが、ASIに至ってはもはや人間が束になっても太刀打ちできる存在ではなく、あらゆる分野で頭脳を担います。

「コンピュータの祖」の一人と言われる英国の数学者 I・J・グッド氏が1960年代に残した言葉が非常に印象的ですのでご紹介します。

「最初のASIが、人類の『最後の発明品』となるだろう」

ASI獲得競争は勝者総取りです。

この生存競争で日本が敗北するということは、「戦後の荒廃」や「失われた30年」が可愛く思える程に、産業、学術、医学、文化、芸術、政治、外交、行政、司法等々、ブルー/ホワイトの区別なく、ありとあらゆる分野において

「未来永劫覆ることのない永遠の敗北と隷属」を確定させます。

これは安全保障上の問題でもあり、しかもそう遠い未来のSFではありません。

では世界初のASI獲得のために必要なものは何でしょうか?

AI × ブレインテック × 量子コンピュータ

私はこの3分野の垣根を超えた連携による相互進化こそがキーテクノロジーだと考えます。

まず、この先の生成AIの進化で最初の壁になるのは、いわゆる「2026年問題」と言われる良質な学習データの枯渇で、すでに進化の頭打ちをもたらしていると言われています。

一部メディアにて「GPT-4開発時点でWeb上の学習データを使い果たしたOpenAIは、文字起こし機械学習モデル『Whisper』を開発し、禁忌とされたYouTube動画の内容を学習させた」と報じられた内容が事実であれば、3年前倒しで顕在化し始めていたことになります。

各研究機関では合成データの研究が進められており、OpenAIでも最近登場した「ChatGPT Search」では、「GPT-4oを『OpenAI o1-previewからの出力抽出を含む合成データ生成技術』で追加学習したモデル」が使用されています。

ただ、合成データの学習は「モデル崩壊」と背中合わせとの議論もあり、飛躍的な進化の継続が約束されている訳ではなさそうです。

私はAIに人間の脳波を学習させることが、この問題の打開策になると共に、脳波には現状AIが備える視覚と聴覚に関する情報に加え、味覚・嗅覚・触覚の情報も含まれることから、AIにとって「疑似的な身体性」の獲得につながると考えています。

内閣府ムーンショット目標1および同目標9において脳波を活用したイノベーションを掲げており、読み取りに関しては、下記の通りAIとの親和性の高さが明確になっています。

現時点ではイーロン・マスク氏率いるNeuralinkの試みに代表される、外科手術で脳に電極を埋め込むような「侵襲」、外部から脳の表層電流を読み取る「非侵襲」、その中間としてsynchronが開発した「低侵襲」や、大阪大学とメルボルン大学による「極低侵襲」に分けられます。

多くの人にとって心理的・金銭的負担が少ない「非侵襲式」「極低侵襲」のBMI(Brain Machine Interface)が視覚・聴覚へのオーバレイも可能になれば、スマートフォンの入出力デバイスとして、あるいはそれを置き換える新たなAIデバイスとして普及し得ると考えており、デバイス上に閉じて動作するエッジAIのパーソナライズはもちろん、匿名加工した脳波情報の集積により、クラウドAIの能力を飛躍的に向上させる可能性があると考えています。

また、「考えるだけで操作できる」BMIは、最も簡単な「会話」により操作できる生成AIと併せ、テクノロジー側から人間に寄り添うものであり、スマートフォン登場時には視覚障がいの当事者の方々に優しくないデバイスとして大きな非難が上がったことと比較しても、歴史上かつてなく究極に人に優しいツールであり、そこに「デジタルデバイド」は存在しません。

次に、生成AIの進化の先に待ち受ける壁は計算能力の限界です。

OpenAI o1-previewは、CoTを強化学習で改善することにより推論能力を獲得しましたが、今後はCNN(畳み込みニューラルネットワークモデル)におけるResNetのように、推論ステップを集積や、再帰的思考・ロジックツリーの強化学習による改善など、他の思考方法も取り入れて思考の深さと幅を拡大させる、あるいはその過程でTransformer相当の推論特化アーキテクチャが登場する可能性も考えられますが、GPT-4レベルでも膨大な計算資源を消費する上、o1-previewも回答に数分要する(NVIDIA Blackwell最新チップで数秒)など、この先スーパーコンピュータとはいえ古典コンピュータの計算能力の限界を迎えることが想定されます。

量子コンピュータは内閣府ムーンショット目標6で2050年に100万量子ビットのFTQC(Fault-Tolerant Quantum Computer:誤り耐性汎用量子コンピュータ)実現を掲げて研究開発が進められています。

弊社研究所では量子コンピュータにおいても、大阪大学と弊社が共同開発した「STARアーキテクチャ」に代表される、記憶に新しい下記の成果を挙げています。 

ハードウェア面でも下記の方式の共同開発で実績を上げており、上記アーキテクチャも併せ世界的にも先進的な位置に立っています。

  • 超電導方式(理化学研究所) 

  • ダイヤモンドスピン方式(デルフト工科大学) 

量子コンピュータ研究ではGoogle、IBM、Microsoft、UCバークレー、オックスフォード、デルフト工科大などがリーダー的存在として知られていますが、例えばGoogleは2019年にNASAと共に「量子超越を達成」とした草稿が誤ってNASAのサイトにアップロードされたり、2021年5月に最新の開発計画で2029年の100万量子ビットFTQC完成目標を表明したものの、「量子超越性」や「量子優位性」あるいは「FTQC」の定義さえも統一されたものではなく、ソフトウェアやアルゴリズム、あるいは開発言語の面でも、現在その研究開発は世界的な「冬の時代」に突入しています。 

しかし、上述の大阪大学と弊社研究所の共同開発による「STARアーキテクチャ」が量子優越性の実現方法を確立した6万論理量子ビットは「Early-FTQC」と呼ばれる2030年には実現可能と予測されている規模であり、BMIの普及により膨大な脳波データを学習したAIにより表1で紹介したOpenAIによるAGIに至る5段階スケールのレベル4「Innovators」に到達すれば何らかのブレイクスルーを迎える可能性もあり、新たな領域に到達した量子コンピュータの計算能力で論理思考を強化したAIが、さらに量子コンピュータの進化を加速させる相乗効果が期待されます。

その先にFTQCが達成され、その上で動作する「量子AI」(古典コンピュータとは動作原理が異なるため移植には新たなアルゴリズムが必要)が実現した時、AIはあらゆる可能性を同時並列に検証できる能力を獲得することにより、自分で自分を超えるアルゴリズムに書き換えて進化するASIが登場すると考えています。 

さらに集積される脳波データから「集合意識のデジタルツイン」と呼ぶべきものを、存在するあらゆる可能性の数だけ同時並列に生成できる可能性が考えられ、あらゆる事態や可能性を想定した極めて高精度なシミュレーションが可能となり、ビジネスはもちろんのこと、政治・行政・司法においても比類なき能力を発揮するでしょう。

脳波活用についてもう一つ言及すると、障がいの有無に依らず「生存している個人」を確実に識別する究極の公的個人認証として「脳紋」を、さらには感情分析による「脅し」や「強要」などの不正が疑われる兆候の検出と併せて活用できることが期待できます。 
もちろん生体情報は漏洩した場合に取り返しがつかないという諸刃の剣でもあるため、常にその時点で最強の暗号技術へのアップデート(ゆくゆくは「量子暗号」)にて暗号化し、ブロックチェーン上で管理することにより使用されたり改変されたりした場合の本人への通知および履歴確認とトレーサビリティ確保は必須となります。 
これらがもたらす変化の中で最も大きなものは「不正のない電子投票」であり、「ASIを介するリアルタイムな直接民主制」への移行です。 

非常に長尺の解説をここまでお読みいただけたことに心より感謝申し上げます。 

以上が今後日本が取るべきAI戦略であり、これが実現できなければ冒頭に書いた結論の通り、「未来永劫覆ることのない永遠の敗北と隷属」が確定し、日本という国家は事実上消滅します。 

そのようなディストピアを迎えないためにも、弊社はもちろん、国やその研究機関、国内の有能な企業や大学が垣根を超え、総力を挙げて結集する必要があります。 
誤解を恐れずに言えば、その間はその他すべての可能性を捨ててでも、この戦略一本に懸ける価値と意義があり、それ以外の選択肢で生き残る道はあり得ません。 

この事実を現時点で事実のまま理解し、実際に行動しているリーダーを、国内ではソフトバンクグループ代表取締役 孫正義氏以外に私は知りません。 
この記事をお読みいただき共鳴していただける方は、ぜひ周囲にも呼び掛けてください。 
私は本件に関し、何ら金銭も地位も名誉も必要とはしておりません。 
技術的背景も学術的背景も資金力も不足している自分自身の力不足は悔しい限りではありますが、たとえそれらを備えていても、一人の力では何もできないでしょう。 

本川達雄氏著『ゾウの時間 ネズミの時間 サイズの生物学』で語られている通り、島国からは世界を一変させる大天才は生まれ得ないかもしれませんが、2024年のノーベル物理学賞を受賞したジェフリー・ヒントン教授の深層学習の煌びやかな成果の裏には、数多の優秀な日本人研究者による礎があることを日本人自身でさえ知る人は多くありません。 

その力を結集した時、かつて米国さえ恐れた世界的にも類を見ない力が発揮されるでしょう。


















































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