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手術後に見せられた肉片
結局、乳房温存術はしないこととなる。わたしの母がなんか言ったみたい。いのち優先だからそんなことは後回しに。
わたしもいのちを優先してしてほしいし、おっぱいがなくても平気だ。生きることとおっぱいが無いかどちらかを選べというなら生きること。比較することすらナンセンス。
こんなしてたらあっという間にFECとタキサンの治療が始まった。これとて抗がん剤なのでそれなりの副作用がある。投与したあと1週間はものすごい倦怠感と、口内炎と味覚障害などが襲って来たみたいだ。
わたし自身の経験ではなく表現が難しいがかなり辛そうである。しかしその後は普通のからだに戻り普通の生活に戻る。仕事も行けるし家事もこなすし母親にもなる。
この上がったり下がったりのテンポがもう何回なのか忘れるくらいな時、夏を迎えて手術することになった。
手術前日から入院して翌日10時からの開始。手術台に横になった妻はなんかニコニコしている。楽しそうだ。これから命に関わる大手術が始まろうというのに。
早く悪い組織を切り取って元気になれるから嬉しいのだ。なんて無邪気な。この後も癌との厳しい戦いが続くのだがそんな苦労なんて気にしない。そんな根性の座った男みたいな女。
今まで泣き言とか八つ当たりとか一切ない。どんだけしっかりした人か。
午前10時から始まった手術は、予定時間を2時間遅れで終了した。
ご家族のかたはこちらへと案内された控室に執刀医のT先生が手術衣のままステンレスの角形パンに肉片を乗せてわたしたちに見せた。
それは、切り取った妻の右胸の肉片だった。試薬か消毒液かの緑色をした乳房。乳首まで付いている。
なぜか目を背けずにちゃんと見ることができた。