小説 『夜行秘密』
敬愛してやまないindigo la Endの6枚目のアルバム『夜行秘密』を小説化した本作。
様々な後悔を重ねながら、それでも前に進む者、前に進めない者。
失意と後悔に塗れた群像劇。
明るい恋愛小説かと思ってたら、中身はドロドロの人間模様な小説
読後の感想としては
どうしてこんな結末になったん?と思った。
良い意味で。
いや、アルバムラストの曲が
「好きにならずにいたかった、あなたを知らずにいたかった」
で終わるようなアルバムだから、気持ちのいい終わり方ではないだろうと予想していたけれど、これは後味悪いね…。
最初は各曲ごとの短編小説だと予想していたけれど、良い意味で裏切られた。
7人の人物による群像劇。
一見バラバラの視点のように思えたけれど、絡み合って繋がっていく様は読んでて素直に面白かった。
好きなストーリーは
・夜行
・夜風とハヤブサ
・華にブルー
・チューリップ
・不思議なまんま
・夜の恋は
夜行は凛と英二の出会いの話
曲の『夜行』は、重苦しい雪荒ぶ夜ってイメージ。
ラストの歌詞の
「夜の先に春はなかったみたいだ。
夜行秘密、一人で握った」
これで本編の結末がなんとなくわかるね。
夜風とハヤブサは宮部監督と早苗が離別する話。
個人的な話をすると、頭の中で想像する宮部監督の顔が、どう想像しても庵野秀明にしか想像できないんだよね。
宮部監督の所業が最悪過ぎて庵野秀明もちょっと嫌いになりそう。
印象的なセリフは早苗の「あなたの事が一個もわからない!」
いや、そりゃあわからんやろ
曲の『華にブルー』はアルバムの中で1番好きなんです。
「背中見たら大体わかる
重い空気も半分こ
隣にいなきゃおかしい、そんな程度でいれたら」
曲自体美しいし歌詞も良い。
そんな1番好きな曲で、作中1番ショッキングな事が起こる話が華にブルー。
この話を読み終わった時は衝撃的過ぎてその日はもう続きを読めなかった。
展開はなんとなく分かってたんだけど、凛の退場の仕方が悲しすぎてヤバたん。
チューリップはちょっと予想外の人物達の話だったけれど良かった。
やっぱりチューリップの色ごとの花言葉は持ち出すよね。
告白シーンとかめっちゃ好き。
けれども『チューリップ』のMVを観て分かると思うけれど、この曲が1番失恋色の強い歌。幸せになろうだなんて甘っちょろい考えは許されません。
作中の『愛の告白』の赤いチューリップが雪で白に塗れて『失われた愛』になって行く様はどこか情緒的。
「ああ、寒いな」
『不思議なまんま』も好きな曲。
indigoなりのひねくれた応援ソング。
けれどもこの話には応援的要素は皆無。どこいった?
しかし、英二の『怒り』を風化させないという意識には感嘆すら覚える。
なぜなら私自身、怒りを一瞬で風化させてしまうから。
去年の不祥事も、1日寝たら内心許してしまえていた。怒りが頂点に達し、腸がマグマのように煮えくり返るような気分が一晩寝るだけで凪のように落ち着くのだ。 私にも至らない所はあったから、、という思いも多少はあるからだと思う。
しかし、何度も同じ事を繰り返されると心に傷を負うし、愛というものは失望に変わっていくものなのできちんとお別れしたんですけどもね。
まあそういうのもあって、英二をちょっと応援してしまいます。
「それは、彼女と僕だけの秘密です。」
この物語はこの一言に集約されていると思う。
結局、当人たちにしか分からない事ってありますもんね。
『夜の恋は』のラストは「好きにならずにいたかった、あなたを知らずにいたかった」をしつこいぐらい繰り返します。
凛と英二が出会わなければ。
凛と宮部が出会わなければ。
音色と宮部が出会わなければ。
凛と音色が出会わなければ。
こんな結末にならなかったのかもしれないと夢想しています。
それぞれの人物に100パーセントの共感はできないけれど、人間くさい部分にほんのちょっと共感できてしまったりする。愛や恋の醜い部分もかなり描かれてるし、何より、indigoの楽曲の一部歌詞が組み込まれてるのが良きだね!
ファンとしては非常に良きです。
次のアルバム『哀愁演劇』も是非小説化してほしいな、と細々と願っております。