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【短編小説】探偵は、死体とともに歩む。(3880文字)
冒険者のかたわら探偵をしているクロは、街を警備する隊長のロックに無理やり仕事を押し付けられる。今回の事件はバラバラになった遺体の調査。クロの能力をもってすれば、簡単に片付くはずだったが。
「せめて、頭部でも残っていればな。直接犯人を聞き出せるのに」
※グロ描写があります。念のため、苦手な方は読まないか、読むなら自己責任でお願いします。
「おい、クロ! いるんだろ!」
ドンドンドン!
ボロアパートの扉をそんなに力強く叩くもんじゃない。
聞きなれた音とはいえだ、こんな朝っぱらから借金の取り立てみたいな騒音と野太い男の声で起こされる、こっちの気持ちを考えろ。
どうせなら、能登〇美子さん声の女に「お・き・て」と耳元で囁かれるような目覚めを希望したい。あれ? 誰だっけその女? 急にそんな名前が頭に浮かんだけど。
――バァン!
扉を破壊するような破裂音。
そして、ズカズカと廊下を踏み鳴らす音が徐々に近づいてくるのを察知した俺は、布団を頭まで被ってしがみつく。
「やっぱり、いるじゃねぇか! 起きろ、おらぁ‼」
「げふッ!?」
お前、ほんとに街を警備する隊長かよ! と突っ込みたくなるこの所業。
布団ごと床へとたたきつけられているのが俺――クロだ。よろしくな。冒険者のかたわら探偵なんかをやらせてもらっている。
とか誰に、挨拶してるんだ?
寝起きのせいだろうか、さっきから、ちょいちょいおかしいぞ俺?
……まぁ、いいか。
それより、こいつが来たってことは後者の仕事の話だろう。
俺は、俺の平和を脅かし、安眠妨害の常習犯たる警備隊長――ロックを見上げ、物申す。
「言っておくが、仕事の依頼なら断るぞ。昨日は一日中ダンジョン探索して疲れてるんだ」
「そういうなよ。相棒」
誰が相棒だ。俺の能力が事件解決に適しているからって、こき使いやがって。
「今度の事件はすこしやっかいでな。ぜひお前さんの力を借りたい」
「また、誰か死んだのか。相変わらず物騒な街だな」
おかげで死体にことかかないのが、唯一の良いところ? いや、汚点か?
まぁ、物事の善し悪しなんて、見方ひとつでどうとでもなるんだから、考えるだけ馬鹿らしい。
自分にとって、それが有益かどうか、それだけでいいはずだ。
「金なら払う。大家に訊いたぞ。また家賃を滞納しているそうじゃねぇか」
「……あの口軽女め」
個人情報の横流しは御法度だぞ! 憲兵さんに突き出してやる!
「困っている美人大家の問題を解決すべく、この俺がお前に割のいい仕事を持って来てやったってわけさ。感謝しろよ相棒」
憲兵さん、こいつだったわ。オワタ。
「……まぁ、いい。確かに金はいくらあっても困らないからな。それで、仕事の内容は?」
『殺し』なのは間違いないだろう。
なにせ、俺を頼りに来るんだからな。
「百聞は一見に如かずって言葉があるらしいぜ。とりあえず現場に行くぞ」
「へいへい。まぁ、そっちの方が俺も手っ取り早いってもんか」
ズボンのベルトをカチャカチャさせながら玄関に向かい、一張羅のフード付き黒コートに袖を通しながら、俺たちは現場へと向かう、前にちょっと待て。
「おい、ロック。この扉壊したのお前だって、イザベルにはしっかり伝えとくからな!」
「……これは、やっかいだな」
死体の左前腕、上腕と右下肢しか残っていない。
周囲は血なまぐさく、床や壁一面におびただしい量の血痕が付着していた。どうやったら、こんな惨状がうまれるのか見当もつかん。
それに胴体はどこだ? せめて頭部でもあれば口もきけるんだが。
「残念ながら、頭部と胴体は持ちされていてな。俺が見つけた時にはこのざまだ。なんとかならんか、これ」
「なんともならんな」
せめて、死体を集めないことには死霊術師――いわゆるネクロマンサーを生業に冒険者をしている俺にだって、できないことはある。
ロックは、そんな俺の反応をみてわざとらしくため息をつく。
「そうか。だが目星はつけてある。こいつを見ろ」
そう言って、渡してきたのは一枚の似顔絵だ。
「こいつの名は、ロア。この死体の女とふたりでパーティを組んでた冒険者だ」
「ほう?」
「死体が発見されてか行方が分からねぇ。なにかしら関係があるのは間違いねぇだろ」
「たしかに、不自然ではあるな」
「だろ? さすが相棒。話が分かるねぇ」
だから、誰が相棒だ。誰が。
お前のことなんかこれっぽちもわからん。
このままじゃ埒が明かないな。
とりあえず、できそうなことをしてみるか。
「それ、ちょっと借りるぞ」
俺は、死体の左上肢を木製のテーブルの上に置き、手首から下を切断する。
「おい! お前なんてことを」
「黙って、見ていろ」
残された手首、それに向けて暗い魔力を流し込み、唱えた。
《断片の追求》
すると、手首が意思を持ったように五指の指だけで立ち上がる。
「気持ちわる⁉」
「ロック、お前もゾンビにしてやろうか!」
これは、ゾンビが人を襲う習性を利用し、考案した俺の魔法だ。
離れた自分の身体を探したりするのに、便利である。
これのおかげで、欠損死体のパーツ集めに苦労することがなくなった。
決して、気持ち悪いものではない。
むしろ、よく見ろよ。かわいいだろうが!
「わかった。わかったから、そいつを俺に近づけるんじゃねぇ!」
「ちっ!」
まったく、失礼極まりない。
《よし、それじゃ捜索を開始してくれ》
そう命令すると、手首はカサカサと指を動かして移動しはじめる。
俺とロックは顔を見合わせて、追うことにした。
まぁ、話せば長くなるので端折るんだが、死体が全部そろうことはなかった。
「ふーん……、どうして?」
艶めかしく足を組んだイザベルが、ちょっと気になったので聞いてみた感じで、俺の話を促す。
「頭部は無事だったんだが、胴体に関しては持ち去られた後、中身を掻き出して、トイレに流したらしい」
「想像しちゃったじゃない。聞くんじゃなかった」
いや、説明を求めてきたのはイザベラさんですよね?
事件解決後、俺の住むアパートの大家――イザベラの部屋に呼び出された俺は部屋の扉の件で呼び出され、憲兵も真っ青な尋問の最中だったりする。
「そんなことをしたクソ野郎が、ロックってことね」
「そうそう。だから、俺はただ巻き込まれただけの被害者で、扉の修繕費もですね。あいつが支払うのが当然だと思うわけですよ」
結論を言おう。
あの死体の死因は服毒。しかも自殺だった。
原因は人の扉を壊して入ってくるような街の平和を守る憲兵かつ隊長のロックが死体の女性――アリスをレイプしたことがきっかけになったらしい。
これは、アリスの頭部を見つけた後、俺の能力で本人に確認したらから間違いない。
死者曰く、ロックの体液を飲まされたことが気持ち悪くて、死んでもいいから身体を消毒しようとした結果があれだ。
バラバラになっていたのは、行方をくらましていた男の人形師が、死んでいる彼女を見つけたあと、頭部を利用して、人形を創ろうと持ち帰ったらしい。
ふたりは、今月、結婚する予定の、そんな仲だったそうだ。
どうしても、アリスを失いたくなかった。
その思いがあの男を狂気へ誘ったのだろう。
大体、今日のロックの様子はおかしかった。
あいつが、胴体と頭部が持ち去られているだの、犯人の目星をつけているだの、あいつがそんな仕事熱心なわけがない。
現場に来た時点で、どこか妙な違和感があったが、まさかこんな結果になるとはな。
依頼主からの支払いもなくなり、残ったのが壊れた扉の弁償代という理不尽さだけなのだから、本当にくたびれ損でしかない。
予想外にも、程があるわ。
「まぁ、話はわかったわ。あんたにも同情してあげる」
「ほ、ほんとか!」
「えぇ、今週中に滞納分の家賃を支払えなければ、奴隷商に売り飛ばすわ」
命があるだけ、優しいわよね。私。
「そ、そうっすね……。必ずお支払いしますんで、どうか命だけは!!」
「酷い目にあった」
イザベルの部屋から、逃げるように街に来たが、短時間で高収入な割のいい仕事があるだろうか? いや、あるんだけどさ。
殺人事件なんて死体から犯人を教えてもらう簡単すぎる仕事なはずなのに。
あのクソ野郎のせいで散々だ。
「あーあ! どっかに金のなる木で落ちてねぇかな!」
そう、空に叫んだ時、なにか、上から降って。
――ブチュ! ビシャ!
「きゃーーーー!」
「ビルの上から人が! おい、誰か憲兵を呼べ!」
周囲の人々が騒ぎ立てるなか、俺は見ず知らずの男のひしゃげて跳んだ血を全身で浴びていた。
「くせぇ……」
血やら、内臓やら、眼球やらと。
いくら慣れているからと言って、素肌で触りたいものじゃない。
臭いも落ちにくいし、なにより汚い。
俺はなんとなく上を見上げた。
そこに人影のようなものを見た気がする。
つまりこれは、
「殺人か?」
これは、金になる木がする!
死体は全部、俺の足元にそろっている。
《おい、お前。目を醒ませ。訊きたいことがある》
「……あ、あ?」
《お前を突き落としたやつについて、詳しく教えてくれ。俺は探偵だ。どんな殺人事件でも死体さえそろっていれば数秒で犯人を見つけてやれるからよ!》
まぁ、見つけられるだけで荒事は前衛まかせだけどな。
「さぁ、家賃のために、もう一仕事するぞ!」
そう、気合を入れて捜査に乗り出す俺である。
なんか、思い付きで殴り書きました。
長くなりそうだったので、途中から回想になってしまいましたが、気が向いたら、このお話をちゃんと書こうかな。
うん。ゆるい!