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【短編】 災い転じて、私は成る!(2575文字)

あらすじ


 雪が降る12月の早朝。雪成(せつな)は、寒さに震えながらも、おでんを食べることを夢見ておつかいに!でも、次々と予想外の災難が降り掛かって——。

 雪と欲望と失言が織りなす、雪成(せつな)のとある奮闘記。


 
 寒い。手の感覚が麻痺するくらい、寒い。

 真っ白な空を見上げて息を吐く。
 私の熱が、水蒸気になって宙を漂うのを眺めながら、悟った。

「こんな日に、おつかいを頼むとか、母の心は雪より冷たいかもしれない……」
 
 季節は冬。深々と雪が降り積もる、冬だ。

 ポケットには手を、母には心のなかで突っ込みを入れつつ、凍結した路面に足を取られないよう慎重に進む。

 「もう、失敗なんてしない! 私は、もう失敗なんてしないんだ!」

 そう吠えた私は、寒さに身体を震わせ、こんなことになってしまった経緯を思い出していた。

 ——「雪成は今日の晩御飯、なに食べたい?」

 そんな、何気ない母の一言は、

 ——「おでん! 熱いお出汁が『じゅわ~』って広がる、がんもどき! 」

 という、私の欲望を産み出し、

 ——「じゃぁ、『お使い』お願いね。お母さん、洗濯してるから」

 絶望を生んだ!

 そして、私は、おこたを取り上げられ、寒空のしたに放り出されたんだ! 酷い話だろう!?

「……にゃーん」

 塀の上のトラ猫に、そう目で訴えかける。
 返事は『にゃーん』だそうだ。
 かわいいやつめ。
 はぁ……。

 「おでんなんて、言うんじゃなかったな……」

 ほら、思ったそばから、口に出す。

 冷たい風が責めるように、私の頬を刺しまくる。

 口は災のもと。しかし、私は災いすら転じさせて福と成そう!

 おでん——じゅわっとお出汁の『がんもどき』を、頬張りたい。その至福の瞬間のために私は、いま、とっても頑張っている!

 近所のスーパーまで、あと5分くらいの道のりだ。

 イケる! 私の決意を挫き、歩みを遅くする雪が、もうここにはない!

 近所のおじ、おばの早起きと、雪かきテクによって、この辺の雪はすでに一掃されていた。

 首から掛けたタオルで顔を拭くじじ、ばばの笑顔と光る汗。そこに向けて「おはようございます」と感謝の意を表明しながら、足早に突っ切る私は、なんともできたやつではないか。

 これは、もらった軍資金で大吟醸『八◯山』を追加で買っても許される善行だ。そうに違いない!

 「あったまるぞー!」

 スーパーに着いた私の足取りは、雪でベシャベシャになっている靴の重さなんて忘れたように軽やかだ。

 買い物カゴに、おでんセットと八海◯、あと柿ピーもGETして、Pay◯ayで支払い、エコバック片手に家に帰る、と母が鬼の形相でレシートを握りつぶした。👹

「そのまま庭の雪かきしてきな(#^ω^)」
「……はい(´-﹏-`)」

 私の浮かれきった心まで握りつぶす母。

 心が冷たいどころか、ないのではないか?

 ちょっと、柿ピーに続けて、手羽先と焼き鳥と抹茶アイスも、こっそり追加しただけなのに。

「……」

 晩御飯にもなるから許されると思った私が、悪いのか? そんなはずは、ない?

 考えても仕方ないな。

「しょうがない、さっさと済ませよう」

 私は、玄関に用意されていた雪かきシャベルを引きずって、白銀の世界にトボトボと引き返すのだった。


「終わったー……」

 永遠に終わらないかと思った。

 スマホを開くと『15:10』と表示されている。

 雪かき終了と同時に、私の休日も終わりを宣告されたようなものだった。

「やれやれだなぁ〜」

 それでも、私は、本日の成果を見つめて、ニヤけてしまう。

「全部、お前のせいだ……」

 まったく。

 さて、こうして休んでもいられない。

 おでんと◯海山が私の帰りを待っている!

 「おかーさーん! 見て見て〜」

 私は本日の成果を報告しにダイニングへと向かった。それと、もうひとつ。

「あら? 随分、時間かかったわね」

「いやー、興が乗ったもんでして。それで——」

 母の腕を引いて庭へと案内する。

 私の成果をみた母の呆れ返った顔は、なんとも愉快なものだった。


「かまくらなんて、雪成にしては風情があるわね」

 私にしては、とはどういう意味だ?

「いやー、スーパーの途中でかまくら見かけてさ。せっかくだから、かまくらの中でお酒呑みたいなぁ〜って」

 かまくらに母を連れ込み、コンロを挟んでおでんをつまむ。
 床にはキャンプ用の断熱シートを敷き、古いラグマットを重ねた。さらに、ブラケットまで用意したから、そこまで寒さは感じない。

 かまくらと言うには少し無理がある、大人二人が屈んで、やっと入れるくらいのスペース。壁や屋根が崩れないか気にはなるが、まあ、置いておこう。

「いやー、酒が美味い!」

 労働の後の酒は格別だ!

「……この行動力を勉強に活かしていれば」

 「やめてよ。酒がまずくなる」

 母の白けた目をかわし、取り皿の上のがんもどきに箸を突き刺す。そのまま左右に開くと立ち昇る湯気とじゅわ〜とお出汁が器に広がって、それを見ていた私のお口も、にま〜ってだらしなく開いた!

 これだ! これこれ! 私が追い求めて来た、がんもどきは!

 しかし、なんで人気ないんだろうな、がんもどき。ご飯に乗せて食べるとお出汁が出て美味しいのに。酒の締めご飯とかにピッタリなんだけどな?

「娘が、まだ若いのにどんどんオヤジ臭くなっていく」
 
「そんなことないよ! 普通だって」

「どこに、がんもをつまみに酒を飲む20歳(はたち)がいますか」

「ここにいまーす」

「あんたは……はぁ〜」

「いいじゃん! 別に、私は好きなんだから」

「こんなんで、将来、大丈夫かしら?」

 うわー。でたよ。また面倒くさい感じになってきた。

「心配いらないって、今日だってほら」

——災いなんて、自分でどうとでもできる!

 私は最強ー! ってなんかそんな歌あったよね? あんな感じ!

「こんど、お見合いでもセッティングしようかしら?」

 母の急な一言に「ぶふぅー!?」とブレーキをかけられず吹いた酒が雪に染み込むのをみてしまった。
 また、この人は、とんでもないことを!

「やめてよ! 絶対やめて!?」

 無視するなー!
 あぁ、なんか真剣な顔で考え込んでいらっしゃる。
 結婚とか、まだ考えたくないんだって!

 私は、私のやり方で、幸せを掴むから!

 ただ、今は——

 「酒が美味い! がんも最高!」

 これでいい。これが、いいのだ。

 雪成(せつな)

あとがき

もっと軽妙に軽く書ければよかったんだけどな。次回も頑張ろう。

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