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暴力はどこから生まれるのか? いかにして克服できるのか?

映画『2001年宇宙の旅』の冒頭シーンでは数百万年前の世界が描かれています。猿人たちの前に突然黒い石板状の物体「モノリス」が現れます。それに触れた猿人には知性が芽生え,それと同時に道具を手に残忍な暴力を振るうようになります。そして猿人が投げたその道具は時空を超え宇宙船に姿を変えます。この印象的なシーンは「暴力」が人類の進化の産物であり,私たちの知性の奥底には暴力が潜んでいることを暗示しています。本当に私たち人類と暴力は分かち難い関係にあるのでしょうか。

     <日本心理学会・小森政嗣先生の論文の冒頭より>

黒豹コメント:

♣ 暴力のない社会を目指すにはどうしたらいいのか ♣ 

ご参考までに、15年ほど前に書いた拙作の一部をご紹介します。
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 <山の教会のイベントで起きた惨殺事件のシーン>

 参加者全員が、地獄の様相を見せながら息絶えた二人の若者が、せめて天国で結ばれることを祈った。
 そのとき、食堂の隅で静かに話を聞いていた老齢な牧師が立ち上がり、語り始めた。
「誰の心にも悪を生む欲望は潜んでいるものだと思います。それを人間の獣性と表現してみます。人間の心は四つのパートで出来上がっており、一番根底にあるものがこの獣性です。これは私たちが生きて子孫を残すために必要な食欲、性欲、暴力と深い関係があります。人間の競争心、闘争心などもここから生まれてきます。その上に人間だけが持つ高度な精神活動があるのです。一つは社会性です。二つ目は他の人間に対するです。これは慈悲の心につながります。三つ目がプライドです。これが他者への尊敬へとつながるのです。私たちは、それぞれ二十五%のウエイトを占める獣性、社会性、愛情、プライドの四つを背負って生きております。しかしこのバランスが崩れたとき、人は人間を捨てその獣性が牙を剥き始めるのです。皮肉なことに神は、種の保存という目的で人間の獣性に快楽を与えました。獣性とそれを抑える力が拮抗した場合、獣性が優先するようにできているのです。これからも決して楽観視はできません。わずかな欲望の引き金により暴発する無数の地雷が、すでに社会の深層に埋め込まれているからです。もちろん私たちの手で――」
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ある日突然、獣性が鎌首をもたげないよう、あらゆる人々がプライドを持てる社会の構築と、相手を思いやる心で隣人に接することが大切なのだろうと思います。もちろん、自らの戒めも含め。

💀霊長類のチンパンジーと人間だけに見られる残酷な行動原理💀

ライオンなどの猛獣でも、食糧の獲得とメスの奪い合い以外には暴力をふるうことは極めて少ない。それも、相手が身を引けば、追いかけてまで殺すことはない。また、徒党を組んで、山の向こうに棲む平和な集団のオスたちを殺しに出向くこともない。だが、チンパンジーと人間だけは違う。

♦ 現代の暴力や戦争に繋がっていると思われる認知能力の進化 ♦

1.時間的な認知能力の進化
いつか相手は襲ってくるかもしれないという、将来的リスクの予想。

2.空間的な認知能力の進化
あの国を乗っ取れば、かなりの利益になるはずだという予想。

これら時間と空間の残酷な認知能力により、暴力や戦争が始まる。

ただ、現在頻発する強盗事件にしても、女性がハンマーや包丁を振りかざし老人に襲い掛かったという話は聞いたことがない。チンパンジーと人間の暴力の発端は全て、オスの行動原理による。

同じ霊長類でもボノボの社会は、集団内、集団間ともに暴力が極めて少ないことが知られている。それは、ボノボにはメスが主導権を握る社会が構築されていることに起因すると考えられている。

10年ほど前、気候変動に端を発し、暴力により文明が崩壊していくSF長編を書きましたが、もし文明の進化に女性が主導的に関与していれば、人類は破滅を迎えることは無かったかもしれないというメッセージをエンドに込めました。そしてそれは今、じわりと現実化しております。
激甚化する温暖化被害戦争など、今、現在、世界は誰もが想像していなかった深刻な状況に陥っております。平和な世界を維持していくためにも、ボノボの社会を参考にし、女性が主導権を握る世界へのパラダイムシフトを検討してみることも、あるいは必要かもしれませんね。


最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考文献>
京都大学霊長類研究所 古市剛史教授論文「ヒト科に見る殺しの進化」



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