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政治月録by井芹浩文 2024年10月 自公惨敗、過半数割れ~立憲民主が躍進~

「日本創生解散だ。国民の信任を得て、新政権の掲げる政策の後押しをお願いしたい」―石破茂首相は10月9日、衆院が解散された後の記者会見でこう強調した。第50回衆院選挙(総選挙)は15日に公示、27日に投開票された。選挙結果は、自民、公明の与党が計215議席と過半数割れの惨敗を喫した。非自公勢力は立憲民主党が148議席を獲得して躍進するなど計250議席を得た。総選挙を受けて石破首相は引き続き、政権を担当するものの「少数与党内閣」となった。

▽党首討論のみ、予算委員会見送り

第214回臨時国会は10月1日、召集された。同日の衆参両院本会議で石破氏が第102代首相に指名され、直ちに石破新内閣を発足させた。4日の所信表明演説で、石破首相は「政治への信頼を取り戻し、納得と共感をいただきながら安全安心で豊かな日本を再構築する」と表明し、①地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増を目指す、②2020年代に最低賃金を全国平均1500円に引き上げる、③防災庁設置への準備を推進する―との考えを示した。

国会では7日に衆院代表質問、8日に参院代表質問、9日に党首討論がそれぞれ開かれた。十分に議論を尽くしたうえでの衆院解散を主張していた石破首相だが、前言を翻して野党が求める予算委員会の開催は見送った。一連の質疑で、野党側が裏金問題への厳しい対応を求めたほか、安全保障問題をただしたのに対し、石破首相は「各選挙区の事情や当選の可能性などを踏まえ、適切に判断する」と述べるにとどまった。日米地位協定改定やアジア版NATO(北大西洋条約機構)構想について「一朝一夕で実現するとは考えていない」と答弁し、総裁選中の積極姿勢から後退した。党首討論で、首相は使途公開が必要ない政策活動費について「衆院選で使うことはある」と述べ、ここでも後退姿勢が明らかとなった。

野党は9日、一致して石破内閣不信任決議案を提出したが、採決前に、石破首相は衆院を解散した。政権発足から8日後の解散は戦後最短となる。解散後の臨時閣議で「15日公示、27日投開票」の衆院選日程を決めた。

▽石破首相、外交デビュー果たす

石破首相は10、11両日、ラオスの首都ビエンチャンで開かれた日ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議やASEANプラス3(日中韓)首脳会議、EAS(東アジア・サミット)、AZEC(アジア・ゼロ・エミッション共同体)首脳会議に相次いで出席し、外交デビューした。首相は10日、ビエンチャンで中国の李強(リー・チャン)首相と会談し、日中間の戦略的互恵関係を推進することで一致した。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領やインドのモディ首相とも会談した。

▽裏金議員は12人非公認、大半を公認・重複なし

石破首相にとって衆院解散するに当たって最大の課題は、政治資金パーティー収入の不記載問題を起こした議員の公認問題だった。10月4日付朝日新聞は「裏金議員を原則公認へ/比例重複も容認」と報じ、報道他社も追っかけて報道した。これに対し野党は「国民感情から絶対に受け入れられない」(野田佳彦立憲民主党代表)などと一斉に批判し、世論の逆風も増した。

これを受けて石破首相は6日、裏金議員6人を非公認とするとともに、公認する不記載議員は重複立候補を認めないことを発表した。非公認となったのは、自民党の処分基準で「選挙非公認」より重い処分を受けた下村博文、西村康稔、高木毅の3氏(いずれも党員資格停止)と、「選挙非公認」より軽い処分であっても処分継続中で、国会の政治倫理審査会に出席していない萩生田光一、平沢勝栄、三ツ林裕巳の3氏だ。

これに対し7日の代表質問で、立憲民主党の野田代表は「(裏金議員の)大半が公認され、党のお墨付きを与えることに国民の理解は得られるか」と厳しく追及した。石破首相は「甘い処分で幕引きを図ろうとは認識していない」と反論した。自民党は衆院解散の9日、選挙対策本部会合を開き、裏金議員6人を追加して非公認とすることを決めた。裏金議員の非公認は計12人となった。追加非公認となったのは、党役職停止6か月だった中根一幸、菅家一郎、小田原潔の3氏、戒告だった細田健一氏、処分には当たらない幹事長注意だった今村洋史、越智隆雄両氏。うち越智氏は不出馬を表明した。裏金議員44人の大半が公認された。なお非公認議員が当選した場合、追加公認もあると石破首相は認めた。

▽自民・公明・維新が後退、立民・国民・れいわ躍進

総選挙は10月15日、公示された。与党である自民、公明両党や野党の立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党、れいわ新選組、社民党、参政党、みんなでつくる党、諸派、無所属から1344人(小選挙区1113人、比例代表881人、うち重複立候補650人)が立候補を届け出た。うち女性候補は314人で過去最多。小選挙区定数の「10増10減」による新区割りでの総選挙は初めてだ。

選挙戦では、政治とカネの問題に加えて経済、外交問題でも与野党が対立した。自民党の石破総裁(首相)は「日本創生のための選挙だ」と指摘し、「与党(自民、公明両党)での過半数確保」を目標に掲げた。逆に立憲民主党の野田代表は「裏金隠し解散だ」と指摘し、「与党の過半数割れ」を目標に掲げた。

報道各社の事前予測では、序盤情勢としては「与党過半数見通し」(17日付読売新聞)などと報じられていたが、終盤情勢では「自公、過半数微妙な情勢」(21日付朝日新聞)、「与党過半数は微妙」(22日付熊本日日新聞)、「与党過半数の攻防」(25日付読売新聞)と投票日が近付くにつれ与党不利の情勢が報じられた。

選挙終盤の23日付の共産党機関紙「しんぶん赤旗」は、自民党本部から非公認候補が支部長を務める自民党支部に対して、公認候補と同額の2000万円が振り込まれたと報じた。自民党の森山裕幹事長は同日、振り込みの事実を認めたうえで「党勢拡大のための活動費として支給した」と釈明した。立憲民主党の野田代表が「裏公認だ」と猛反発するなど、選挙情勢を動かす大きな要因となった。

27日投開票の結果、自民党は191議席と公示前の256議席から大幅に後退し、公明党も24議席と公示前の32議席から減少した。これにより自民、公明の与党としては公示前から激減して215議席となり、石破首相が目標とした過半数(233議席)を大きく割り込んだ。与党の過半数割れは民主党政権が誕生した2009年以来のことだ。

これに対し野党第一党の立憲民主党は148議席を獲得し、公示前の98議席から大幅に伸ばした。野党で100議席を超えたのは民主党時代の2005年以来となる。野党第3党の国民民主党は28議席を得て、公示前の7議席から四倍増とし、れいわ新選組も公示前の3議席から9議席まで伸ばした。公示前1議席だった参政党は3議席を獲得し、公示前議席のなかった日本保守党が3議席を得た。

一方、日本維新の会は38議席と公示前の四三議席に達しなかった。共産党も8議席となり公示前の10議席に及ばなかった。なお社民党は公示前と同じ1議席を維持した。このほか諸派・無所属は12議席(公示前14議席)となった。

▽裏金議員28人が落選

裏金議員のうち無所属で立候補した12人のうち当選したのは4人で、公認された34人は14勝20敗だった。下村博文、高木毅、丸川珠代、武田良太、衛藤征士郎各氏らが落選した。裏金議員は28人落選と厳しい結果に終わった。

投票率は53.85%。2021年の前回55.93%から2.08ポイント低下した。戦後最低となった2014年総選挙時の52.66%、2017年の53.68%に次いで戦後3番目に低さだった。不在者投票は2095万人(全有権者の20.11%)だった。前回より37万人増え、過去最多だった2017年の2138万人に次ぐ多さだった。

<ミニ解説>自民党総裁選を勝ち抜いた石破茂氏は、〝表紙替え〟のご祝儀相場のうちに早期解散に踏み切った。裏金問題に対しては一部議員の「非公認・重複立候補なし」で乗り切ろうとしたが、逆風は予想以上に厳しく、終盤の「2000万円問題」も痛打となり、自民・公明の与党は過半数割れの惨敗となった。
(井芹浩文=共通信元論説委員長)

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