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勝者のメンタリティー

仕事柄、おかげさまで、これまで多くの素晴らしいプロサッカー選手たちと一緒に仕事をさせていただく機会に恵まれた。個人名を挙げればきりがないが、今回は世界を代表する選手、人格者、元ブラジル代表のセザール・サンパイオから学んだエピソードを書いてみたい。

私がブラジルから帰国後、ご縁をいただき、サンフレッチェ広島に入社させていただいたのが2002年。残念ながら初めてのJ2降格となり、2003シーズンはJ2での戦い。1年でのJ1復帰が大命題のシーズンを迎えた。新チーム編成の中で、クラブに所属する外国籍選手3人がこれまでのヨーロッパ系から全員ブラジル人に切り替わることになった。

1月。見慣れないブラジルからの国際電話番号から携帯が鳴った。「森脇さんですか?初めまして。セザール・サンパイオです。聞きたいこと、お願いがあって電話しました。僕の車は大きいので、大きい駐車場を用意して欲しいです」元ブラジル代表選手からのいきなりの電話相談。通訳のこととか、お子さんをインターナショナルスクールに通わせたいなど、新天地広島での環境面、生活面の相談を受け、クラブに確認をしながら様々な受け入れ準備を進めたのを思い出す。

正直、プロサッカー選手である旦那は、練習会場・試合会場通じて、サッカーのわかる通訳が必ずいるので、なんとかなる。実は、最も重要なのが、ご家族が安心して生活できる環境を、クラブが用意してあげることができるか否かにある。お子様の教育環境のことだったり、お子様が病気になったときにすぐ近くに病院があるか否かだったり、近くに大きなスーパーがあるか否か。ご家族をケアできる言葉のわかるスタッフがいるかどうかだ。

さて、サンパイオ選手の凄さは、技術うんぬんよりもメンタルにあった。彼には「引き分け・負け」という概念がなく、「勝つことがすべて」の強烈なハングリー精神を持っていた。換言すると、「勝者のメンタリティー」と言える。

「なぜ日本人選手は、試合に負けたすぐ後の取材対応で、切り替えて次に向けて頑張りますって笑っていられるんだ?ボクにはワカラナイ。負けたら次はないんだ」サンパイオ選手のこの言葉の裏は、ブラジルの社会構造からきている。富裕層はごく一部で、国民の大多数は貧困層と言える。貧困層の家に生まれた子供が、貧困から抜け出す唯一の手段が「サッカーしかない」状況は今も変わらないといえる。「ボクがサッカー選手になろうと思ったのは、お父さん・お母さんに住む家をプレゼントしたかったから。明日食べるもの、着る服が必要だったから」だと。日本人にこのハングリー精神を学べといっても無理な話である。世界からみたら日本は裕福な国なので、生きていく手段としてサッカーしかない、という状況にはないからだ。

「ボクは試合に勝つことしか考えていない。ピッチに入るときは神様にお祈りし、怪我をせず無事に試合が終わったらまた神様に感謝する。もちろん、サッカーはスポーツだから負けることがあるのは理解している。でも、ボクは試合に負けたら、試合のビデオを何回も何回も見返して、何が悪かったのか、どうしたら良かったのか、一晩中考えて考えて、翌日のリカバリートレーニングを終えて、やっと次のことを考えることができるんだ」

とあるホームゲームの翌日、業務でサンパイオ選手の家に行かなければいけないことがあった。その時に、玄関に顔を出した彼は「廃人」のようだった。前日の試合、勝利を掴むために全力を出し切ったので、まるで抜け殻のようだった。ワールドカップで準優勝を果たしたブラジル代表選手が、1つの勝利のために「まさに命を削ってサッカーに捧げている」、真のプロフェッショナルの姿勢を見させてもらった。逆に、ここまで勝利に執着し、命を削ってプレーし続けてきたからこそ、世界を代表する選手になったんだと心から理解できた。クラブスタッフ(いわゆるフロント)も、クラブの勝利のためにすべてを捧げる、1試合1試合全力を尽くすことが必要だ。当たり前なのだが、その積み重ねの先にしか、優勝はやってこない。

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