第12話 しらたきたくさん
母が病気になりました。
病名は急性骨髄性白血病です。
残暑が厳しい2018年の秋、母は地元のスーパーと、ドン・キホーテと、その横にあるスーパー合計3か所の「みょうが」が小さくて美味しくないから、二子玉川の高級スーパーに連れてってくれ!と子供の様なわがままを言い始めました。
そんなにみょうがって味が変わるのでしょうか?疑問を抱きながらも私はもちろん快諾し、かばんを持って母の買い物のお供をすることにしました。
二子玉川駅は、私の最寄り駅とは違い、改札が端にあります。私にとってはなんてこともないことですが、闘病中の母にとっては大変長い距離なのです。しかも、二子玉川の駅は、ひとつのホームをふたつの路線が共有することもあって、たくさんの人が歩きます。
私は、急に避けられない母の盾の様に母の前をゆっくりと歩きます。周りの人は私のことを、自分から人を避けない邪魔なでかい傲慢な人と思ったでしょう。3、4歩進んでは、後ろを振り返ったり、ベンチを見つけては、母に座る?と確認したりしながら、ゆっくりとスーパーに向かいます。
二子玉川に来ると、母は、昔は遊園地があっってジャッカー電撃隊のショーを観たとか、高島屋しか無かったのに建物がたくさんできたとか、とても変わったね~と懐かしんだり、感嘆したり、それはそれはよくしゃべりました。
改札の前のエスカレーターを降りて食料品売り場へ向かうと、お目当ての「みょうが」そっちのけで、いろいろなものを見て回ります。次から次へと、いろいろなものを吟味しつつ私に、これ食べたい?と聞いてきます。私は、自分の好きなものを買いなよ、いつでも来られるからと返事をしました。
母は、途中なんどもベンチに座り、休憩をしました。
30分くらいの買い物でしたが、息切れしながらも、とても楽しそうでした。「みょうが」だけでなく夜食べるお弁当も買い、満足そうにお家に戻りました。
家に着き、母得意の床に買ったものを並べて満足する時間も終わり、私は、言われた通りに食材を冷蔵庫にしまいました。その時に事件が起こりました。
私の家の冷蔵庫なんですが、真ん中のひとつ下の段に野菜ようの引き出しがあるのです。実は、引き出しの上に2重に引き出しがあるのです。野菜だけを出し入れするときは、気づかないのですが、母に言われ、しらたきをしまおうとその2重になった引き出しをひっぱるとそこには!
しらたきたくさん!
驚いて、そのひとつをとり裏返すと、なんと!
ひとつは、賞味期限が2016年!
母にしらたきいっぱいあるじゃん!と指摘すると、母は、急に耳が聞こえなくなったふりをしました・・・・・。
その日以来、冷蔵庫には何が入っていて、必要のないものは、それは、冷蔵庫にあるよ!と私が伝えるようになりました。母は、そのたびに「うるさいわね~」というような顔をしました。その度に親子関係が逆転してしまった感じがして、ちょっと面白い気がしました。
(続く)
イラストは元吉茉莉花さんです。twitter(@marika_3o210 )
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