第4話 言い間違え
母が病気になりました。
病名は急性骨髄性白血病です。
入院して様々な検査が済むと主治医から説明があり、
抗がん剤治療に入りました。
母は、よく言えば、辛いところを見せない人間で、
悪く言えば、自慢ばかりして、欠点を言われると、
話を変える人でした(笑)。
入院したことも内緒にしろと言われ、
母が自分で伝えた人以外は知りませんでした。
母は、このとき77歳。
黒柳徹子よりは若いですが、毎日頭を使う仕事をしているわけではありませんので、頭脳は若いころに比べると衰えていたと思います。
77歳の平均よりは、理解力も、言動もはっきりしていましたが、
それと難しい医学の話はまた別でした。
検査結果の書かれた紙は、びっしりと英語と数字が書かれており、医者がそれについて説明をします。
悲しいことに医者の説明は、医学生や、研修医にでも教えるかのような説明でした。77歳のおばあちゃんには、もっと噛み砕いて、子供にでも教えるかのようにしないとわかるわけがありません。
医者が帰ると私は、スマホ片手に
「この数字が、悪い白血球の数だって。これを抗がん剤治療でやっつけていくんだよ。この数字が0か1になったら、正常なんだってさ~。」
と説明しなおします。
母は、
『あら、そう。良くなるのかしらねー。』
他人事です。
聞いていたと思いきや、母は、自分の話をし始めました。
抗がん剤治療を初めてから、食べ物の味があまりしなくなったと。
私はもしかしたら、そういう副作用があるのかもと、切なくなりました。
しかし、よくよく聞くと、病院の食事が薄いだけでした。
元々母は味付けが濃く、年と共に、普段自分で作っていた料理中の塩分が増えたから、余計にそう感じるのだと思います。
母は、皆さんの周りにいるお年寄りと同じで、同じことを何度も何度も言います。
びっくりするくらい、毎回、初めて話すのようなテンションです。
そう、この病院食の味が薄いという話を来る看護師さん、また来る看護師さんに、片っ端から話すのです。
もちろん、看護師さんもプロ。はいはい、と上手にいなして聞き流します。
でも、それを病室の中で聞きながら、違和感を覚えました。
母は、(抗がん剤治療で)私の味覚がおかしくなったのかしら?味が薄く感じるのよね~。と言いたいのですが、出てきた言葉は、
『口が悪いのかしら、味が薄く感じるのよね~。』
でした。いや、もう、それは悪口だから!
(続く)
イラストは元吉茉莉花さんです。twitter(@marika_3o210 )
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