第7話 しろくまくん
母が病気になりました。
病名は、急性骨髄性白血病です。
2018年も早いもので、2月に入りました。
冬はまだまだ続きます。
母の白血病の治療は、毎朝、とてもまずい液体を飲む以外は
点滴がメインでした。
悪い白血球のせいで、血小板や赤血球が破壊されてしまうので、
その補充も含めると、1日に多いときは7回も点滴をします。
1日の間で、何度も点滴をするので、腕には点滴用の管がついたままです。
77歳の母にとって何度も点滴をするのは負担が大きく、特に血管はもうボロボロで、2、3回点滴を終えると、その差込口からは、お薬や血小板がもう入らなくなります。
すると、違う差込口を探すために、また針を刺すのですが、それが必ずしもうまくいくとは限らないのです。
正直な話、看護師さんも全員が上手ではありません。研修医は論外です。
私たち、健康で働き盛りの人たちにとっても、年に1回行われる健康診断の血液検査でさえ憂鬱になるのに、70歳を過ぎ、ましてや病気で、日々の生活でさえ辛い母にとって、針を体に刺される痛みは相当辛かったと思います。
主治医の先生は本当にうまく、だいたい一度で針を刺すことに成功しました。しかし、毎回、主治医の先生が来るわけではないのです。研修医が来るときは、本当に地獄でした。一度も成功しないときもあるのです。
主治医の1年先輩は、まだトークが優しくて我慢できたと思います。が、腕に関しては、まだまだです。点滴前に4回も刺す場所を変え、結局、違う先生を呼ぶなんてこともざらでした。
母の両腕の内側は、徹夜をしたあとの目の下にできるクマのような色に変わっていました。痛々しいを通り越して、かける言葉も見当たらないような感じでした。
そんな治療も、いつか回復すると思って母は耐えていましたが、2回目の抗がん剤治療でも、残念ながら悪い白血球の数値が0になることはありませんでした。入院してから4カ月が経った時のことでした。
母は、抗がん剤治療を諦めました。
そして、通院しながらだましだまし過ごすという選択をすることに決め、退院することになりました。
いくら無菌室とはいえ、個室以外どこにも出歩けないというストレスは相当なもので、自宅に帰ると母はすこしほっとした表情になりました。幸い、入院生活で衰えた筋肉も、自分で歩いたり、お風呂に入ったりするのには支障がなく、半年ぶりに帰った我が家で嬉しそうでした。
まだ体力が戻ってきていない母は、入院期間中に食べられなかった「しろくまくん」というアイスを買ってきて欲しいと私に頼みました。
私は、早速ファミリーマートに行き、箱に入った6個入りのしろくまくんを買いました。
母は、「ありがとう」と言い、1本食べましたが、「これじゃない」と言いました。
どうやら、しろくまくんはしろくまくんでも味が違うそうです。
ドン・キホーテになら売っていると言うので、電車でドン・キホーテに行き、探したのですが、売っていませんでした。アイスのショーケースに値札があったので、店員さんに聞くと売り切れで、入荷次第並べるとのことでした。
それ以来、ことあるごとに、しろくまくんをチェックするのですが、なかなか入荷しません。普段なら、1日で3本くらいアイスを食べていた母でしたが、このしろくまくんは、全然減りませんでした。
代わりに母の好きなあずきバーを買っていきました。
以前と比べるとアイスの消費本数は減りましたが、冷凍庫を見るたびにアイスが減っているのを見ると、私は安心するのでした。
(続く)
イラストは元吉茉莉花さんです。twitter(@marika_3o210 )
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