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第5話 切り身が小さいっ!

母が病気になりました。
病名は急性骨髄性白血病です。

入院から1か月半が経ち、悪い白血球の値は順調に下がっていきました。応援する側としても、わかりやすく数値が良くなってるよ!良かったね!と言える状況でした。

母は、そんなこと(過程)には全く興味がなく、主治医に向かい『治るんですか?早く外に出かけたい。』そんなことばかりぼやいています。

それはそうですよね。もうすぐクリスマスや、年末年始。病室の小さなテレビで「陸王」を観るくらいしか楽しみがないなんて辛いです。

私は、入院してからというもの母が不憫でならず、毎回、オレンジジュースを買って行ったり、ダイエットのために止めていたスイーツを一緒に食べたり、病院の隣にあるスーパーのお惣菜コーナーで焼き鳥を買って行ったりしました。

オレンジジュースは、入院後にとても美味しいと感じるようになったそうです。抗がん剤の治療で免疫力が下がっているせいか、依然と比べるとすぐに熱が出るらしく、熱が出たときに最高だと言っていました。以前は、レモンジュースですとか、サイダーですとか、マンゴージュースを好んでいたのですが、好みが変わったようです。

病院食では、たまにプリンがでましたが、美味しいケーキが食べたいとよく言うので、買っていきました。和菓子や、パンも、ローテーションで買っていきます。その中でも特に、紫いものドーナツを喜んで食べていました。元気なときは、病室をこっそり抜け出して地下1階のコンビニまで一緒に行って、あずきアイスも買って食べました。

お陰で、ダイエットに成功した私ですが、徐々にリバウンドしていったのは、母には内緒にしておきました。

母の病院食に対する不満は、数えられないくらいありましたが、その中でも、メインの食材が小さく切られていることが一番だったように思います。

『今日は、魚の切り身がこれっぽっちだった!』

『とうふハンバーグが小さいっ!』

『も~こんな小さくてケチよね~っ!』

そんな母への差し入れにお惣菜が美味しそうな日は、買って行きました。その中でも、焼き鳥がある日(後に月曜日と火曜日ということがわかりました)は、なるべく焼き鳥を買って行き、共有スペースに置いてある電子レンジでチンして届けました。暖かいのと、味がわかりやすく濃いせいか、とても喜んでくれました。毎日、無菌室内でほんのちょっと歩くだけなので、足腰が弱ってきた母には、たんぱく質補給としてもよいと思えました。


そして、飲食物以外で母が喜んだのが旅行雑誌です。

中でも「旅行読売」と温泉地の雑誌、桜の名所の雑誌をとても喜んでくれました。

「元気になったら連れていってあげるから、早く良くなって」

いつもそうやって声をかけていました。

旅行読売は読み応えがあり、お見舞いに行ってる間に私も読みましたが、特集の切り口も工夫があって面白く、豆知識もたくさん使われていて勉強にもなります。なんといっても、入院は暇ですので、文字が多いので隅から隅まで読めるのは、母も楽しかったんだと思います。

旅行読売の広告で気になった本を買ってきてと頼まれることもありましたし、それ以来毎月何日になると、今月の旅行読売買ってきてと!催促されるようになりました。

そんなこんなで12月は過ぎていきました。

4週間ほど続いた抗がん剤と治療でしたが、数値的には入院前より下がったのですが、悪い白血球はゼロにはなりませんでした。

母は、抗がん剤による副作用もなく(我慢していたのかもしれませんが)、体力もあったので、2か月が無駄になってしまったと嘆いていました。

病院側は、連続での抗がん剤治療はできないとの説明でした。

そして、年末となり病院側もお休みになるため、治療は一旦ストップになりました。母は、病室で年を明けることとなりました。

(続く)

イラストは元吉茉莉花さんです。twitter(‏@marika_3o210 )

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