第10話 うなぎが食べたい
母が病気になりました。
病名は急性骨髄性白血病です。
2018年も夏になりました。
母は具合が良い日と、悪い日がありますが、自分の身の回りのことは自分でできました。私には迷惑をかけまいと、毎日頑張っているようでした。
そんなある日、急に母はうなぎを食べたいと言ってきました。
私は、さっそくリサーチをして、美味しいうなぎ屋さんを
何件かピックアップしました。しかし、どのお店もとっても美味しそうでしたが、家の近くにはないので車で行くことになります。
土日はお店や道が混むと母に負担になるので、私が仕事をちょっと抜けても大丈夫な平日に行こうと約束をしました。
約束の日に家に戻ると、母は具合が悪いからまた今度にお願いできる?とスケジュールを変更する。そんなことが2回続きました。
私は、なんとかして母にうなぎを食べてもらい、元気になってもらいたいと思い、うなぎ屋さんではなく近くで、うなぎも置いているお店を調べなおしました。
すると、しゃぶしゃぶの「木曽路」に期間限定でひつまびし御膳があるとわかり母にそう伝えました。木曽路なら今までに見つけたお店より遥かに近く、家から10分くらいなのです。
3度目の挑戦と思い、また母が調子が良い日を見計らい、車で木曽路に向かいました。その日は、なんと木曽路がランチ営業を終わっていて、泣く泣く
帰りましたが、次の時にやっと入れました。
母は、ニコニコしながらデザート付きの鰻ひつまぶし御膳を頼みました。
わたしが、そんなにたくさん食べられるわけがないんだから、小さいほうにすればいいのに!とたしなめると『いいじゃないの滅多に来られないんだから』と言い返しました。近いから、いつでも連れてきてあげられるよ。と私は言いました。
母は、10年程前に二人で名古屋に旅行した際に、熱田神宮のそばで、ひつまぶしを食べたのが忘れられない。そう思い出話をしてくれました。父が亡くなった後、もう反論できない父の悪口を言う母が許せずに、仲が悪くなった私は、会えば喧嘩となり、名古屋旅行が最後の旅行となっていたのでした。
病気になってから食欲が減った母でしたが、その日は、デザートまでたいらげ、『あ~食べすぎたたべすぎた』と満足そうに、家に着いてからも何度も何度も言い続けていました。
これが母の食べた最後のうなぎでした。
(続く)
イラストは元吉茉莉花さんです。twitter(@marika_3o210 )
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