第2話 ナンプラーがない!
母が病気になりました。
病名は急性骨髄性白血病です。
2017年11月1日から入院が決まった母。
当日は、仕事を休んで付き添うことになりました。
病院でもらった入院のマニュアルを手に、忘れ物がないか母の部屋に確認しに行って愕然としました。
母は、大富豪の海外旅行と言わんばかりに巨大なスーツケースひとつに、キャリーバックをひとつ、そして、ぱちもんのLesportsacのショルダーバッグにリックサックを用意しておりました。
そして、杖を片手に行く気満々でありました。
え、ええと、運ぶの私だよね?
きっと、これ不要な物がたくさん入っていて、本当に必要な物がどれか、どこに入れたか、チェックできないよね?
幸いにも、病院は隣の駅から1分の距離にあります。毎日通っても苦じゃない距離なので、忘れ物や、これが欲しいと言われたら取りに戻ることを覚悟しました。
流石にパスポートは持っていないものの、見た人は100パーセント旅行に行くんだと思うような。そんな荷物を私が押して、病院に向かいました。
入院の手続きをしたあとで、病棟に向かいました。
私は、会う人、会う人に恥ずかしそうにしているのですが、母は何食わぬ顔で、旅館にでも泊まりに行くかのように杖をついて、とっとこ歩いていきました。
以前の説明とは違い、ひとり部屋でした。薬剤師さん、看護師さん、事務員さんから立て続けに色々な説明を受けたのですが、母の心はここにあらず。
もう、荷物を開けてどんどん病室を自分の色に染める作業に没頭していました。
次から次へと出てくる、「使わないだろうな~」という物たち。
それを、あそこに置け、こっちに置けと、将軍様は私に命令するのでした。
そんなとき、事件が起きました。
「ナンプラーがない!」
「ナンプラーがない!」
母は、叫びだしました。
え?いつそんな調味料を持ってきたんだろう?
入院時の食事は、よく味が薄いと聞きますが、醤油でも、ソースでもなく、ナンプラー?最近、タイ料理にでもはまったのかと思ってみていました。
何分経っても、魔物に憑りつかれてしまったかのように
「あれ~ナンプラーがないのよね~」
「どこ入れたのかしら~???」
とナンプラー探しを止めません。
「知らない?」
と聞かれたので、瓶なのか、ペットボトルなのか尋ねると、予想外の答えが返ってきました。
「あったから、えんぴつと、消しゴム買ってきてちょうだい!」
なんのことかと思って母を見ると、得意気な顔で
ある1冊の本を手にしていました。
「(旅行中の)電車の中でおじさんがやっていて、
ずっとやってみたかったの!」
30分ほど大騒ぎをした結果、探していたのは、ナンプラーではなく、数独の本「ナンプレ」でした(笑)
初日から、先が思いやられます。(続く)
イラストは元吉茉莉花さんです。twitter(@marika_3o210 )
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