注目のあの企業のブランド価値はどうなった?Best Japan Brands 2024に見るブランド価値とコンプライアンス
先日、Interbrand Japanが毎年作成・公表しているBest Japan Brands 2024が公開されました。Best Japan BrandsはInterbrand Japanが財務情報などを基にした独自の評価基準で算出したブランドの経済的価値をランキング形式で発表しているものです。
2023年は大手企業を中心に大きな企業不祥事が相次いだ年でした。2023年不祥事を起こした企業のブランド価値はどう変わったのか、また過去に不祥事を起こした企業のブランド価値の回復などについて見ていきます。
なお、本記事の内容は筆者の個人的な意見であり、所属組織の見解ではありません。
2023年に不祥事を起こした企業のブランド価値
損害保険業界
2023年は多くの企業不祥事が報道された年でした。中でも印象に残っているのが、損害保険業界における2つの大きな不祥事(ビッグモーター事件と、損害保険料カルテル事件)でしょう。
これらの不祥事に関連して、2つの業務改善命令を受けたのが損害保険ジャパンです。特に、ビッグモーター事件との関係では、不正請求に対する事実認識が曖昧なまま取引再開の意思決定をしたことで厳しい批判を受けることになりました。
そんな損保ジャパン(SOMPOホールディングス)のブランド価値は、7.1億ドルから、6.25億ドルへ前年比-12%の下落となっています。SOMPOホールディングスのブランド価値は2017年の3.7億ドルから右肩上がりの急成長を遂げていましたが、今回は大幅下落に転じてしまいました(2024 Brand Value Chart Sompo Holdings - インターブランドジャパン (interbrandjapan.com))。
その他の損害保険会社のブランド価値を見てみると、カルテル事件への関与によって業務改善命令を受けることとなった東京海上日動は22.89億ドルから22.41億ドルへ前年比-2%の下落となりました。同社も2021年を除けばずっと右肩上がりの成長を続けていましたが、2024年度は下落に転じてしまいました(2024 Brand Value Chart Tokio Marine - インターブランドジャパン (interbrandjapan.com))。
自動車業界
もう一つ印象に残っているのは、日野自動車、ダイハツ、豊田自動織機とグループ会社で相次いで品質不正等が発覚したトヨタです。
トヨタのブランド価値は、なんと前597.57億ドルから、645.04億ドルへ前年比8%のプラスでした(2024 Brand Value Chart Toyota - インターブランドジャパン (interbrandjapan.com))。
各社とも不祥事によって認定取り消しや操業停止に織り込まれるなど深刻なダメージを受けており、グループ会社(別ブランド)の不祥事であることや、グループ全体に占める各社の売上の合計等を考慮に入れたとしても「成長」という結果だったのは驚きです。
企業不祥事とブランド価値
大きな不祥事を起こせばステークホルダーからの信頼を失い、ブランド価値が下落する。直感的には分かりやすいストーリーですが、2023年に起こった企業不祥事とブランド価値の関係を見てみると、ことはそう単純ではないことがわかります。
トヨタのように、不祥事が起こった年に成長に転じる例はあまりないのですが、例えば2018年から2020年にかけていわゆるカルロス・ゴーン事件の渦中にあった日産自動車は、2019年は約6%の成長、2020年は約5%の下落でした。
ブランド価値はコンプライアンスだけで決まるものではありません。不祥事の中身や広がりがどの程度あるのか、それが本業の収益力にどれだけの影響があるのかといった要素を冷静に見つめたうえで価値への影響が決まります。この辺りは、株価と似たような面があるかもしれません。
また、優れたブランドは困難な状況に見舞われたとしてもそれを克服し、利益を生み出し続ける強さを持っています。今回例に挙げたブランドはJapan Best Brandsに掲載される優れたブランドたちですから、大きな不祥事に見舞われてもダメージを最小限にとどめることができた、ともいえるかもしれません。
優れたブランドにはコンプライアンスは不要なのか?
ただ、だからと言って不祥事を起こしてもいいのだ、ということにはなりません。優れたブランドであれば、大きな不祥事を起こしても踏みとどまることができるかもしれません。現に、今回例に挙げた企業は不祥事の影響でブランド価値を下げたとしてもトップランクに残ることができました。
しかし、同じく不祥事が発覚したジャニーズ事務所はどうなったでしょうか。ビッグモーターはどうだったでしょうか。どちらも、多くの消費者に知られた優れたブランドだったはずです。
本当に強いブランドとは、適切にリスクをコントロールしながら、万が一にも耐えられるような強さを持つブランドであるはずです。不祥事が起こりそうな危うさを抱えたままでは、将来にわたって利益を出し続けるとの評価を獲得することは難しいでしょう。
コンプライアンスを上手に取り込みながらブランディングを行うことが、これからの企業に求められているといえそうです。
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