隕石の危機【読切超短編小説】
隕石が地球へと接近している。
人類は危機を迎えていた。
と言っても、
勿論、全く対策が無いわけではない。
こういった不測の事態に備え、
かねてより、
「地球外衝突因子研究対策本部」
なるものが設立され、
必要以上の潤沢な予算が振り分けられていた
今回も、そのお陰で、早期に発見し、
なんと衝突の10年前に
突き止めることができたのだ。
彼らのスローガンは、
「必要以上の対策」
今まで数々の隕石を撃破し、
栄光と、実績に満ちた花形部署。
そこの所長に新しく就任したN氏。
早速、使命を果たそうと、
政府とコンタクトをとった。
「資料のとおり、
危険な隕石を探知できました。
しかし、
私達は今すぐにこれを撃破できます。
そのために、潤沢な資金を
いつも援助して頂いています。
すぐに許可を。」
「分かった。すぐに協議を始める。」
報告が終わり、
N氏はほっとしていた。
きちんと処理できるだろう。
研究に情熱を注いだ甲斐があった。
まさに「必要以上の対策」
しかし、N氏は次第に、
落ち着いていられなくなった。
一向に政府からの連絡が無い。
もう3ヶ月が経った。
聞いた話では、隕石撃破の衝撃により、
周りの惑星運動に被害が生じ、
地球への影響はないかと、
議論をしているそうだ。
何をゴタゴタしているのだ。
一分一秒が生存確率に関わるのに。
とにかく現場に行かなければ。
遂にN氏は政府本部へと乗り込んだ。
「隕石撃破の許可を下さい。
我々が日夜、全てを捧げ、
研究に励んでいるのはこのためです。
資金も沢山。技術も十分です。
あなた方が、心配しているような
被害は何一つ出すことなく、
無事任務を完遂できます。
私達のモットーは、
「必要以上の対策」
こちらをご覧下さい。」
N氏は、徹夜でシュミレーションしてきた
資料をドンと机の上に広げた。
しかし、政府の役人達は、
一向に話を聞いていない。
それどころか高らかに笑い出した。
「はははは。
それだから君達は、花形部署ではあるが、
出世できないのだぞ。
いいかね。
10年先に地球に衝突する隕石を
撃ち落として、
誰がそのありがたみを感じるというのかね
自分が危ない目に遭う。
危機一髪という状況になって初めて、
人々は感謝するのだ。
安全を保障してやるより、
危険を味合わせた方が、
よっぽど感謝される。
我が国の宇宙開拓事業が
あまりうまくいっていないのを
知っているだろう。
民信は落ち、徴税もままならない。
そんな中、君達の部署にだけ
必要以上の潤沢な資金を提供しているのは
なんのためだと思う。
今こそ、その真価を発揮し、
国を取り戻すべき時だ。
すぐに研究に取り掛かってくれ。
事前に撃ち落とすより、
遥かに難しい技術が要るぞ。
しかし、君達ならやり遂げられる。
これこそ、私達が考え、立ち上げた部署の
スローガン。
「必要以上の対策」の真の意味だ。」
N氏は熱く使命に燃えていた。
この難しい課題を絶対に克服してやる。
誰にもできないことをするんだ。
研究者としての血が騒ぐ。
しかし同時に、
昨日までの自分とも決別していた。
絶体絶命、助かるはずのない状況での
全員生還。
防げたはずで、決して起こり得ない
有り得ない事故。
そのどれもが、と言うわけではないが、
1割くらいは今回のようなことが原因に…
【後書き】
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