果物、秋、栗
江國香織さんの「やわらかなレタス」を読み、朝昼の食事はたくさんの果物だという江國さんの生活に憧れを抱きました。うらやましい。読みながら最も食べたくなったのは枇杷です。枇杷を「やさしい」と形容するところでまず初めての表現に驚くとともに確かにやさしい気がするなあと納得しました。でも秋にはもう売ってないらしい。橙色って秋なイメージがあるからなんとなく枇杷も今くらいが旬なのかと思いきやそんなことなかった。はちゃめちゃな四季認識をなんとかしていきたい。
今年の3月、とっても好きなお友達の誕生日を祝いに、東京は九段下へ行きました。しかし目的のカフェは満席。それでもバースデー当事者と地図アプリの力によって代わりとなるレストランを発見し、入場することに。
目的地だと告げられたのはなんだか大層立派な建物だった。ビルディングじゃなくビルヂングというか、歴史がありそうな建物である。ただのレストランではないらしい。合っているのか再三確認したうえでおどおどしながら扉を開けると、スーツを着用した施設の方がお辞儀と挨拶をしてくれたような気がした。正面にあった階段の豪華さに仰天して記憶が曖昧である。
普段だったらそそくさと退場するだろう空間だったが、その日は話が違った。なんてったって誕生日である。ここで逃げてはならない。なんなら旅の恥は掻き捨てだし、若さゆえの無知としてすべての作法が許されるはずだと自身を奮い立たせた。
大広間の右奥にあったレストランににじりよると、定年くらいの上品なウェイターさんがにこやかに案内してくださった。入店は成功。午後2時を過ぎていたので、はじめは6人くらいの団体がいたものの、途中から私たちだけしかお客さんがいない状態になった。
奮発してコース料理(とはいうものの学生にとってのフンパツなんてマダムたちにとっては日常食事だろう)を注文し、ひとしきり浮かれたのちに私たちは戦慄した。テーブルマナーが、なにもわからないのである。
フォークが3本、スプーンが2本並べられた瞬間、なんとかなるやろと全く勉強しないで当日を迎えた二次関数のテストを思いだした。顔面蒼白、驚異の検索能力で得られた知識は「カトラリーは外側から使う」これのみだ。運ばれてきた食事はまさにあのテスト用紙だった。これは正解だろうと食べ終えた食器を、1番外側にあったフォークと共に回収されたとき以上に恥を感じたことは、ないです。
ここまではすべて前置きにすぎない。文字にしたいのは、この日の恥をつかの間忘れさせてくれたデザートのことである。ご覧ください。
どうですか?かわいらしさの頂点にいる。ちいさくて桃色で繊細。お皿を縁取る玉までもがかわいい。こういうかわいいものを見たり食べたりするために生きてるんすわ。
クリームの中に進んでいくと、刻まれた栗が入っていた。クリームもこの栗も何がどうしておいしかったのかもう細部の記憶が崩れてしまっているのが悔しいが、バースデー当事者さまと感動しながら食した。どういふ工合においしい?以前にどういふわけでおいしい?がわからない今、味蕾の強化合宿でも開催してほしい。私は特に栗を好んで食するタイプではありませんが、あまりのおいしさに栗へのリスペクトを感じました。それは覚えています。
再び食べに行きたいのはやまやまだが、早弁検定1級保持者ムーブゆえに「ゆっくり食べてくださいね。」と上品ウェイターさんにニコニコと言われてしまったので、もうちょい見合った人間になれたら再訪したい。
そんなこんなで数日後、図書館へ行くとちょうどこの建物についての物語が目立つ場所に置かれていた。やはり歴史ある場所なんだなあと読みながらしみじみ、何も知らずに行ったのを恥じ恥じ。でした。
吉報として、このデザートをデパ地下で発見したので再チャレンジできる未来が近づきました。デパ地下もドギマギするけどおいしそうでかわいいものがたくさんあって、夢みたいですよね。
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