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原発体制の安全保障問題は完全にガラ空き状態の日本が「原発と再生エネ活用を競争力の土台に」(日経2024年12月19日「社説」)などと脳天気以前のお花畑の発想(後編の3)

【断わり】 「本稿」は昨日まで公表されてきた「前編:4稿」の続きものである。できればこちらから読んでもらえると好都合である。

 

 ※-1「本稿全体」の記述:議論にとって有益と思われる論説や統計資料

 1) 「世界におけるウラン資源の分布状態」についての資料は,つぎの解説を観てほしい。この資料からは図解を1点引用しておく。

この図解のなかではウクライナに注目しておきたい
時期的にやや古いが参考にはなると思い引用した

 2)「〈長期連載-核カオスの深淵〉(27) ウクライナ歴史家の視座から③ 核不拡散に甚大な打撃 戦略的な重要性理解せず」『共同通信社』2022年9月出稿,https://www.kyodonews.jp/news/nuclear/post-106.html からとくに重要と思われる文節を,つぎに抜粋しつつ引用する。

 この解説は,いまなお戦いが止まらないでいる,2022年2月24日に始められた「プーチンのロシア」による「ウクライナへの侵略戦争」が,当初,平然とかつ堂々と「特別軍事作戦」(自国民向けの表現)などと称して開戦されたその理由・事情を,説明するものになっていた。

 「宇露戦争」は,2025年1月20日の今日まで,早2年と11カ月も戦争状態が続いたことになった。アメリカの新大統領に就任したあのトランプでさえ,この戦争を休止(停戦あるいは終戦をもって解決?)させるには6カ月かかると語っていたが,とくに民間人を平気で,それも意図的に殺しまくる「ロシア軍の最高司令官プーチン」が披露したその気質は,まさにスターリン譲りの狂気そのものであり,これからも当分は続くことになる。

 ところで,前掲した『共同通信』の解説記事には,聞いてみるべき必要:価値があった。ウクライナ問題をしるうえでよい参考になる。

 1994年12月5日,ハンガリーを訪れたウクライナ大統領クチマは「ブダペスト覚書」に署名した。米ロ英はウクライナの主権と領土を尊重すると誓約し,安全保障を約束した。片やウクライナはソ連の残した核兵器を完全放棄し,核拡散防止条約(NPT)に加盟する決断を下した。

 だが覚書は法的拘束力を伴わないうえ,違反行為への具体的な対抗措置も明記されず欠陥を内包していた。

 (中略)

 ▼ あしき先例 ▼

 クリミア併合でロシアが覚書を一方的に破棄したにもかかわらず,ウクライナを救済する効果的な対策が取られないまま,2022年2月24日,ロシア大統領プーチンはウクライナの大地を侵略する。核放棄の国際約束を果たした国が無残にも,核大国の餌食となってしまった。その含意は深淵だ。

(中略)

 NPTを順守しようと核放棄の大英断を下した国が,NPT体制の特権にあぐらをかく核大国の犠牲になった。その代償の重さたるや,強調しても強調しすぎることはない。ウクライナの惨劇を目の当たりにした国が仮に将来,核をもった場合,手放すことをためらう「あしき先例」を残してしまったからだ。

 (中略)

 「ウクライナの核放棄後,同国に対する米国の関心は霧消し,積極的で協調的な政策が不在となった。安全保障面でウクライナは拡大するNATOと徐々に好戦的になるロシアのはざまにあった。米国は民主化支援はしたが,長期戦略を描くことに失敗した。NATOは『いずれ加盟を』といいながら実際はなにも進まなかった。米欧はウクライナの戦略的重要性を理解できていなかったのだ」

 「オバマ氏が積極策に消極的だった理由にはウクライナの腐敗がある。軍事援助しても横領されず戦場で使われるのか確信がなかった。ノーベル平和賞受賞者としての評判も影響したのでは。米国が積極関与すれば,ロシアが事態をエスカレートさせると強く懸念したのだろう。そしてウクライナを全面支援しないかぎり,中途半端な策は逆効果を招くと考えたのではないか」

ウクライナ侵略戦争の祖因となった自国核兵器の放棄
「正直者は馬鹿をみる?」

 本稿の記述は原発問題を議論している。しかし「原爆≧原発」という意味で指摘をするとしたら,現在進行中である宇露戦争の開始直後,その典型的な具体例が懸念材料として出現した。

 ウクライナが保有し稼働させていたザポロジェ原発が,突如侵攻してきたロシア軍に占拠されてしまった。現状のままだと,もしかしたとき・なにかあったとき,核兵器の代用に悪用されかねない。

 旧ソ連・KGB出身であるウラジミール・プーチンの脳細胞は,常人の理解にはとうてい収まらない〈狂人の悪素〉が染みこんでいるゆえ,他者が油断などしていたら,なにをされるか分からない。

 もしも本当に,そういう非常事態(原発への攻撃の結果その原爆化)が起こされたりしたら,その爆発を起こした原発はすぐに「原爆に変身」する。現状のごときに,ウクライナ国内で「原発がロシア軍に占拠されている」かぎり,「プーチン側からの脅迫材料」として悪用される危険性は,つねに戦争事態におけるきわどい緊張関係,いいかれば,その切っ先を突きつけられているも同然である状況を意味する。

この画像はつぎの 3) から引用している

 3)「原発に迫る戦火 その安全は?」『NHK NEWS おはよう日本』2024年8月27日,https://www.nhk.jp/p/ohayou/ts/QLP4RZ8ZY3/blog/bl/pDodEAXj7Y/bp/pQeAoXdakQ/ は,昨年夏の時点で,開戦当初からロシア軍が占拠したザポリージャ原発などについて,こう解説していた。

 そもそもロシアの軍事侵攻でウクライナのザポリージャ原子力発電所は直接安全が脅かされています。ザポリージャ原発は6基の原子炉があるヨーロッパ最大の原子力発電所です。ロシア軍はザポリージャ原発を武力で占拠して,いまはロシアが原発を管理しています。

 経験ある専門家が原発を去り安全への懸念が深まり,ウクライナは,国際社会とともに原発をウクライナ管理下に戻すよう訴えています。いまはすべての原子炉は稼働を停止していますが,原子炉や使用済み核燃料の冷却は不可欠で,今〔2024〕年(8月)にも冷却施設が火災となり,ウクライナ,ロシア双方が,相手側が攻撃したと非難しています。

 どちらの原発でも,送電網や原発周辺の発電設備も危険に晒されており,外部電源の途絶は大きな事故につながりかねません。

ザポリージャ原発の危機

 以上のように「宇露戦争」がより鮮明にさせてきた「原発≦原爆」と定義できる,相互に深い関係性のある問題をめぐっては,つぎの※-2のような話題に目を向けてみる余地があった。


 ※-2「世界で2021 年末のデータとなるが,『高濃縮ウランの保有量(国別の詳細)』」はどうなっていたか

    ♠ 高濃縮ウランの保有量(2021 年末:国別の詳細)

   国名     軍事用(トン)   非軍事用(トン)
  ロシア     672.0        8.0
  米 国     453.2        33.9
  フランス     25.0        5.318

  中 国     14.0          0.0**
      (保有量は 100 キログラム以下,詳細は不明)

  英 国     21.9         0.7
  イスラエル   0.3       0.02
  パキスタン    4.9       0.02

  インド      4.5       0.0**
      (保有量は 100 キログラム以下,詳細は不明)

  北朝鮮      0.7

  非核保有国*   15.0

  注記)「高濃縮ウランの保有量(国別の詳細)(2021 年末のデータ)」https://www.recna.nagasaki-u.ac.jp/recna/bd/files/2023heu.pdf

各国の高濃縮ウラン保有量

 こうした統計資料をみるにつけ,日本(国)もこの仲間入りを強く望んできた事実を,日本の国民たちは忘れてはいけない。昨年,日本被団協がノーベル平和賞を授賞された。

 けれども,本ブログ筆者はなんども指摘していた点であったが,『原爆(核兵器)に反対するなら』『原発(各発電)にも反対して当然である』にもかかわらず,被団協の関係者たちはなにゆえ,原発の存在についても併せて反対の意思を明確に表明してこなかったのかという基本的な疑問が,いまもなお残されたままである。


 ※-3 小林祐喜「国際情報ネットワーク分析 IINA(International Information Network Analysis)」『笹川平和財団』2023年7月7日,https://www.spf.org/iina/articles/yuki_kobayashi_11.html から

 この小林祐喜「国際情報ネットワーク分析IINA )」は,以下にあえてその全文を引照する。この記述は「戦争と平和」という国際政治・国際経済の「単純な2項対立そのもの」ではありえない「相互に複雑に入り組んだ問題の深淵」を,原子力エネルギー:核燃料の生産国としてならば,「ロシアが最有力の一国として存在してきた事実」を主軸に据えた議論をおこなっている。

 「原発が単なる原爆の派生物」ではなく,現実の世界においてとなれば難問的にこみいった「原子力と原発問題をめぐる利害関係」として,これらの現実的な利用形態に決定的な影響を与えている各国の国家理念・軍事戦略をめぐる,つまりは政治イデオロギーとの相互作用が具体的に展開されている国際舞台においてこそ,以下の記述は読み解かれ,それなりに解釈されるべき余地があった。

 以下に引用する。なお原文に付されていた注記はここではすべて割愛してある。興味ある人は※-3のリンク先住所から入ってのぞいてほしい。

 1.原子力分野における西側諸国の苦悩

 2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻後,ロシアの主要な収入源であるエネルギー分野への制裁が強化されるなか,同国の原子力部門が世界での影響力を強めている。西側諸国は天然ガス,石油の段階的禁輸で足並みをそろえたものの,原子力分野は制裁の対象外になっているためである。

 制裁できないのは,核燃料製造の初期工程であるウラン濃縮において,後述のとおりロシアが世界シェアの50%近くを占め,米国や欧州連合(EU)諸国,とくに中・東欧のロシア依存が高いことが一因である。

 補注)ここでは,ドイツが2023年4月15日,原発全基を廃炉にした事実にあらためて留意しておきたい。

 ドイツの前首相メルケルは,ロシアのプーチンとは話がよく通じる仲であった。そして,プーチンのほうは,旧東ドイツに長期間駐留した経験のある元KGB要員であった。大学で物理学を専攻した彼女が,原子力の怖さをしらないわけではなく,首相在任中にはなんどか迷った経験を経ての決断となっていたとはいえ,ともかく原発の廃絶に踏み切った。

 ドイツはまたロシアからの天然ガスも多く買ってもいた。ロシアが核燃料では有力な供給先であるという事実と併せて考えるとき,メルケルの判断はそれなりに「決断力を発揮していた」ことになる。

〔記事に戻る→〕 こうした核燃料加工や原子炉の輸出により,ロシアは侵攻前に年間1兆円を超える収益をえていたが,侵攻後も原子力分野の業績は15%の増益が予想されるなど好調を維持し,戦費財源のひとつとなっている。

 補注)この段落の説明は,「原発は原子力の平和利用だ」などと単純思考で標語的に形容することなど許さない事情が,すなわち,原発の燃料(核燃料)の製造・販売が,それこそ原発保有各国にわたっている事実をしれば,現在になっても「atoms for peace」などと,いつまでもウブにアイゼンハワー流に語るのは,そのウブが過ぎていた。

〔記事に戻る→〕 くわえて,「次世代炉」と総称される小型モジュール炉(SMR)や高速増殖炉用の核燃料加工は,現在,世界で普及している通常の原子炉用燃料に比べ,特殊な工程が必要で,ロシア企業が市場を独占している。ロシアによる国際原子力市場の支配は将来にわたって継続する気配である。

 米国は現状のままでは,ロシアの戦費が枯渇しないばかりか,核燃料供給を外交の武器にされ,安全保障上の脅威になると警戒を強め,原子力分野におけるロシア依存の脱却を図る方策を展開しはじめた。日本もウラン濃縮技術をもつ数少ない西側諸国の一員として,世界レベルでの核燃料の供給体制のあり方を議論しておく必要がある。

 本稿ではまず,原子力分野のロシアの実力を分析するとともに,日米欧のウラン濃縮,核燃料の供給状況を検証する。最後に,米国が呼びかける供給網構築の可能性と日本の役割を考察する。

 2.ウラン供給におけるロシアの圧倒的存在感

  1) ウラン供給におけるロシアの実力

 原子力の民生利用には,ウラン濃縮の工程が欠かせない。天然ウランは,核分裂して膨大な熱エネルギーを放出するウラン235の含有量がわずか0.7%であり,残りは核分裂しにくいウラン238で構成される。

 そのため,そのままでは核燃料として使えず,ウラン235を238から分離し,割合を3~5%にまで濃縮する加工が必要である。このウラン濃縮において,ロシアの原子力国策会社「ロスアトム」系の企業が50%近いシェアを占めている事実から,ウラン供給におけるロシアの役割がきわめて大きいことが分かる。

原発用の核燃料生産におけるとくにロシア企業による市場占有率は
欧米各国側の軍事戦略に密着する現実問題

 2000年代前半まで,世界におけるウラン濃縮は,イギリス,ドイツ,オランダの連合企業体であるウレンコが主導してきた。しかし,ロシアは量産しやすい小型の遠心分離機を幾重にも積み重ねてウラン235をより効率的に抽出する手法を開発してコスト削減に成功し,2010年以降,一気に世界シェアを拡大した。

 とくにロシアと隣接するEUでは,旧共産圏でソ連の影響力が強かった中・東欧のハンガリーやチェコを中心に,ロシア型加圧水型軽水炉(VVER)と呼ばれる原子炉が計20基運転され,ロスアトム系企業の濃縮ウランを加工した核燃料を使用している。

 図1を工場別生産量に置きかえれば,表1のようになる。ウラン濃縮分野における世界事情がより鮮明になる。具体的には,ウレンコ製の遠心分離機が欧州から米国にかけて広く分布しているものの,生産量ではロスアトムが上回り,ロシアがウラン濃縮の主導権を握っているのが分かる。

 さらに,各国で研究・開発段階にある「次世代炉」と総称される新しい原子炉には,ウラン235の割合を20%弱まで高めた高純度低濃縮ウラン(HALEU)を使用した核燃料が必要である。このHALEU工程を手がけ,商用販売しているのは,現在,世界でロスアトム系の1社だけである。

(つぎに切り貼りして挿入するのは,引用している原文から部分的に切り取ったものである。文章部分は前後して重複するので諒解を乞う)。

ロシアの原子力関連事業はまさに国策形態
他国も基本は同じだが

 これらの事実は,欧米がロシアに原子力分野の制裁を科すことができない大きな要因になっている。日本はウラン濃縮や核燃料の調達においてロシアに依存していないものの,原子力分野での対ロ制裁は実施していない。

  2) 原子力分野のロシアの収益

 その結果,ロシアはウラン濃縮とそれに基づく原子炉用燃料の加工だけで,年間10億ドル(約1,400億円)の収益を上げている。さらに,表2〔前段に出ている〕にあるように,原子炉の輸出市場でも,主導権を握っている。2012-2021年の10年間に輸出された原子炉のうち60%超がロシア製である。

 ロスアトムの2021年度収益は年間90億ドル(約1兆2600億円)に達する。ウクライナ侵攻後も原子力分野は競争力を失わず,2022年度は前年度比15%増の収益をみこんでいる。

 核不拡散の専門家や政策立案経験者で組織する米国のシンクタンク「Nonproliferation Policy Education Center」(NPEC)のヘンリー・ソコルスキー氏は,「原子力部門の収益が核兵器を含むロシアの軍備増強に使われているのは明らかであり,ウラン濃縮や核燃料のロシア依存だけでも早急に解消するべきだ」と訴える。

 3.ロシア依存脱却の方策

  1) 困難な濃縮ウラン調達先の切り替え

 ソコルスキー氏の主張じたいは,多くの国が同調している。ロシアによるウクライナ侵攻後,フィンランドやチェコ,スロバキアでは,核燃料の調達先を米国などに切り替えることを検討する動きが相次ぎ,一部は実現した。しかし,原子力市場の契約慣行により,早期の調達先変更は容易でない。

 ウラン濃縮や核燃料は通常,5-10年の長期契約で取引され,契約期間中に打ち切れば,ロスアトムから多額の賠償を請求される恐れがある。そのため,EUにおいて,欧州議会には制裁を求める声が強いものの,執行機関である欧州委員会は踏み切れないでいる。

  2) 動き出した米国

 一方,米国・バイデン政権は具体策に乗り出している。濃縮ウランのうち,HALEU生産に参入する企業へ1億5000万ドル(約220億円)の補助金を支出することを決めた。HALEUの市場規模はまだ小さく,ロシアの収益源に打撃を与えるには至らないが,この政策を実施する背景として,二つの要因がある。

 ひとつは図1,表1,2〔前段のそれ〕に示したように,現状の国際原子力市場におけるロシアの圧倒的な支配力を考慮したことである。バイデン政権は次世代炉に欠かせないHALEUの自給体制構築に焦点を絞った。

 もうひとつは,米国および西側諸国にとって,国際原子力市場のロシア(および中国)による支配が強まれば,安全保障上の問題になることである。市場支配力が強まるにつれ,国際原子力機関(IAEA)など,国際規約を策定する場での発言権が増す。

 次世代炉までロシアに市場を支配されれば,同国に都合のいいように,核物質の移動や管理に関する国際規則が策定されることになりかねない。

 HALEU生産に対する米国政府の補助金申請のウェブページをみると,「ロシア」の名指しこそ避けているものの,「HALEUの供給力が欠如したままでは,次世代炉の商用化にとって重大な障壁となる」と危機感を訴えている。

 事業者側も事情を承知しており,マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が出資する次世代炉開発会社 Terrapower 社は,ロシアのHALEUを購入する予定を停止し,「次世代炉の稼働を2028年から少なくとも2年間延期する」と表明した。

 しかしながら,米国一国でこの問題を解決できないことは明白である。HALEUの生産に欠かせない遠心分離機を供給できる企業は米国内に存在しないためである(表2参照)。

 こうしたことから,米国の助成策は同盟国にも検討を促すことにつながっており,西側諸国で遠心分離機を自給できる立場にあるウレンコと日本原燃の動向に関心が集まっている。

 4.ロシア依存の低減に向け,日本の役割を考察する

 こうした国際原子力市場の情勢下,日本になにができるだろうか。筆者は以下の3点の理由から米国政府の公募に応じ,日本もHALEU供給体制確立の一助になることを検討すべきであると考える。

 ひとつは技術上の課題や国内外の制度上の問題を日本がクリアしていることである。日本は遠心分離機を供給できる技術を有する数少ない西側諸国の一員である。

 また,HALEUはウラン235の割合が20%未満であり,軍事転用が懸念される20%超ではないため,原子力規制委員会の審査を受け,IAEAに事前通告し,ウラン濃縮工場の査察に関する取り決めに合意すれば,生産を開始できる。

 つぎに,本件は安全保障の問題である。ウラン濃縮や核燃料の調達,とくに将来,脱炭素社会実現の一翼を担う可能性がある次世代炉分野において,外圧に左右されないよう,自国あるいは同盟国間で供給体制を築くことは重要である。

 補注)この段落の意見,原発関連の事業が「とくに将来,脱炭素社会実現の一翼を担う可能性がある次世代炉分野」というのは,完全に誤謬である。

 原発利用の国家体制としてのエネルギー供給を,いきなりに,しかもこの主張を唱えた者たちすべてがそうであったが,具体的に原発(次世代炉も同断)がどうしたら「脱炭素社会実現を意味できる」のかについては,ある種,教条的につまり一方的に,その科学的な根拠もなしに信じこんでいる。これは非科学的な理解がなさしめる奇景の一種であった。

〔記事に戻る→〕 実際,日本は米国とこうした見解を共有しており,2022年1月,次世代炉の開発協力に関する覚書を締結している。次世代炉用の燃料供給をロシアに依存したままでは,覚書が絵に描いた餅になりかねない。

 また,戦後一貫して,核不拡散,および核物質の国際管理体制の確立に尽力してきた日本は,今後も核不拡散に関する国際規約の策定において,影響力を保持する必要がある。

 補注)ここでいわれる「核不拡散」とはなにか? この「核不拡散」という語彙は,核兵器の保有国を増やさないこと,核兵器の量を減らすことを意味すると同時にまた,原子力の平和利用を促進することも核不拡散の対象となると,説明されていた。

 そうだとしても,その説明は「戦時(戦争時)と平時(平和時)」とに即した「原子力エネルギーの腑分け」をしてはいない。というよりは,核問題の詮議となれば一気に,「戦時は平時だ」との相互関連づけがただちに前面にせり出てくるのは,あまりに当然のなりゆきとなる。

〔記事に戻る→〕 最後に,経済合理性の観点からも,HALEU生産は利点を有する。青森県六ケ所村の核燃料再処理施設の一角にあるウラン濃縮工場は年間 1050 t の濃縮能力しか有しない。

 現行の原子炉に使う核燃料用に出荷しても,9基分程度にとどまる。国内には,運転可能な原子炉が30基以上あり,国内分の3割弱しか供給できないため,価格競争力がない。付加価値の高いHALEU生産を手がければ,収益向上が期待できる。

 日本核物質管理学会の重鎮の1人は筆者に対して「HALEUのロシア依存から脱却するために,ウレンコへの依存が過度に強まることを米国は望んでいない。原子力技術の高さを示すことができ,同盟国間でバランスのいい供給体制を構築することにもつながるため,日本はHALEU生産への参入を検討するべきではないか」と述べたことがある。

 しかし,実現への道は容易でない。原子力利用への信頼回復が不可欠だからだ。2011年の東京電力福島第1原発事故により,日本における原子力利用は国民の信頼を失った。

 補注)ここでは「国民の信頼」をもち出しているが,原発反対派の立場に立つ識者・専門家も結構な数いるわけで,こちら側に陣取る人びとにいわしめれば,指摘されたところの「原子力利用への信頼」関係そのものが,基本からして問題含みであった。それゆえ,この国民の信頼という表現の用法には最初から定義づけに関して疎漏があった。

〔記事に戻る→〕 日本原子力文化財団の「2022年度原子力に関する世論調査」によれば,「今後,原子力発電の安全を確保することは可能である」との質問に対し,肯定的な回答は25.1%にとどまる。

 六ケ所村を基軸とする核燃料サイクル政策への肯定的意見はわずか18.8%である。

 事故のリスクにくわえ,原発で使用された核燃料を最終処分する場所も決まらないなか,事故から12年を経ても,原子力利用への国民の不信は根強い。

 補注)その「最終処分場」の問題は,本稿の前稿(後編の2)で関説してあった。この「最終処分場」も用意できないで,原発事業を半世紀以上も続けている日本のやり方は,肥だめの異臭に我慢強い原子力村の住民が控えているからこそ,通用させられているというわけか?

〔記事に戻る→〕 日本を含む西側諸国が保有する技術や設備をもちよって対応策を講じなければ,国際原子力市場のロシア支配は将来にわたって継続する可能性が高い。一方で,対抗策を実現するには,原子力利用への信頼回復に向けた取り組みが欠かせないのが実情である。(引用終わり)

 以上長々と『笹川平和財団』お抱えの識者が原子力エネルギー問題,とくにその燃料「核燃料生産に関したロシア優勢の現状」を危惧する論議に聞いてみた。笹川良一の競艇博打で大もうけした資金をこのような国際政治や核エネルギー問題を研究させる知識人を養うことじたいは,なにも異論はない。

 繰り返すが「原子力利用への信頼回復に向けた取り組み」とは,具体的いんはなにを目標に据えての話であったのか? 南海トラフ地震の発生率危険性が80%にも上昇させる措置が出てきた昨今,日本にある原発全基が超巨大地震に襲来されても,絶対に大丈夫だと応えられる原子力村側の人間はいるのか?

 航空機としての旅客機はこれからも,「百名単位で乗客を死なせる事故」としてだが,必らず起こりうるとしかいいようがない。この点は否定しきれない。それでは,原発事故は今後,絶対に起きないという保証はあるかと問われて,「そうだと応えられる」人はいない。

 「原発安全神話のなくなった」現在,もしも超巨大地震の襲来を原因としなくとも,それとは別個の原因によっても「原発の大事故が起きない」という絶対の保証がない。

 しかもこの記述中で言及しているのは,ロシアがウクライナ侵略戦争を平然と継続中だという事実,原発の大事故の発生につながりかねない軍事行動がしばしば起こされてきた経過,などを前提に話しをしている。

 しかし,「平和を(多分)めざす」という理念・目標をかかげているつもりであったその『笹川平和財団』がこのように,国際政治における核問題を(核兵器も核発電もとして)を論じるところから,はたして,どのような国際平和という理想が期待できそうな道筋が描ける,というのか。

 以上の指摘のごとき点に疑念が生じている。ただ,ロシアには「核発電の問題領域で主導権を握られるな」,欧米・日本側がそれに対抗できる関連の実力を構築せよという立論が据えられている基盤から,はたして世界平和だとか恒久平和だとかいった想念がただちに眺望できるのではない。

 核災害の問題は,核兵器の実験(原爆と水爆)や核発電の実践使用(原発による電力生産)に主な関心事が生まれた20世紀後半の段階においてではなく,すでに大規模で過酷な原発事故の発生など,絶対に起こしてはならない21世紀段階に来ている。

 この状況に至っているところで,核の問題を当然・所与と居続けたがごとき議論の方途では,この核物質の汚染がすでに核兵器や核発電(原爆と原発)からは広範囲に発生してきた事実を,真正面から対象化したり問題解決(解消)に向ける努力を期待することはできない。

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【付 記】 本稿の記述はこの「後編の3」で終わりにしたかったが,まだ最初に用意してあった材料が残っているので,さらに続けて記述していくつもりである。出来しだいここにそのリンク先住所を指示する。

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