聖マリアンナ医科大学はなぜ,「男女差別」の不正入試を認めずに,世間に抵抗しつづけたのか?
※-1「聖マリ医科大の入試『合理的理由なく女性を差別』 地裁が賠償命じる」『朝日新聞』2023年12月25日 18時36分,https://www.asahi.com/articles/ASRDT632XRDTUTIL02C.html
a) 標記のこの記事を参照する前に,以下のような能書き的な文章をさきにかかげておきたい。
昨年(2023年)の年末,この『朝日新聞』新聞のニュースが報道されていた。本日の話題にとりあげる「医学部入試・女性差別」の問題は,最初,東京医科大学「不正入試事件」(2018年)をきっかけに社会問題化していた。要は,国公立大学医学部(医科大学)も含めて日本の大学すべての医学部においてであったが,高等「教育社会」内における「女性に対する不当なあつかい」が大問題になっていた。
しかし,その出来事は,東京医大医学部の不正入試事件の発覚,その事件化という事態の進展を介して,さらには受験産業全般にもかかわる大きな問題となって,つまり,日本社会が21世紀に入ってもなお,根強く女性差別を通常的な慣行としておこないつづけている「その異様性」ばかりがめだっていた。
気分的にいって,いままでは先進国だとみずから認識しているつもりであり,他国からもそのように認められていると思っていたこの国のなかで,「医学部(医科大学)における女性に対する陰湿な排除的処遇」,具体的にいうと入試段階において内々に儲けられていた特定の選別作業は,
この国が本当は医学部の入試どころか,社会のあらゆる場面で女性を差別的に待遇する慣行や風潮を是とする基本精神を,白日のもとに引きだすことになり,あらためてその一角を明確に確認させる経緯をもたらした。
最近,たとえば,しりえた女性労働者の賃金待遇一例としては,老母を抱えた中年女性の場合,ある会社で事務職として20年以上働いてきたが,給与水準はいまだに14万円のままであり,男性従業員だと同じ仕事であっても,それなりに昇給していたなかで,完全に賃金差別を受けて取り残されてきたというではないか。この女性,生活保護で受けられる経済的保障の水準と比較するに,その年収面においてたいして差はみられない。
ともかく,男性なら昇給はする(させる)が,女性は(無条件に)ダメだという企業側の論理は(もちろん一部の会社に関した話だが),一般の倫理に照らしても法理面で違法的であるし,しかも,男女差別の最たる見本をいまだに地でいく人事・労務管理を,平然と実際につづけていることになる。
昔の日本の会社であれば,女性は結婚したら退職(壽退職)が当たりまえであったが,いまどきそのように古風な脳細胞を働かせる職場が実在する事情は,ある意味,この国が現在においては完全に「衰退途上国」と化しつつあった現状を,明証するごとき一例(好例)になっている。
先月〔10月〕の27日に実施された衆議院解散総選挙の結果は,パート労働者やアルバイター,派遣労働者など,非正規労働者群の年収制限問題をめぐる税制を改善すると訴えた国民民主党が,以前の議席数であった7議席の4倍の28人まで増やした。
この国民民主党の代表玉木雄一郎は,「年収103万円の壁」見直しを目玉にする意向を盛んに訴求してきたが,いまどき,それこそ何十年前からその非課税の水準に引き上げがなかった実情が持続されてきなかで,その年収を178万円にまで増やしたとしても,基本的に非正規契約にある労働者群の生活全般に対してとなれば,格別に顕著に貢献しうる労働政策となりうるか疑問しか湧かない。
b)〔ここから『朝日新聞』記事の引用となる→〕 聖マリアンナ医科大学(川崎市)を2015~2018年度に受験した女性4人が「性別で差別された」として,同大に計約3300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が〔2023年12月〕25日,東京地裁(新谷祐子裁判長)であった。
判決は,女性を差別する得点調整があったと認定し,「差別を受けない利益を侵害された」として同大に計約285万円の支払いを命じた。
医学部の入試不正は2018年に発覚し,文部科学省の調査で,同大を含む複数の大学で女性や浪人生らを不利に扱っていたことが判明した。同大は差別的な取り扱いを否定したが,同大が設置した第三者委員会は,女性などの点数が一律に低くなっていたことを認定していた。
判決は,第三者委の報告書で,男女別に画一的に得点差が設けられたことや,性別などを黒塗りにした状態の模擬採点の結果が実際の点数と大きく異なったことが認定されたことを挙げ,「性別による得点調整があったことは明らか」と判断。「合理的理由なく女性を差別するもので,違法性は顕著だ」と指摘した。
同大は「判決を確認していないので,コメントは差し控える」とした。(金子和史)
以上のごとき医学部,それも私大医学部でとくに注目された入試段階における女性差別問題は,いままで日本の政治社会のなかに潜在してきた「女性の地位」の絶対的・相対的な低さを典型的に反映させ,代表する事例となって,世間の注目を惹いた。
本年(2024年)の6月に報道されていた「男女平等ランキング」に関した順位表,そして関連する新聞記事を,つぎに紹介しておく。
医師を志望して医学部・医科大学を受験しようとする若者たちのうち,その半分を占める女性に関しては「オンナだから・・・」という理由で,つまり,女性が医師となっても・どうだこうだとか,あるいは,彼女らが結婚して子どもを産んだらどうなるとかいった,最初から完全に決めつけたような「従来型に凝り固まった観方」:固定観念をもっているせいか,
そもそも医学部に受験する段階からして女性(女子学生)をなるべく排除しておこうとした,すなわち裏工作的に女性に対しては制限をくわえ,意図して絞りこむといった手順が,それまでは秘密裏に公然と実施されていた。
そうした医学部受験の実態についてはとくに受験産業側では,薄々という以上に確実に感得できていたけれども,具体的な証拠がなかったがゆえ,これを問題化するような状況にはなっていなかった。
医学部受験にかかわっての問題であったから,とくに問題になったという要素がないとはいえないものの,不正は不正であったのが「それまでは入試段階において女性の受験生を平然と,もちろん秘密裏に内々に実施してきた慣習」であった。要は,オンナは大学受験の舞台において,それも医学部における選抜であったが,大学側から勝手に差別される対象にされていた。
そうした医学・医科大学における女性差別の事実が,2018年の初夏,東京医科大学の入試不正事件を介して,それもとく女性(および多浪生に対する)入試段階における差別的なとりあつかいが問題として急速に浮上し,社会の注目を集めることになった。
最初に紹介した『朝日新聞』の記事は,当時,当該問題の全容が徐々に明らかになるなかで,社会の視線を浴びていながらも相当に程度の悪かった姿勢で,いつまでも抵抗しつづけていた聖マリアンナ医科大学の事例が,その後において提訴された裁判でどのような結末になったかを報じていた。
c) 本日(2024年11月7日)になって,以上のごときの前書き的な文章を添えてみたが,ここからさらに以下につづく文章が,時期としては2020年10月15日にいったん公表されていたものである。いままでは,ブログサイトの移動にともない未公開状態であったこの中身を,復活・再掲することにした。このさいもちろん,記述の補正・加筆もなされている。
というしだいで,『聖マリアンナ医科大学はなぜ,「男女差別」の不正入試を認めずに,世間に抵抗しつづけてきたのか?』という話題を,以下の記述において,あらためて議論しなおしてみたい。
なおここでは,2023年8月27日に『日本経済新聞』朝刊「社会」面に掲載された「東京医大不正入試」解説記事を紹介しておく。この見出しのなかには「差別擁護なら医療に未来はない」という文句が添えられていたが,まったくにそのとおりである。
一私大医学部内の小さな利害環境内においてだが,ひたすらその得失にのみこだわるチマチマした対応が,日本社会全体が必要とする医療体制の構築・貢献に反する事実は,自明に属する理解であった。
※-2 医学部・医科大学の入試不正,とくに女性受験に対する差別問題に関して2020年時点でとくに聖マリアンナ医科大学の問題
以下の記述じたいはまず,2020年当時における本ブログの記述となっていた点を,断わっておきたい。当時になりに考えてみた議論をそのまま再録している。いわば,医学部・医科大学の入試不正がまだ完全には決着をみていなかったころの論及であった。
ということは,その間における議論そのものの途中において登場した場面がとりあげられることになるが,これはこれなりに「経過中での話題」として,いいかえれば,いまとなってみれば「それはそれとして」大いに参考になる記述だった,というふうに理解することも可能である。
その間というか事後になるが,2023年1月につぎの本が公刊されていた。この本の筋書きは,東京医科大学に起きた当該「事件」の発生原因や途中での経緯などについて,著者なりに独自の吟味をくわえた中身になっていた。東京医大の1件について非常に興味深い議論を提示する書物であった。
この本の存在はさておき,本ブログなりに2020年の時点で,聖マリアンナ医科大学がおこなってきた入試女性差別問題を論及するのが,次段からの話題となる。
文部科学省は〔当時の〕現状以上には,この聖マリアンナ医大に対して適切な指導をしないでいるつもりか? 同医大の入試体制は完全に「黒・闇の不正入試」になっていたが,このままで事態が推移していったら,同医大の開きなおりを黙認する結果となる。〔2014年11月時点からいいなおせば,そのような結果を招きかねなかった〕。
本記述の要点は,以下の2点となる。
要点・1 文科省のへっぴり腰
要点・2 聖マリアンナ医大側が不正入試として指摘された男女差別を認めない姿勢をとりつづけているが,なにか特別の事情でもあるのか? まさか,ミッション系大学としてキリスト教精神がその支えになっているわけもあるまい。
※-3「聖マリ医大,元受験生が提訴 『入試,性別で差別』 女性4人賠償請求」『朝日新聞』2020年10月15日朝刊35面「社会」
※キーワード※ 〈医学部不正入試〉 文部科学省の元局長の息子を不正に合格させたとされる贈収賄事件で2018年8月,舞台となった東京医科大で,女性の受験生の点数を減点するなどの差別が明らかになった。
文科省は同年12月,東京医科大を含む10大学で,女性や浪人生を不当に扱うなどの不適切な入試があったと指摘。このうち聖マリアンナ医科大は否定している。
つぎが,本項※-3としての「記事本文の引用」
聖マリアンナ医科大学(川崎市)の2015~18年度の入試を受けた女性4人が〔2020年10月〕14日,「性別を理由に差別された」として,大学に計約1684万円の賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。一連の医学部不正入試問題をめぐる集団訴訟は,東京医科大,順天堂大に続いて3例目となる。
「医学部入試における女性差別対策弁護団」によると,原告はいずれも20代。
2018年に発覚した不正入試問題で,文部科学省は10大学について性別や浪人回数などによる差別があったと指摘。このうち聖マリ大だけが不正を認めていない。同大が設置した第三者委員会も「女性や浪人生を一律に差別していた」とする調査報告書をまとめ,今〔2020〕年1月に公開されたが,同大は否定している。
訴状で原告側は「不公正,不公平な入試を受験させられた」として,1人あたり受験1回につき300万円の慰謝料などの支払いを求めている。
2015~18年度の入試結果を分析した第三者委の報告書によると,2次試験の評価対象の一つだった志願票と調査書での獲得点数について,9割以上の受験生が,属性により同じ点数を割り振られていた。いずれの年度でも,女性と浪人回数の多い受験生の点数が一律に低くなっていた。
志願票と調査書の配点が80点だった2015年度では,浪人回数が多いほど男女とも点数が下がり,さらに女性は現役,1浪,2浪,3浪など各段階で男性より18点低くされていた。配点が180点だった2018年度では,男女の点数差は80点にまで広げられていた。
原告側は,得点調整をしなかった場合の点数や,2次試験の最低合格点数などを明らかにすることも求めており,結果に応じて請求額を増やす予定という。
原告代理人の佐藤倫子弁護士は,〔10月〕14日の会見で「聖マリ大はひどい女性差別をし,文科省からも再三,説明責任を果たすよう求められてきたにもかかわらずまったく対応せず,不誠実きわまりない」と批判。同大は「訴状をみていないのでコメントできない」としている。
補注1)問題は文部科学省の姿勢である。なぜ,ここまで聖マリアンナ医大の不正入試が濃厚に疑われる客観的な材料が出そろっているにもかかわらず,また,この医大に似た不正入試をおこなっていた大学医学部や医科大学が,自学側の入試に不正な判定方法が含まれていて,実際にそれにもとづいて入試が実施されてきた事実を認めていたにもかかわらず,なぜか,この聖マリアンナ医大だけはがんばりとおして「否認」しつづけている。
政府は日本の私立大学に対して,憲法違反だという議論をともないながらも,経常費補助金を援助してきている。なかでもとくに,医学部に対するその金額は突出して多額である。
この関係からみても,いつまでも不正入試の証拠を突きつけられてもまだすなおになれずに,その「事実の認定」を拒絶してきた聖マリアンナ医大は,きわめて悪質な大学だとして社会的な批判・糾弾を受けて,なんら不思議はないにもかかわらず,肝心の文部科学省の対応は徹底しない態度をとりつづけてきた。
ネット上にはつぎの記事もみつかる。10月上旬時点の記事であった。
補注2) 政府は,1999年6月23日公布・施行の「男女共同参画社会基本法」という法制を敷いてその構想を示したうえで,それを日本における社会政策の重要事項のひとつに定めていた。その狙いは「男性も女性も,意欲に応じて,あらゆる分野で活躍できる社会」であると説明されていた。
それからすでに20年以上の時が経っている。だが,その間も,聖マリアンナ医大だけでなく,日本の大学医学部・医科大学は国公立大学も含めて,男女差別を秘密裏にだが平然とおこないつづけてきた。
だが,2018年7月,文部科学省の前局長である佐野 太(ふとし)が,私立大学支援事業の対象校選定に便宜を図った見返りに,東京医科大学の入試で息子(貴徳:たかのり)を不正に合格させてもらっていたとして,受託収賄容疑で逮捕された時間の発覚をきっかけに,医学部・医科大学においては旧態依然に男女差別を慣行としておこなってきた入試体制が,いまさらにように暴露された。
〔補注2の続き→〕 それ以降,医学部・医科大学をめぐる不正入試をめぐる世論の注視があったなかで,なおも,しぶとく不正入試の事実を認めていなかったいくつかの私大のなかでも,最後まで〔現在:2020年以降の時点になってもなお〕抵抗しているのが,聖マリアンナ医大であった。なにゆえ,この私立の医大はその事実を認めたくないのかその理由をしりたいものである。
それでいて,聖マリアンナ医大はこれまで,私立大学に対する経常費補助金(「私立大学等経常費補助金」)が全額削減されることがなかったが,2020年度のその補助金については初めて「何割かの減額」措置を講じられる始末になっただけである。
という経緯をみる範囲内では,聖マリアンナ医大が示してきた態度は,それこそかなりいい加減であり,かつ身勝手なものであった。さすがに,2020年度については減額が措置されるという報道がなされる状況を迎えていた。
それにしても,実に奇怪な対応(やりとり)が許されている。さきに不正入試の存在を認めた大学医学部や医科大学は,すでに経常費補助金が減額されていたのに対して,2019年度まで,聖マリアンナ医大はその対象になっていなかった。ごね得はやるだけやれ,やったほうが得だということか?
ここでは,その「私立大学等経常費補助金」を,つぎの『2019年度 私立大学等経常費補助金交付状況の概要』https://www.shigaku.go.jp/s_hojo_r01.htm にみておきたい。規模の大きい総合大学と医科大学や医学部を設置している私大の金額が多い。当該資料の1頁目だけを紹介している。
〔ここで ※-3の『朝日新聞』記事を引用する「本文」に再度戻る ↓ 〕
1)3浪女性0点「不正認めて」
原告の1人で西日本に住む女性は,2018年度入試を受験。1次試験は合格したが,2次試験で不合格となった。第三者委の報告書によれば,この年の志願票と調査書の配点は180点。現役男性は164点つけられていたのに対し,3浪だった原告女性は0点だった。
女性がこれをしったのは,第三者委の報告書が公表された今〔2020〕年1月。「そんなに減点されていたなんて」と悔しさがこみ上げた。「必死に勉強し努力した時間に男女は関係ない。女性だからという理由で差別されていいわけがない。聖マリ大は不正を認め,しっかり謝罪してほしい」。
女性は,一度は医師の夢をあきらめ,昨〔2019〕年薬学部に入学した。しかし,病院実習などをするなかで,あらためて「私がなりたいのは医師だ」と思い,半年で退学。予備校の寮に住み,再び医学部をめざして勉強を続けている。ただ,本当に入試での女性差別はなくなったのか不安も残るという。
補注)ひとまず,安倍晋三政権の時期における問題として言及するが,この前首相は「戦後レジームからの脱却」を唱えたさい,念頭にあった〈時代の観念〉は「旧民法的な家制度・家族主義の封建思想であった」とみなせる(もっとも,本当のところ,彼の頭脳のなかにおいてはほとんど実態のなかったその種の観念しかありえなかったのだが……)。
とりわけ,敗戦前は女性に参政権がなかったこと,家督は男である父親:家長の専有物であったこと,つまり女性は半人前の人間存在としてしか認められていなかったことを思いだしてみたい。
ここで考えるべきは,出産そのものは女性にしかできないにしても,子どもの育児・教育は,ある意味では全社会的な次元で支えるべき態勢が必要である。
この社会政策的な観点とは無縁であった安倍晋三は,当人に子どもがいなかった事実はさておいて,そしてさらに,菅 義偉〔や岸田文雄〕らの政府側の立場もそうであったが,「少子化問題」に対する真剣な関心はいまひとつのまま,実質的に維持されてきた。不妊治療対策はもちろん重要であるが,それ以前に対処すべき少子化対策があるはずだが,彼らはそこまで届く視点をもちあわせなかった。
ともかく,短絡をいとわずに断定する。女性は結婚して,子どもを産んで・育てて,夫に仕え……といった,いまどきには時代錯誤の道徳・倫理が,彼(ら)の頭のなかには厳然と控えていた。21世紀の現段階,この「少子高齢社会そのもの」が深刻な社会問題となってしまった状況,そして人口減少が急速化するほかなくなった現実は,最近の政治屋的な首相たちの認識力をもってしては,もはやまともには把握できなくなっていた。
こうした段階に至った時代状況のなかで,女性の社会進出が大いに期待される分野のひとつである医療方面の,それも医師や看護師などの人材供給元である私立医学部・医科大学が,なかでも医学科では2018年度まで秘密裏にだが平然と,男女差別の関門を儲けて,つまりその入り口=入試で敢行していたとなれば,事態は非常に悪質であった。
以上の記述に関して一番問題となる論点は,なんであったか。それは女性が医師になって,さらに配偶者をもち出産もするさい,仕事を一定期間停止しなければならない事実をとらえて,その状況をのっけから邪魔ものあつかいする価値観にあった。その価値観が真っ向から批判され排除されるべき必然性が,世の中の「男的に偏向した生活〈感〉の持主たち」の観念からは,なかなかすなおには理解も認知もされないでいた。
それでも,日本において女性が医師に占める比率は,とくに若年層にかぎっては3分の1(男性2人に対して女性1人)を超えつつある。
「厚生労働省は〔2019年〕12月19日,2018年の「医師・歯科医師・薬剤師統計」の結果を公表した。女性の医師数は全体の21.9%となり,2016年から0.8ポイント増加。医療施設に従事する29歳以下の医師では,女性の割合が35.9%に上った。
註記) 岩崎雅子(m3.com 編集部)「女性医師の割合,29歳以下は35.9%に,2018年 外科が減少,小児科は増加も産婦人科は横ばい」『m3.com』2019年12月20日,https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/717643/
〔『朝日新聞』記事に戻る→〕 弁護団の会見では,ほかの原告のコメントも読み上げられた。ある女性は「今後,受験生には差別をしないでほしい。差別が一部でもあるならば,受けることはなかった」とした。
2) 不適切指摘,大学はなお否定
同大〔聖マリアンナ医科大学〕は,第三者委の調査報告書が出たあとも,「出願書類を個別に評価した」と属性による差別を否定している。文科省が合理的な説明を求めると,先月30日にもホームページで「均一に減点した事実は確認できていない」などと,あらためて否定した。
一方,文科省が統計の専門家に照会したところ,「能力差によるものではなく,男女が別々の得点に作為的に割り付けられたと判断せざるをえない」との回答をえたといい,文科省は〔2020年〕今〔10〕月1日,「不適切の可能性がある」という評価にとどめていた同大の入試を,「不適切だった」と認定した。
3)「個別の採点」で現役や男性の受験生に高得点が集中する可能性はあるのか
朝日新聞が田栗正章・大学入試センター名誉教授(計算統計学)に第三者委の調査報告書を解析してもらったところ,2015年度の入試で,現役の男性受験生が同じ得点に集中する確率は「10兆分の1よりも小さい確率」だった。
田栗氏は「『個別採点の結果である』という大学側の説明は受け入れられるものではない,という第三者委の結論はきわめて妥当」と話す。
不正があったと認めた東京医科大は私学助成金を2018,2019年度は全額不交付,順天堂大など7大学は,2018年度に25%カットされている。私学助成金の交付業務を担当する日本私立学校振興・共済事業団は,聖マリ大が不正を認めてこなかったため,同大に2018年度22億円,2019年度21億円の助成金を全額支払ったが,2020年度は減額する方針。これについて,同大は「決定は受け入れる」としている。
(以上で※-3『朝日新聞』からの引用終わり)
聖マリアンナ医大は,自学側の主張をそこまで突っぱるだけ突っぱって貫徹してきたのだから,経常費補助金の「減額」で当面する事態が収まるのであれば,それこそ御の字である。だが,不正入試を認めていないまま「2020年度は減額する方針。これについて,同大は「決定は受け入れる」というのは,ひどくけったいな話である。
聖マリアンナ医大と「私立大学等経常費補助金交付」の担当官庁当局(文部科学省から直接補助を受ける放送大学や沖縄科学技術大学院大学などを除き,日本私立学校振興・共済事業団を介して補助がおこなわれる)という部署は,ずいぶん奇妙な関係を保持できるものだと,感心する。
さて,つぎに住所(リンク)だけ紹介しておく記事は,以上において問題にされていた「聖マリアンナ医大の不正入試」をめぐる不遜で傲岸な態度を議論している。
問題の核心になにがあるかというと,なにゆえ,聖マリアンナ医大側はいまだに,そうした不真面目で誠意のない,いいかえれば,大学であってもすでに20年近くも前から具体的に問題になっていた『大学の倫理:社会的責務』の要請や観点に即していえば,完全にアウトどころか没収試合であるとみなすほかないほど,この医科大学の態度は許しがたいものである。
【参考記事】 岩下明日香・多田敏男「医学部『女子差別』を 第三者委に認定された聖マリアンナ医科大が “開き直り” 」『AERA dot.』2020.1.25 08:00,https://dot.asahi.com/wa/2020012200082.html(『週刊朝日』オンライン限定記事)
※-4 聖マリアンナ医科大学流の「反・キリスト教精神」
聖マリアンナ医科大学ホームページに記述されていた,それも “美辞麗句” にしか読めない自画自賛,つまり,女性差別を手前味噌的に当然視するミッション系医科大学は,もしかするとキリスト教精神に則り,つまり『聖書』の内容(御心)にしたがい不正入試もおこなっていたのか?
以下は,2020年当時における聖マリアンナ医大のHPから引用した「文章」の紹介となる。ここまでの記述・議論の内容・中身に比較してこれを読むとき,大いなる違和感を抱くのは不可避の感想。そう思うのは,本ブログ筆者1人だけではあるまい。
1)理事長「明石勝也」メッセージ
この理事長の話を聞いたら早速,疑問が噴出してくるのは,当然も当然の理の必然。「キリスト教的人類愛に根ざした生命の尊厳を基調とした医師の養成を建学の理念」とか,「キリスト教的人類愛と生命の尊厳を基本とし,社会に貢献しうる看護実践者」とかの文言が目に入った瞬間,ぎょっとさせられた。
はたして,その「キリスト教的人類愛」とは,旧約聖書の創世記第2章に書かれているわけだが,「アダム(男)のあばら骨からイブ(女)が造られた」といった記述に忠実なるそれであったのか?
というのは,『聖書』の記述にしたがって考えるに,男が優先的に存在していて,そのあとに「男から女が創られた」という論理的な順序が想定できないわけではなく,だから,この想定に依ってさらに,「不正入試もまたしかりであり,その要領に即した手順で男を優先し,女はあとまわし……」という寸法に計れる物差しでも使っていたのか,などと問うてみたくなった。
この種の問いが湧いてくることじたい,悪い笑い話だとみなしえても,とてもではないが少しも笑えない『聖書の話』の応用編とあいなっていた。聖マリアンナ医大の名称にある「聖」という字は,あまり信用できないものとして,われわれの網膜には映っている。
2)「建学の精神と使命」-ホームページに戻って引用するー
昭和46(1971)年,故・明石嘉聞博士によって東洋医科大学の名で創立・開学して以来,附属病院,看護専門学校,大学院などがつぎつぎ々と併設され,医学教育における理想的な環境を築いてきた聖マリアンナ医科大学。本学のめざす教育は,あくまでも生命の尊厳を守り,医師としての使命感を自覚し,人類の福祉に貢献できる医師の育成です。
そのため,本学では『キリスト教的人類愛に根ざした「生命の尊厳」を基調とする医師としての使命感を自覚し,人類社会に奉仕しうる人間の育成,ならびに専門的研究の成果を人類の福祉に活かしていく医師の養成』を建学の精神にかかげ,6年一貫教育体制のもと,一般教育から専門教育にいたるまでキメ細かなカリキュラムを設計。
医師としての自覚と,将来必要となる基本的医学知識,技能,態度の修得をはかり,プロフェッショナルとしての誇りと,豊かな人間性,そして幅広い教養をもつ医師の輩出に力を注いでいます。
人間関係がますます複雑化すると予想される21世紀,医の倫理が,その重要性を一層増してきています。そうした時代には,さまざまな最新の科学技術を駆使したハイテク医療にも増して,いのちある者を思いやる豊かな人間性を培うことが重要な課題となります。
これからの医師は,あたたかい人類愛に根ざした「医のこころ」を備えていなければなりません。「医のこころ」とは人類の健康と幸福に奉仕するこころ,医学に携わるものが持っていなければならない人としての倫理です。そして,この使命感こそ医学生を支える精神的バックボーンといえるでしょう。
補注)「医の倫理」? その前に男女平等の実現が必要なこの聖マリアンナにおいては,なによりも「男女平等の倫理規範」の実現が喫緊事と推量されるが,まるで他人事であった。
不正入試(あからさまな男女差別)が疑われて以来,とりわけ,対応する態度が非常に悪いままの姿を,はしなくもさらしつづけてきたのが,ほかならぬこの聖マリアンナ医大であった。
〔本文に戻る→〕 医を志す者に終着点はありません。どんなベテラン医師であっても,生涯が学習の場となる以上,その精神的拠りどころとなるのは,生命の尊厳であり,生命への畏敬の念でしょう。私たち聖マリアンナ医科大学は,こうした人間尊重の立場に立った医学教育を実践する気鋭の医科大学なのです。
補注)「生命の尊厳と畏敬の念」「人間尊重の立場」とは,まさしく「男女差別を許さない」理念や立場も,当たりまえに含んだそれだと思われるが,聖マリアンナ医大において発言されるこの種の概念は,タテマエとホンネの間で大きな齟齬を来たしている。
とくに本ブログ筆者からの補注的な祈祷の文句としてならば,こういう文句にしておきたい。⇒「生命の尊厳」および「人類愛」は,男に対しても女に対してもすべからく均等に与えたまえ,アーメン:Amen!
〔聖マリアンナ医大のホームページ本文に戻る→〕 本学の医学教育には,生命への畏敬の念と命ある者を思いやる豊かな人間性が礎にあることをつねに心に留めておくため,本学の使命として明文化した。また,今後さらなる国際的な発展を遂げるにあたり,英文による標語を作成した。
補注)国際化の目標を強調する前に,まず最初に不正入試における「男女平等」を完全に確保することが,聖マリアンナ医大では必要不可欠である。「入試での男女平等」なくしてグローバル化などありえない。これは,いうまでもなく当然の指摘である。
〔本文に戻る→〕 今後,これを標語とともに本学の使命としてかかげ,ミッションカードを作成のうえ,広く学内に周知し,医学部学生ならびに教職員全体の医学教育に対する意識向上につなげる。
補注)聖マリアンナ医大のミッションカードには「不正入試の徹底的是正」は,いままでの関連する経緯に接したかぎりでは,「当時までは」まだみつかっていなかった。
また,過去においてこの医大が不正入試によって,女性受験者たちに与えてきた各種の打撃,とくに精神的な損傷行為に対していっさい補償に応じるつもりもないのだとしたら,この医大は「医大らしくもない対応」をしていたものとみうける。
なお既述にもあったとおり,不利益を受けた女性受験生からの訴訟では聖マリアンナ医大側が敗訴していた。
日本の学校法人にはミッション系が多くあるが,聖マリアンナ医大のような学校法人がミッション系を謳っているのは,いささかならず耳障りに聞こえる。そう受けとめてもいいような,言動が目立っていた。
それにしても,なぜ聖マリアンナ医大は,自学が記録してきた「不正入試」(第3者側からみて,常識的に判断して,そうだったとみざるをえない)を,否定しつづけてきたのか不可解であった。仮に認めてしまっていたら,特別になにかまずいことでもあったのか?
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