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北朝鮮による「日本人拉致問題」は解決に向かう展望が期待できるか(?)安倍晋三政権時は「ヤルヤル詐欺」同然の対応ばかりで「拉致問題の政治悪用」に終始した実状はいまもなんら変わりなし(その1)
※-1「伊藤智永〈土記〉安倍拉致3原則の限界」『毎日新聞』2024年3月30日朝刊2面,https://mainichi.jp/articles/20240330/ddm/002/070/123000c
a) 毎日新聞社の幹部社員が書いたこの論説「安倍拉致3原則の限界」はあの幼児的な感性丸出しにしたかっこうになっていたが,2010年代中,日本という国家体制を完全に3流化させたあげく,とうとう「衰退途上国〔家体制〕」にまで落としこんでしまった,
まさに「世襲3代目の政治屋」としてならば,その亀鑑たる役目を最先端を切って遺憾なく果たしてきた安倍晋三君が,実際には,北朝鮮による日本人拉致問題を解決できる「政治家としての資質・配慮・采配」を,まったくもちあわせなかった事実について言及していた。
岸田文雄君も以下に参照するこの論説には登場してくるが,この首相もまた「世襲3代目の政治屋」としてならば,きわめてにぶい政治的な感覚の持主でしかありえなかった事実は,3年ほどになる首相任期を通して,国民たちには嫌というほど露呈させてきた。
「世襲で政治屋をやっている」彼らの政治手腕というものが,もしもあるとしたら,それは自分の立場・気分がよくなることにしか能(関心)がなかった。政治は誰のためにやるものかといったら,自分たちのためだというふう具合に完全に勘違いしていながら,それでいて,そのトンチンカンぶりに全然気づかないでいられるところにからは,彼ら(彼女ら)の人間として精神的な基盤がいつも〈液状化〉状態にあった事実が,ひしひしとだが自然に伝わってくる。
b) それでは以下に伊藤智永のいいぶんを聞こう。
20年ぶりの日朝首脳会談はあるか。岸田文雄首相は北朝鮮の金 正恩朝鮮労働党総書記に「ともに新しい時代を切り開くため,条件を付けず直接向きあいたい」と呼びかけてきた。〔2024年〕2月,総書記の妹の金 与正同党副部長が「関係改善の新たな政治決断をするなら,新しい未来をともに切り開ける」と異例の談話で応じた。その後,表の応酬はあっても,水面下でただならぬ動きが進んでいる模様だ。
〔3月〕27日,国会内の大会議室で「拉致問題の行き詰まりを破るカギは何か」を考える集会があった。ロシア近代史と現代朝鮮が専門の和田春樹東京大学名誉教授(86歳)が呼びかけ,国会議員や識者,報道関係者ら100人以上が参加。
横田 滋さん(故人)と早紀江さん(88歳)が,2014年にモンゴルのウランバートルで,めぐみさんの娘(横田夫妻の孫)キム・ウンギョンさんとその娘(夫妻のひ孫)に対面した時の穏やかな笑顔,成人し元気だったころのめぐみさんが写った秘蔵写真も映写され,会場は静まりかえった。
2002年と2004年,小泉純一郎元首相による2度の訪朝後,日本では安倍晋三元首相が拉致問題を自分の権勢拡大と権力維持に最大限利用した。世論向けに拳を突き上げ,外交交渉を事実上断絶し,結果的に問題解決を遠ざけてきた。
補注)要するに安倍晋三は,小泉純一郎が開削してきた日本と北朝鮮との外交関係領域を,自分の個人的な利害・特質の観点のみからイジクリまわしたあげく,結局,その成果:基盤を破壊した。まさに「初老の小学生・ペテン総理」(ブログ『くろねこの短語』氏の命名)といわれるユエンが,遺憾なく発揮されていた。
北朝鮮と日本の関係をめぐっては,そのもっとも象徴的な印としてならば「例の〈ブルーリボンバッチ〉」が介在していた。このバッチの件については後段であらためてとりあげることをひとまず断わったうえで,解説記事に戻る。
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〔記事に戻る ↓ 〕
c) 拉致は,北朝鮮の国家犯罪であり,重大深刻な人権侵害である。人として国として許しがたいい。でも,その北朝鮮と交渉しなければ解決はない。和田氏は「安倍拉致3原則」の転換を提言する。
原則1「拉致問題はわが国の最重要課題」
→北朝鮮が核武装したいま,むしろ北朝鮮と平和善隣関係を作ることこそ「わが国の重要課題の第一」であり,「拉致問題は重要課題のひとつ」とあらためる。
原則2「拉致問題の解決なくして日朝国交なし」
→「拉致問題の解決は日朝国交正常化交渉の過程で実現できる」としていた小泉外交の路線に戻る。国交正常化とは,北朝鮮を「良い国」と認めて利することではない。
原則3「拉致被害者全員の即時一括帰国」
→小泉路線の「生存者の帰国および死亡者に関する納得できる説明と賠償」に戻る。
補注)この程度の条件が,専門家の口を借りてとなっていたが,いまさらのように提起されることになったが,安倍晋三が首相の座に就いていたときどれほど幼稚な外交しかできなかったか,あるいはやろうにも,もとからできなかった世襲政治屋であったという限界は,
以上のごとき「自分が国家が外交をするのだ」という重要な任務に関した「基本理念というものが最初からなにもなかった」かのごとき姿勢からして,そもそものこちら(日本)側における固有の難題として抱えこんでいた。
たとえば安倍晋三は,外交の舞台を通して「ロシアのプーチン」となんども重ね,「北方領土の返還を」実現させるつもりでいた。だが,あにはからんや,今後は完全にその期待を断ち切られてしまった。
それでいて,一部のネトウヨ的な方面からは「外交のアベ」だとか称賛されていたが,根本からして彼にはまったく似つかわしくない評判が発せられたりしていた。この種の “ヨイショ” はまさに贔屓の引き倒しどころか,事態(日本の内政および外交の全体そのもの)をコッケイ化せしめる様相しか招来させえなかった。
〔記事に戻る→〕 日朝国交正常化推進議員連盟の衛藤征士郎会長(一時中座)ほか衆参12議員が傾聴していた。
ロシアとウクライナ,イスラエルとパレスチナの戦いがやまない。いわく「悪は誰か,どちらが正義か」「命より大事な守るべきものがある」。誇り,尊厳,権利,憎しみ,愛国心。そして殺しあいは続く。乗り越えるべきは私たちの心の中にある。(日経引用終わり)
d) ところで,日本の国会議員たちが上着の左襟に常時着けている「ブルーリボンバッチ」は,現在,まるで「葵の紋」の21世紀版であるかのように映っている。このバッチを身に着けていれば,「私たち日本人は北朝鮮による日本人拉致問題を絶対に許さない決意」がある人間だ,という証明のための小道具として役立たしめられている。
つまり,一方の「北朝鮮は加害者:絶対悪」であり,他方の「日本・日本人側は被害者であり,その点からした絶対的に無条件に被害の立場にいる」という絶対観念が「正義そのものにまで熟成しえた精神の構え」として,確固たる信念にまで昇華しえていた。
だが,前述の原則3点はそれじたいでは外交には使えない素材だったゆえ,もっと政治的に現実味ある成果を期待するためであれば,こちら側の基本姿勢を構えなおす必要を強調していた。
「被害者=絶対善」であるかのように思えば当然,「加害者=絶対悪」という対軸が分かりやすく立てられることになるが,この対立軸が普遍(不変)の真理であるかのように観念させられたら,実は交渉事に進捗は期待できなくなる。
実をとるためには名を捨てる覚悟も必要だが,そうした取引次元の発想とは無縁の立場じたいが絶対視されていたとしたら,これは外交もなにもあったものではなかった。
自国の主張と他国との駆け引きの政治過程における「かけ算・割り算」は,どのように読みこんでいけばいいのか,100点満点だけを期待する姿勢では,外交はなにも始まらない。
しかし,すでに北朝鮮側からはそこまで日本側がいったのであれば,拉致被害者問題の何百億倍・何千億倍にもなるくらい,敗戦前に旧大日本帝国が蓄積してきたあこちら側への「加害の無限大的な負の蓄積分」こそが,しかも,もとより「比較にすらなりえないほど重大かつ深刻で広範囲な被害」を朝鮮側に与えつづけていた事実を,いくらでも・どこまでもたいそう反発しながらいいつのることは容易になしうる。
つまり,19世紀後半からの歴史関係となるが,日本と朝鮮(韓国)との間で形成されてきた外交関係は,北朝鮮による日本人拉致問題の1件にのみ注目すればよく,そのほかの問題がすべて雲散霧消させられるわけなどあるはずがなかった。仮に拉致問題がひとまず決着・解決できた場合,それはそれでその時点から「日本は北朝鮮に対する植民地時代などに関した補償問題」を片づけていかねばならない。
「ブルーリボンバッチ」をかかげたら,以上のごときこれから未来の問題がすべて消えてなくせるのではない。
だが率直な感想といえるのては,「北朝鮮による日本人拉致問題」の1件が日本・日本人側の被害の事実としてあるという一事をもって,それ以外の両国間において今後解決を迫られる外交問題が,すでにすべてもうなにもなくなっているかのような口舌を披露する日本・日本人側の態度は,あまりに軽慮であり,現実無視であった。
e) 前段の記事に登場させた和田春樹は学究の立場から,その「原則1・2・3」を提言していたが,この中身はなにも,むずかしいリクツを特別に工夫していわれたものではなかった。国際政治・外交関係を現実的に推進させるために必要かつ十分な条件を指摘していたに過ぎない。
和田春樹の主張は,いうなれば自分の上着に付けている「ブルーリボンバッチ」の現実的な効用を期待したい人たちには,多分,大いにお気に召さない実質になっていた。だが,ものごとは外交の舞台における話なのであって,単なる個々人間の人間関係の好き嫌いの問題ではない。
とりわけ,その「ブルーリボンバッチ」を上着にいつも付けているたとえば国会議員たちは,そのバッチのメッセージ性(訴求効用)に関して一定・特定の反応・効果を期待しているに違いない。だから,むしろ,着けないことによって逆に不利を生むかもしれない,このバッチの実在的な意味を相当に気にしている。
かの国では「金◉◉」といった氏名の人物肖像バッチなどには各種のバッチがあり,これを着けることは義務であるかのように社会的強制が働いている。日本のほうでの「ブルーリボンバッチ」はもちろん,かの国のそれらバッチとは同じあつかいにはなっていないけれども,自民党国会議員を中心に,いささかならず,異様な様相を異様とは思わない現実となって,その着用の様子が展開されている。
つまり,彼我の間柄においてとなれば,なにか共通する政治的な含意が共通していないとは限らないのである。もちろん,双方の国柄の相違はこれまた異次元的にまで広がる内実があるとはいえ,それでもその底面をよくのぞいてみるに,両国間を通して,つながっている含意が汲みとれなくはない。
【参考記事】-この記事( ↓ )は「ブルーリボンバッチの着用」についてあれこれ議論がなされていた様子を記録していた-
f) さて,2024年9月27日に実施された自民党総裁選では石破 茂が選出された。近日中に石破は日本国首相に国会で選出されるが,こうした日本の政治の動静に関しては早速,拉致被害者側からつぎのような要望が示された。
以下に引用する記事(※-2以下のこと)を読む前に断わっておくべき事実は,前段のごときに似た経緯はすでに,何十回となく反復されてきた出来事であった点にある。
まるで,無限軌条の上をいつまでもどこまでも走るつづけるほかなかった「運命」に弄ばれてきたごとき,「拉致被害者の家族たち」のこれまでを回顧すると,またもやその延長線をさらに走らされているような「彼ら・彼女らの姿」が髣髴する。
以上のように記述してきた中身からその芯に相当する部分だけを抜き出すとしたら,それは自民党を中心とする政治家たちによる拉致問題の,「いわば都合のよい政治的利用」だけが突出して目立っていた。
いまは死んでいないが,北朝鮮側の金 正日が,2002年に初めて訪朝した小泉純一郎首相に対して,自国側の責任を認める発言をした事実を画期的な転回点にしたかのように,ともかく「日本・日本人側に悪い点はなにもない」,「北朝鮮・指導者側だけに責任がある」というリクツが確固と成立しえた。
だが,その両国間の立ち位置に関した観方は,その相対的な関係性からして,日本・日本人側からはあたかも絶対的な関係性とみなしてしまったために,もはや冷静沈着な拉致問題の解決方途が遠のいてしまった。
それにくわえて,あの安倍晋三が自分の立場や自政権の支持率を維持するためだけに,つまり,姑息な「北朝鮮マター」の悪用しかおこなわなかったがゆえ,国際政治をめぐる話題に関して,
自国の「自分たちの立場だけが絶対に正しく」,相手国の「立場は絶対に悪い」のだといった感情を,意図的に国民たちに扶植してしまった。事後,外交問題としての拉致問題を正攻法で解決していくための基盤が完全に崩壊させられ,再構築するのが非常に困難となった。
外交問題は相手国が完全に悪い場合であっても,それはそれで完全には無視できずに交渉する以外に手立てがないにもかかわらず,外交の成果として狙う目標を当初から絶対的な表現でしかおこなえないとなれば,これは外交の実際の手順としては最初から,みずから閉塞状況を作りだしたも同然であった。
いわば,駆け引きの意味を3歳児並みの感覚でもって,そのさい「ブルーリボンバッチ」も胸に着けてとなっての話題だが,話は出発点以外の番外地ところから模索せざるをえなくなっていた。
前段で和田春樹が提示した「3原則」の修正は,そのあたりの困難をまえもって回避するための提議であったが,「ブルーリボンバッチ」の着用でもって,ある意味,確信した気分をもっている人たちの立場にとってみれば,和田の外交に関した路線の定座など,なんら異議がみいだせないのかもしれない。
つぎの※-2以下は,「北朝鮮による日本人拉致問題」に対して格別の関心をもたない人であっても,いまさらのように既視感に浸れる記事・内容である。
※-2「自民党総裁選 拉致問題の解決『すぐにやって』 被害者家族」『毎日新聞』2024年9月28日朝刊,https://mainichi.jp/articles/20240928/ddm/041/010/131000c
北朝鮮による拉致被害者の家族からは自民党の新総裁に選出された石破 茂氏に対し,日朝首脳会談の早期実現を求める声が上がった。
石破氏は,2002年4月に超党派の国会議員により発足した「拉致議連」の初代会長を務めた。拉致問題の解決に向け,東京と平壌に連絡事務所を設置するとの政策をかかげている。
横田めぐみさん(行方不明時13歳)の母早紀江さん(88歳)は〔2024年9月〕27日,川崎市内で報道陣の取材に応じ,拉致問題について「すぐにでも,一番にやっていただきたい」と求めた。
連絡事務所の設置について,被害者家族らからは,北朝鮮の交渉引き延ばしに乗ることになり,解決につながらないとの意見がある。早紀江さんも「変な方向にいくのではないか」と懸念を示した。
めぐみさんの弟で,拉致被害者家族会代表の横田拓也さん(56歳)は「家族会が絶対に譲れない全拉致被害者の即時一括帰国という方針を貫いてほしい」とコメントした。(引用終わり)
すなわち,この種に類した記事・報道は,いままでわれわれがそれこそさんざんに,いいかえれば,繰り返して接してきた内容・中身と完全に同一であった。
かつては,アメリカ大統領のブッシュ(息子)も,拉致被害者の家族に面会していた。オバマもそうしていた。いうまでもないが,前者は共和党,後者は民主党のそれぞれ大統領。
彼らアメリカの大統領はいったい,なんのために「拉致被害者の家族の彼ら・彼女ら」に会ってくれたのか? そして,その会見がその後における拉致問題の進展にどのようなよい影響があったのか? この点をまともに検討した識者はいたのか?
アメリカの大統領といえども,拉致被害者の家族たちと面会することが自分たちの利害によい効果がある,と判断しての対応であったと観察するほかあるまい。
以上のような問題意識があって当然であるはずだから,ここではひとまず『日本経済新聞』がつぎのように,拉致問題を解説記事としてとりあげ論及していた点を聞くことで,この問題をより冷静かつ客観的に読みこみ,政治問題に対する理解力を少しでも高めてみたい。
※-3「日朝探る対話(上)拉致解決,世界分断が阻む 最後の首脳会談から20年-北朝鮮,ロシアに武器提供 後ろ盾得て日本揺さぶり」『日本経済新聞』2024年5月22日 2:00 ,https://www.nikkei.com/article/DGKKZO80839700R20C24A5PD0000/
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北朝鮮による日本人拉致問題に関し,日朝首脳の最後の直接交渉から〔2024年5月〕22日で20年が経過する。この間,日本政府は対話の機会を断続的に探ってきたが目立った進展はない。2022年のウクライナ侵略後にロシアと北朝鮮が接近するなど,国際社会の分断の深まりが拉致問題の解決への道筋をより複雑にする。
小泉純一郎首相(当時)は2004年5月22日に北朝鮮を訪問し,金 正日(キム・ジョンイル)総書記と2度目の日朝首脳会談をした。拉致被害者家族5人の帰国と安否不明者の調査再開を申し合わせた。2002年の小泉氏の初訪朝,拉致被害者5人の帰国に続く動きだった。
補注)こういう関連の事実も付記しておく。
「なお,ジェンキンズ氏と2人の娘は,小泉総理大臣とともに来日することは果たせなかったものの,〔2004年〕7月にインドネシアで妻である曽我ひとみさんと再会,7月18日に来日した。ジェンキンズ氏については,11月3日,米軍軍法会議で,最大30日間の拘留及び不名誉除隊等の判決が下され,服役したのち,11月27日に釈放され,12月7日,一家4人で佐渡に到着した」
註記)「拉致問題」『外務省』ホームページ,https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2005/html/honmon2005.html から。ジェンキンス氏に対する「米軍による懲罰」の実態は,ただの象徴的な対応であった。
〔記事に戻る→〕 拉致問題の解決へ期待が高まったものの,交渉は突如幕を閉じた。このときの北朝鮮の思惑は,いまの日本へのアプローチと通じるところがある。
★-1 米国見据える
2004年当時,北朝鮮が日本に接近してきたのは,イラク,イランとともに北朝鮮を「悪の枢軸」と批判したブッシュ米大統領(第43代〔息子のブッシュ〕)との交渉の糸口を探していたからだ。小泉氏はブッシュ氏と友好関係を築いていた。
現在,バイデン米大統領はウクライナと中東,中国と「3正面」の対応を迫られており,北朝鮮への関心はけっして高くない。米国の関心が遠のけば日本に揺さぶりをかける。北朝鮮がみすえる先は,いつの時代も日本ではなく米国だ。
北朝鮮の金 正恩(キム・ジョンウン)総書記は,〔2024年〕1月の能登半島地震の被害に対する見舞い電で,岸田文雄首相を初めて「閣下」と呼んだ。
金 正恩氏の妹で朝鮮労働党副部長の金 与正(キム・ヨジョン)氏は2月以降,連続して日朝首脳会談に関する談話を出した。「重要なのは日本の政治決断だ」と指摘し,拉致を障害にしないのであれば岸田首相の平壌訪問もありうると断言した。
米国では11月に大統領選が控える。民主党のバイデン大統領と,2018年に初の米朝首脳会談を実現した共和党のトランプ前大統領が対決する。
日朝トップ会談の実現を熱望する岸田政権にメッセージを出しつづけることで,北朝鮮の話題を米国に働きかけさせる意図が透ける。韓国では尹 錫悦(ユン・ソンニョル)政権が北朝鮮に強硬姿勢を貫く。
4月の国賓としての訪米などで米国と関係を強固にし,日米韓首脳の枠組みにも入る岸田首相は,米国にくわえて韓国を動かすためにも利用価値がある。
★-2 侵略後に接近
なぜ日朝のトップ対話が実現しないのか。日本の歴代政権は拉致問題を最重要課題と位置づけてきた。拉致問題は解決したとの姿勢を崩さない北朝鮮との隔たりは大きい。さらに国際情勢の激変がくわわった。
2022年2月のウクライナ侵略以降,日米欧の民主主義陣営と中国やロシアの覇権主義陣営が対峙する構図が強まった。北朝鮮は中国との関係強化にくわえ,ロシアに武器支援などで接近しているとみられる。
「ロシアの拒否権行使に深く感謝する。(北朝鮮への)制裁決議は米国の凶悪な敵対政策の産物だ」。
北朝鮮の金 星(キム・ソン)国連大使は今年4月の国連総会での会合で,ロシアが制裁決議の履行状況を調べる専門家パネルの任期延長に拒否権を行使したことに謝意を示した。
2023年9月には金 正恩氏がロシアを訪れてプーチン大統領と会談するなど,北朝鮮とロシアの距離は急速に縮まっている。年内のプーチン氏の北朝鮮への訪問も取り沙汰される。
北朝鮮にとって,米国が「唯一の競争相手」とまでいい切る中国と,米国が向きあわざるをえないロシアの後ろ盾があれば,日本と本気の交渉をする必要はない。
北朝鮮がいま日朝首脳会談を開いて拉致問題のカードを切る必要がないと考えているふしがある。適度に日本を揺さぶりつつ米国との交渉の余地を探る一つの手段としておけばいいからだ。
実際,金与 正氏は3月26日の談話で日本側からの接触を「拒否する」と表明し〔豹変し〕た。(〔 〕内補足は引用者)
★-3 林 芳正官房長官が3月25日に拉致問題は解決済みとする北朝鮮の立場を「受け入れられない」と述べたことに「日本は新たな朝日関係の第一歩を踏み出す勇気がまったくない」と批判した。「朝日首脳会談はわれわれの関心事ではない」とも強調した。
日本が「3点セット」と主張する〔前段で和田春樹がとりあげていたそれ⇒〕拉致・核・ミサイルの同時解決は,北朝鮮が軍事大国の中国,ロシアと接近するなかで非現実的な解になりつつある。
そもそも,日本の経済力の低下が拉致問題の進展を阻む要素にもなっている。北朝鮮がロシアへの武器輸出で外貨を稼ぐいま,かつてのように経済支援などを拉致交渉の材料にすることじたいがむずかしい。
北朝鮮情勢に詳しい平岩俊司・南山大教授は「北朝鮮は中ロとの関係を強化し,新冷戦の構図をつくって米国と向きあおうとしている」と語る。「米国が申し出ても対話に応じない現在の北朝鮮が,譲歩してまで日本に接近するメリットはない」と説明する。
「日本との交渉の唯一にして最大の目的は国交正常化後の経済協力だ」と強調する。(引用終わり)
※-4「日朝探る対話(下)消えた『非核化カード』-北朝鮮,『奇襲力』を強化」『日本経済新聞』2024年5月23日 2:00,https://www.nikkei.com/article/DGKKZO80866150S4A520C2PD0000/
★-1 北朝鮮が2004年の日朝首脳会談からの20年間で強化したものの一つが,日本や韓国,米国に対する軍事攻撃力だ。この間,6回の核実験を断行し,日本の防衛省が数えただけで200発近い弾道ミサイルを発射した。
「日本が敵視するならわれわれの敵とみなされ,標的に入るようになっている」。北朝鮮の金 与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長は3月の談話でこう表明した。
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近年は固体燃料を使うミサイルの開発に力を注ぐ。従来の液体燃料型と違い,燃料注入の時間が不要になる。事前に準備をして即座に発射できるため,奇襲攻撃が可能になる。さらに核弾頭を積めば実戦仕様の核兵器が完成する。
2019年ごろから韓国を狙う固体燃料の短距離弾道ミサイルを繰り返し試射する。2023年に米本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)でも固体燃料型「火星18」の発射を成功させた。2024年からは日本全土やグアムが射程に入る中距離弾道ミサイルも固体燃料型の実験をする。
発射するたびに新たな技術を試す。「サイロ」と呼ぶ地下施設から短距離弾を試射したり,弾頭部にマッハ5(音速の5倍)以上で飛行する極超音速兵器を搭載したり。最近は狙ったところに精密に落とすための「誘導」も改良を進める。
日米韓が非難する弾道ミサイルの発射は,北朝鮮にとっては「自衛力強化」(金 与正氏)の一環だ。即座に核攻撃できる能力をもつことで相手の攻撃を思いとどまらせる「抑止力」を自前で整備し,外交の主導権を握ろうとしている。
北朝鮮は1950年代から核開発の構想をもったとされる。米国や韓国に支援を要求するさい「非核化カード」を交渉の切り札にした。1990年代に核拡散防止条約(NPT)からの脱退を宣言して脅威を高め,核開発を凍結する米朝枠組み合意を結ぶ。その裏で核開発の道は残しつづけた。
2000年代は再びNPTから脱退を宣言し,6カ国協議にもちこんだ。2010年代は核実験を重ねた末に,2018年の史上初の米朝首脳会談を実現させた。緊張を高めて対話にもちこむ「瀬戸際外交」を展開しつつ,核開発は目標どおりつづけた。
北朝鮮のこの伝統手法は節目を迎えつつある。国会にあたる最高人民会議は2023年9月,憲法に核兵器の保有を明記する案を採択した。ついに核兵器の運用にメドをつけ,もう「非核国」に簡単に戻ることはないと事実上宣言した。
「公正かつ平等な姿勢でわれわれの主権と安全利益を尊重するなら,日本の安保の脅威にはならない」。金 与正氏は談話でこう主張した。
「拉致・核・ミサイル」の3点セットの交渉をしてきた日本に「拉致は解決済み,核・ミサイルを廃棄することはもうない」と迫る言葉と取れる。3点セットを前提にする交渉はいっそう困難さを増す恐れがある。
日本はどう対処すべきか。防衛省防衛研究所の渡辺武アジア・アフリカ研究室長は「対話をめざす過程でも,自身の軍事力,同盟力を強化する選択肢を手放してはいけない」と強調する。
北朝鮮が対話に応じるとすれば,狙いは日米韓の分断にある。日本は拉致問題で合意点を探りながらも,北東アジアの抑止力は維持するしたたかな外交が求められる。(引用終わり)
以上の北朝鮮事情に関した解説記事を読んでとなるが,「ブルーリボンバッチ」の意味は,いかように理解すればよいことになるのか? 疑問しか残らない。それ以外になにも湧いてもこない印象すら受ける。
先方とこちら側の発想のあいだには大きな断層というか,目にはよく映らないような格差があった。安倍晋三の対・北朝鮮外交は実質なにもなかったというか,むしろ負的(不適な)対応の態度しか,こちら側においては保持できていないまま,ズルズルと「拉致被害者を返せ!」という叫びを挙げるばかりであった。
本日はここまでの記述にするが,2002年に小泉純一郎の北朝鮮訪問を成就させた田中 均(当時の外務省アジア大洋州局長)は,北朝鮮と事前に秘密裏に交渉し,2002年の日朝首脳会談を実現させていた。つぎの田中の最新になる文章を紹介しておきたい。その間における首相岸田文雄に対する評価はケチョンケチョン。
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「本稿(1)」の続編(2)は出来しだい
ここ( ↓ )に指示する。
⇒ https://note.com/brainy_turntable/n/n5dd1e78fbcb2
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