東電福島第1原発事故現場から排出される「処理された汚染水」の問題
NHKの,「東電福島第1原発事故現場からトリチウムが排出(海洋放出)される事実」をめぐるアイマイにそれも不埒な報道姿勢は,「不検出」という放送中に使用された表現の意味が,不可解かつ奇怪である事実に関して発生していた。
付記)冒頭の画像は『東京新聞』2021年8月25日から借りた。東電福島第1原発事故現場から排出されはじめた「汚染された処理水」の処理方法を概概略図にしている。
「非検出」とか「未検出」という表現を充てるならまだ意味が分かるといえそうだが,トリチウム以外の何種類もの放射性核種を含むのに,その事実を「不検出」とはなんぞや?
※-1 NHKのニュース:2023年8月26日17時10分(19時00分など)の報道を視聴していて,それこそズッコケタ
ともかく,このニュースの全文を以下に引用しておく。表題のほうでもさきに指摘したごとく,この肝心で大事な焦点を故意にボカしたような,オトボケ風にずっこけた報道内容には,呆れた。
★ トリチウム 魚から「不検出」 福島第一原発周辺で 水産庁 ★
=『NHK NEWS WEB』2023年8月26日 17時10分,
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230826/k10014175021000.html =
東京電力福島第1原子力発電所にたまる処理水の海への放出を受けて,水産庁は原発周辺の海域で捕れた魚のトリチウムの濃度を分析した結果,検出できる下限の濃度を下回り,「不検出」だったと公表しました。
東京電力福島第1原発にたまる処理水の海への放出が〔8月〕24日から始まったことを受けて,水産庁は今後1か月程度,毎日,原発の10キロ圏内で捕れた魚に含まれるトリチウムの濃度を分析し,公表することにしています。
補注1)疑問がもとよりあった。環境庁の説明によるまでもないのだが,その処理水--これをより正確にいうと,「まだ汚染水である状態になんら変わりない」,いわば「処理された汚染水」--のなかには,
トリチウム以外の放射性物質(核種)として,「原発事故を起こした東電福島第1原発」から発生する汚染水であるゆえ,トリチウムの他,セシウム137,ストロンチウム90,ヨウ素などの放射性物質が含まれている。
東電福島第1原発事故現場では3基もの原発が溶融事故を起こしていたゆえ,いまも,この溶融物(デブリ)を洗うようにして流出してくる排水は,放射性核種のセシウム137,ストロンチウム90,ヨウ素なども含んだ状態でもって,つまりは完全には除去されないまま,海洋に放出されている。
事故を起こしていない原発がトリチウムを放出する事実とは異なり,事故を起こした原発からは,デブリ--原子炉の圧力容器から格納容器〔も突き抜けている可能性もあるが〕まで溶融・落下した堆積物--と接触,汚染した地下流水が,ALPSという浄化装置を使用したあとでもまだ,前段のごとき放射性核種を含んだ状態で,つまり「処理されたが依然,汚染水」である特性をもって,そのまま太平洋沿岸に排出されている。
補注2)ALPSとは,Advanced Liquid Processing System の略,さまざまなな放射性物質を取り除いて浄化するための「多核種除去設備」である。しかし,この設備の機能・性能には限界があった。
「処理水」という用語は,非常な誤解を招く表現を採っていた。ちなみに汚染水のことを処理水と呼ぶのは日本だけであり,このコトバにはまやかしがあった。その事実を踏まえていえば,たとえば『時事通信』の世論調査の場合,「処理水の放出」について尋ねた結果,賛成のほうが多くなっていた。
けれどもそうではなく,「汚染水の排出」について世論調査のなかで尋ねる質問形式にしたら,どうなったか? 同じ結果がえられるか?
つぎの関連する世論調査の結果は『朝日新聞』のものである。同様の疑問を当てはめて再考すべき中身が,結果として出ていた。
〔ここでNHKの記事に戻る→〕 〔8月〕25日,放出後初めて,原発周辺の海域で水揚げされたヒラメとホウボウが,宮城県多賀城市にある施設にもちこまれ,分析が進められていましたが,26日午後,結果が公表されました。
それによりますと,いずれもトリチウムの濃度は,1キロあたり10ベクレル程度としていた,今回,検出できる下限の濃度を下回り,放出前と変わらず「不検出」だったということです。
補注3)このリクツ:論法じたいがとても不思議な表現を採っていて,理解できかねた。表題のなかにさきに触れておいたが,以下に具体的に説明してみたい。
「不検出という意味がそもそも奇怪であり,非検出とか未検出なら意味が分かるところに,トリチウム以外にも放射性核種を含むのに不検出とはなんぞや?」という疑問は,「日本語としての漢字の意味」を,しかも初歩的に再問するものであった。
※-2 前段に「トリチウムの濃度は,1キロあたり10ベクレル程度としていた」けれども,「今回,検出できる下限の濃度を下回り,放出前と変わら」ないゆえ「不検出」だというのは,どだいリクツが成立しない
どうして「下限の濃度を下回」ると,トリチウムは「不検出」だと述べられるのか? これは日本語として理解を超えた表現である。理化学通論の基本的な思考にも完全に逆らっている,つまり間違えている。
その検査の都合上「未検出になった」とか,検査方法に不備や精度の問題があって「非検出のままである」という説明ならば,まだ分かる。ところが下限の濃度を下まわっていても,トリチウムの濃度は10ベクレルでも検出じたいはされているにもかかわらず,「不検出」とはこれいかに?
率直にいってきわめて不埒かつ不躾の見本みたいな不見識である。放射性核種の汚染度に関しては,たとえばこう説明されている。
その基準値のいかんにかかわらず,1ベクレルでも検出されれば「既検出・有検出」であると説明されねばならない。
ところが「不検出」という表現を採る場合,これはそのベクレルの値は「ゼロ」ということになる。論理上そうなる。このような筋が通らない説明がありうるか?
参考にまで「食品中の放射性セシウムの基準値(H24〔2012〕年4月1日~)」は,こう制限されている。
食品区分 基準値(ベクレル/kg)
飲料水 10ベクレル/kg
牛乳 50ベクレル/kg
乳児用食品 50ベクレル/kg
一般食品 100ベクレル/kg
あくまで,たとえ話となるが,つぎのように類推して批判しておく余地があった。
たとえば大学で学生が定期試験の点数が45点だとしたさい,これは合格点の60点未満なので,単位取得は「不可」の成績となる。このとき,この学生は試験を受けており,その結果の点数45点が出ているにもかかわらず,「未受験」(提起試験欠席!?)だったということになるのか。
大学生の定期試験の合格点が60点以上の場合,そうだとしたら,「59点未満」を成績がついた学生は「全員,実は試験を受けていなかった」ということになる。
こうした比喩の説明の仕方で,前段の「未検出」という表記を使い,「数値で出ていたはずのベクレル」の統計を無(ゼロ)とみなすかのような「処理」は,完全におかしい。というよりは,ある意味「相当に感覚がズレている」,もっと突きつめていうと「狂っている」といえなくもない。
〔少し間が空いたが,再びNHKの記事に戻る→〕 水産庁は,今後も原発周辺で水揚げされた魚について翌日か翌々日には分析結果を公表するとともに,より広い範囲で水揚げされた魚についても分析するなど,日本産の水産物の安全性に関する情報発信に努めたいとしています。(引用終わり)
※-3 以上に議論し,批判した記事の内容は本来,つぎのように報道されてよかった
なにゆえNHKは,絶妙ともいえない奇怪なニュースの報道をしたのか?なかなかは理解しがたい日本語の用法を駆使(?)していた。だから,NHKは「犬! アッチ いけー」などしばしば罵倒されてきた。
日本放送協会はいまではすっかり,国家体制・権力側の「▲ヌ同然」である国営放送局の立場を採っている。以前はまだ「準国営放送」だといってもらえる体質も残していたが,最近は完全に「国家の手先」「お先棒担ぎ」を果たす場面が目立っている。
イギリスのBBC職員たちの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいところだが,なにかもったいない気がしてならないのが,安倍晋三の第2次政権下で完璧に「動物化したかのようなNHK」であった。残念なことである。
「皆様のNHK」? 皆様で誰のことか? われわれ=国民・市民・庶民でない点だけは確実……。
※-4 参考記事『くろねこの短語』2023年8月27日の紹介
この記事の住所は,以下である。
⇒ http://kuronekonotango.cocolog-nifty.com/blog/2023/08/post-97b5f8.html
『くろねこの短語』氏,このように「お後がよろしいようで」と締めていたが,現実においてのこの「原発事故国:日本」の惨状は,「原子力非常事態宣言」がいまだに発令中であり,解除されるみこみすらついていないという事実を踏まえて直視する必要があった。
現在まで日本の政治社会はこれじたいが「政治事態異常緊急宣言」を発令すべき “ヘタレた状態” を持続してきていた。そのなかで,トンチンカンそのものであったが,実に「変な日本語の使いまわし」が,原子力村様のご意向を「忖度」してなのか,ヘンテコ度も絶好調の日本語表現:「未検出」が「まかり通る日本」になっていた。
そんなこと・こんなことばかりが,さらにこれ以上に平然と通用する国になったら,もう一巻の終わり……。岸田文雄の「世襲3代目の政治屋」としての為政もひどすぎる。
安倍晋三もひどかったが(菅 義偉は論外で),岸田文雄も使いものにならない政治屋,例の「売り家と唐様で書く三代目」であった。だが待てよ,この家に住んでいるのは「世襲3代目の政治屋」たちだけではなかった。原子力村の住民にあっては,原発利権に目が眩んでしまった多種多様なガリガリ亡者が居た。
これから近いうちにヘタをすると,南海トラフ(付近)を震源地とする2011年3月東日本大震災級の大地震が再び襲来したら,日本にたくさんある原発のうち何基が,ヘタをするとヤラレテシマウ,のではないか?
まさしく,堺屋太一「日本沈没」である。原子力非常事態宣言は伊達ではない。
※-5 参考情報-原子力資料情報室から-
※-6『毎日新聞』2023年8月22日夕刊から
この記事からは一部だけ引用しておく。
--「足尾鉱毒事件が終わったとはいえない」ととらえる。
足尾鉱毒事件と東電福島第1原発事故は確かに共通する公害問題となっていたが,その本質面においては本源から質的に重大な差もあった。それは後者における『放射性物質の介在』である。
原爆を原発に応用した人類・人間たちであったが,アメリカのトルーマンは問題児とみなすほかなかったし,最近ではロシアのプーチンが要注意の危険人物である。
鉄腕アトムの漫画的な世界の次元に留まっているかぎり,放射性物質(核種)が人類・人間たちにもたらす害悪性は,想像の彼方における出来事で済まされるが,いまでは原発のせいで,その《悪魔の火》を電力生産のために焚いてきた誤断が,この地球の歴史にとって最大に凶悪な顛末を招いた。
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