EndlessなSHOCKの沼
これまでの自分の人生で最も盛り上がった瞬間は何だろう。
感動やドキドキわくわく、幸福感のピーク。
初めてA5ランクの牛肉を食べたとき。
初めて回らない寿司屋でウニを食べたとき。
初めて有名店のウナギを食べたとき。
初めて白子の天ぷらを食べたとき。
……食べ物ばかりじゃないかよーう。
いや、私にだって食べ物以外のピークはある。
初めてEndless SHOCKを観たときだ。
「日本一チケットが取れない」とも言われている堂本光一さんのミュージカルを、大の光一さんファンの母が当ててくれた。
当時まだファンクラブに入っていなかった母が、新聞に掲載された公演案内をみてハガキ1枚で見事に当てた。
「まあ当たるワケないけどさぁ。」
「そりゃそうだよ!ないない。」
ハガキを書きながらお互い口にしつつ、目の奥のギラつきは異様だった。
届いたチケットを開封するときも同様だった。
「まあどうせ後ろの席だろうけどさぁ。」
「そりゃそうだよ!ファンクラブが前の方なんだよ絶対。」
何故かいちいち保険をかけたい母娘。
震える手で封筒を開け、丁寧にチケットを取り出す。
前から2列目だった。
「どどどどどうせ端っこだよ。」
「そそそそうだよ。全然みえない席だよ。」
…ここまでくると本当は観たくないのではないかと思うほどのネガティブさである。
帝国劇場の座席表をネットで調べ、自分達のチケットと照らし合わせる。
中央ブロックの2列目だった。
当日は母も私も緊張のあまり朝から一切くちを聞かずに帝国劇場に到着した。
帝国劇場の入口には大きなパネルが飾られている。
すっかり手慣れた感じのSHOCKプロな先輩達が歩道から写真を撮っている。
SHOCKド新人の私なんかが写真を撮って良いのだろうか。
新人も必死で撮影。
もうこの写真を撮っただけで観劇した気分になり感激だった。
(上手いこと言っちゃって)
帝国劇場に初めて足を踏み入れた感想は「ひゅ〜♪ゴージャス〜✨」である。
赤い絨毯敷きの床は歩くとふかふかだった。
なるほど自然と浮き足立つ仕組みだ。
場内には着物姿のSHOCK先輩までいる。
そして母と私はいざ神席へ。
近い近い近い!むしろ怖い!
この至近距離で「堂本光一」を観てしまって生きて帰れるだろうか。(特に母。)
母に異変が生じたらすぐに避難できるよう、私は非常口の場所を確認した。
ざわざわしていた会場が暗転し静まり返る。
(この瞬間はコンサートにしても映画にしても最高の瞬間だと思う。)
そして私たち母娘の初めてのSHOCKが幕を開けた。
階段の上に光一さんのシルエットだ!
シルエットだけで既にかっこいい。
「堂本光一」がまばゆい光のなか登場し、階段を降りてステージ前方まで真っ直ぐ(私をめがけて)歩いてくる。
光一さんと私たちの距離は体感1メートル。
いや、あれは1メートルないかもしれない。
(注:ある)
目の前にあの「堂本光一」がいる。
歌い踊っている。
なんだか良い匂いがする。
美人だなあ!!!
妖精を見たことはないが妖精のようだ……
あの瞬間まさしく人生のピークを迎えた。
そういえば母のことをすっかり忘れていたが無事だろうか。
隣を見ると母は輝く瞳の乙女と化していた。
そして光一さんが目の前に現れてから15分くらい経過したころだろうか。
母ではなく私のほうに異変が現れた。
突然の吐き気である。
人間というものは常軌を逸する美しさと出会うと拒絶反応を起こすのだろうか。
光一さんが目の前で歌い踊っているというのに断続的に「オエッ」と吐き気が込み上げる。
ハンカチを目に当て涙をおさえている人はいたが、ハンカチを口元に当て吐き気をこらえているのは私1人だけだ。
そのうち光一さんの異常ともいえる美しさに体が慣れ始め、最後までまさに「SHOCK」の連続で夢のような時間を過ごした。
中でも赤い布を肘の辺りで腕に巻きこみ、光一さんが自分の腕の力だけで宙を舞うリボンフライングは圧巻だった。
光一さんはもちろん、ひるがえる赤い布まで本当に美しく神々しい。
以降は母も私もKinKi Kidsのファンクラブに入会し毎年コンサートやEndless SHOCKを観に行っている。
もちろんKinKi Kidsが大好きであるが、やはりEndless SHOCKの沼は独特だ。
それは底なしで深い。
年々深さを増してゆく。
そして、沼と呼ぶにはあまりにも澄み切っていて美しい。
今年のSHOCKは残念ながらご縁に恵まれなかった。
しかし「あの素晴らしい舞台を毎年続けてくれるだけでも充分に幸せだ…(でも本当は観たかったよチクショウ…ううう(泣))」と美しい沼の底でしみじみと感じているのであった。