俳句を読む 59 久保田万太郎 夏場所やひかへぶとんの水あさぎ
夏場所やひかへぶとんの水あさぎ 久保田万太郎
掲句を読んでまず注目したのは「水あさぎ」という語でした。浅学にも、色の名称であることを知らず、いったいこのあざやかな語はどういう意味を持っているのだろうと思ったのです。調べてみれば、「あさぎ」は「浅葱」と書いて、「みずいろ」のことでした。さらに「水あさぎ」は「あさぎ」のさらに薄い色ということです。そういわれて見れば、「水あさぎ」という音韻は、すずしげな水面を連想させます。句の構成はいたって単純です。「夏場所」から「ひかへぶとん」へ連想はつながり、「ひかへぶとん」の属性(色)として「水あさぎ」が置かれているだけです。言い換えれば中七の「ひかへぶとん」が連結器の役割をして、両腕にイメージの強い2語がぶら下がっている格好です。しかし、構成は単純でも、出来上がった作品は独自の世界を見せています。「ひかへぶとん」の「ひかへ」が、「あさぎ」と相まって句全体に奥ゆかしさをもたらしています。みずみずしく力の漲った、透き通るような句です。作者には「夏場所やもとよりわざのすくひなげ」という句もあります。『作句歳時記 夏』(1989・講談社)所載。(松下育男)