俳句を読む 81 山口誓子 秋夜遭ふ機関車につづく車輛なし


 秋夜遭ふ機関車につづく車輛なし 山口誓子

遭ふは、あまりよくないことに偶然にあうという意味です。ということは、作者は駅のホームにいたのではなく、どこか街中の引込み線か、金網越しの操車場に向かって歩いていたのでしょうか。夜中にうつむいて、とぼとぼと歩いていたら、突然目の前に機関車がわっと現れた、というのです。それも、本来はいくつもつながっているはずの車輛が、見えません。なにかに断ち切られたようにして、機関車だけがそこにぽつんと置かれてあります。読むものとしては、どうしても機関車を擬人化し、引き離された孤独を感じてしまいます。またその孤独は、操車場近くの暗い道を歩く作者の内面から出たものとして、読み取ろうとしてしまいます。しかし、多くの車両を引くために、日々力強く走る機関車を、家族のために働き続ける世のお父さんやお母さんの姿とダブらせてしまうのは、作者の意図するところではないのでしょう。読み返すほどに、なにげなく置かれた「つづく」の見事な一語が、身にせまる孤独感をさらに増しているように感じられます。『俳句の世界』(1995・講談社)所載。(松下育男)

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