根津甚八、小林薫、唐十郎

唐十郎さんが亡くなられた。

ずいぶん昔、芝居を観る習慣のないぼくは、唐十郎のことを、もしかしたら現代詩手帖で知ったのかもしれない。唐さんの密度の濃い文章を、現代詩手帖の誌上で、しばしば夢中になって読んだ記憶がある。

それで、テントへ行って、唐さんの芝居をいくつか観に行った。

根津甚八が水しぶきの中で叫んでいるシーンを、今でも思い出す。そのうち根津甚八がテントからいなくなって、小林薫が主人公をやるようになった。どこかのんびりした印象の小林薫で大丈夫だろうかと、ぼくは思ったものだ。あまりにも根津甚八の切れ味と違っていたからだ。でも、その後、テレビで小林薫の広やかな演技をずっと観ることになるとは、その頃には思いもしなかった。本物だった。

だから「虎に翼」の小林薫を観ていると、どうしても若い頃に、テントの下で走り回っていた姿を思い出す。そしてその横には、唐十郎がいた。そして観客席には、若い頃のぼくがいた。

唐十郎、恐るべき才能。本物だった。ご冥福をお祈りします。

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