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事業性評価融資の末路 ~財務にあらわれない企業の強みとは?~

近頃、といってももうだいぶ前の話になりますが、銀行融資において「事業性評価融資」というものが話題になった時期がありました。

<事業性評価融資とは>
金融機関が融資判断を行う際に、決算書の内容(定量要因)や保全・保証に依存するのではなく、企業の事業内容や成長可能性など(定性要因)を評価して取り組む融資。
いわゆる「財務にあらわれない企業の強み」を融資判断の材料にするということです。

「保全・保証に依存しない」

「成長可能性を評価する」

素晴らしい言葉が並んでいますが、現実としては一瞬の盛り上がりだけで浸透せず下火になりました。まるで『金融界の白いたいやき』です。

そんな事業性評価融資について、現場の融資担当者の立場として思うことを書いてみます。


(1)何故、事業性評価融資は浸透しなかったのか?

個人的には大きく2つの要因があると考えています。

①銀行員に企業の成長可能性を評価する能力がなかった。

非常に厳しい言い方になりますが、銀行員は事業の素人です。そんな事業の素人である銀行員が決算書の数字以外の要因でどう事業性を評価したのか。実際に現場で起きたのは「特許」「商標登録」「資格」等の外部の評価をそのまま受け入れたのです。

金融機関の現場では、

「この会社は特許を何件も取っているから事業性評価のポイントが高い」

「この会社の商品は商標登録しているから事業性評価のポイントが高い」

「この会社は有資格者を多く雇っているので事業性評価のポイントが高い」

ということが普通に言われてました。

結局、何かお墨付きのが欲しいのが銀行員という人種です。それは決して銀行員個々の能力が低いというだけの問題ではなく、現場・企業と直接対峙しない上席・本部に対して説明し稟議承認を得るには、明確でわかりやすい指標が必要なのです。


②『財務分析ではなく事業性』という考えで取り組んだ。

本来の事業性評価融資は、根本的な土台としてしっかりとした財務分析があって、それを補う形での事業性評価という考えであるべきでしたが、どこを間違ったか従来の財務分析による融資判断を否定するような考えが主流になってしまいました。

事業性評価融資という言葉が出始めたころから、「財務分析なんてダッセーよな」「事業性融資の方がカッコいいよな」と、まるで某セ〇サターンのCMの様に、従来の主流であった財務分析は古いという認識が広がっていました。

中には『財務分析をしないのが事業性評価融資だ』ぐらい極端な考えの輩もいました。(もちろん少数派ですが…)

決算書をベースとした財務分析は、万能ではありませんが使い勝手がよく、現場を知らない上席への説明もしやすい指標で、実際に金融機関内の共通言語として浸透しています。

そんな便利なものを手放して慣れない「事業性評価」をやったのですから結果は最初から見えていたのかもしれません。


(2)事業性評価融資はどうあるべきだったか?

そもそも個人的には今回の記事のタイトルにもなっている「財務にあらわれない企業の強み」などというものはあり得ないという考えです。
経済活動によって財務的価値を向上させていく事が企業の役割である以上、「財務にあらわれない」時点で企業の強みでもなんでもないでしょう。

あり得るとすれば、「(時間的にまだ)財務にあらわれていない企業の強み」、もしくは「(技術・金銭・人員等のネックによって)財務にあらわれていない企業の強み」の2つだと思います。

要は何か問題が生じていて今のままでは企業価値にはならないけど、解決できれば価値を生むこと(収益を上げること)ができる状態ということです。

その問題を解決できれば、企業は劇的に改善し、財務にあらわれない強みが財務にあらわれてくるようになります。

そういった問題を抱える企業の問題を評価し解決する事が必要であり、その手段の一つが「事業性評価融資」なのでしょうが、ここで①の「銀行員に企業の成長可能性を評価する能力がなかった」に戻ってしまいます。


(3)銀行員は事業性評価融資にどう向き合うべきだったか

事業性評価融資については、単純な失敗というよりも、過度な高評価をしていたが簡単に扱える代物ではなかったという評価なのかなと思います。

そんな事業性評価融資に対して、我々銀行員はどう対峙するのが正解だったのでしょうか。

個人的な結論は『事業性評価メインではなく財務分析の補助として使う』ことだと思います。

慣れない事業性評価が主ではなく、あくまで主は財務分析で事業性評価は補助的材料として扱うべきだったのでしょう。

「確かに特許の保有はあるが、果たしてこれは利益つながるものなんだろうか?」

「同業者として比較して確かに有資格者は多いが、それならば何故同業者比較で粗利率に差がないのだろうか?有資格者数が利益につながっていないのではないか?」

一部で『陰湿金融』と揶揄されるが、銀行員の持つ適切な猜疑心は融資における武器の一つです。


確かに事業を適切に評価して、リスクマネーを供給するのはカッコいいやり方です。

ただその為には最低限業界に対する相応の知識が必要です。言い換えると銀行にとっては行員に知識を習得させるコストが必要であるということです。

そしてコストに見合うリターンがあって初めて成立するのが商売です。出資のような支援形態ならまだしも、もらえて金利2%~3%の銀行融資では中々リターンが見合いません。

そういう意味ではどっぷりと事業性評価につかるのは銀行、特に地方銀行には少し早かったのかもしれません。



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