第17話 みんなが主役になれるきっかけ
最近暑い日が続きますが皆さん、体調は大丈夫でしょうか。
今回私はフォーラムの隣にある「SLOW JAM」さんで、身も心も喜ぶ美味しいカオマンガイを食べてきました。
路地裏にひっそりと佇むこの店は、アパレルの仕事で世界を旅したオーナー神保さんのこだわりが詰まったお店です。
今回は取材記事を対談形式にしています。
SLOW JAMオーナー:神保さん
(山形R不動産取材担当:葛西)
※以下取材記事
葛西:
今回は取材受けていただきありがとうございます
神保さん:
いえいえ、こちらこそ。ありがとうございます。
葛西:
早速ですが、
店舗名の「SLOW JAM」の「SLOW」は、「R&Bやソウルミュージックの影響を受けた、テンポがゆっくりの曲」という意味でした。
「SLOW JAM」は神保さんがそういった音楽などの背景に影響されて名付けたのか、またはその他の理由があれば是非聞かせてほしいです。
神保さん:
「SLOW JAM」がR&Bとかヒップホップのメローな曲のジャンルであった事は、後々知ったというのが実際のところでした。
というのも、自分たちが造語のつもりで「SLOW JAM」と名付けましたからね。ほかにも○○JAMとか色々考えたんですけどね。
「SLOW JAM」になったのは、「スローフード」や「スローライフ」などの「SLOW」から取りました。「ゆっくり」とか「ていねいに」、「手作り」という意味で2000年代くらいにイタリアのムーブメントとして起こったものです。
山形に帰ってきたとき、だんだん年を重ねるにつれて「心豊かに、丁寧な生活がしたい」と感じるようになりました。その時、自分のイメージを言葉に表したとき「スローライフ」というのがぴったりで、その「SLOW」を入れたいと思いました。
神保さん:
また、「JAM」はジャムセッションから来ています。一つの音色から何かが派生するように、山形のアスパラガスや山形セルリーなどを生産する人たちも呼んでここで収穫祭をする。日本酒の初絞りのものが出来たら、生産者の方々とお酒に合うようなおつまみを作ったりして飲み比べてみる。というように様々なイベントを行っています。
それが一つのセッションのようになったら楽しいなという思いで「JAM」を付けました。
葛西:
R&Bやジャズなどは、楽譜に忠実というよりはそれぞれの即興に合わせながら音を創っているような気がしています。
その音はよりグルーブ感やソロプレイヤー感があって、それがこの場所で展開されていくというのが今の説明ですごく伝わりました。
葛西:
改装前、この場所はスケルトン状態でした。そこからリノベーションをして、今の様なかっこいい内装になっているという事を調べさせてもらいました。その過程を少し見せていただきたいです。
神保さん:
分かりました。
神保さん:
キッチンの水回りはもともと上がっていました。私が店をやる前に2年間空きテナント、その前は10年間イタリアン料理の店が入っていたんですよ。
葛西:
なるほど
神保さん:
それで、スケルトン状態からこのようなラフなスケッチを描いて、自分たちの手で改装を始めました。
神保さん:
この壁も「わざわざ模様を付けたんですか?」という声があるんですけど、実は元の壁材を剝がしただけで何も手は加えていないんですよね。
神保さん:
壁の塗りも業者さんにお願いすると、きれいにパキッとした壁になるんです。でも、それは店に求めていませんでした。シャビ―感を出したくて、あえて自分たちでかすれさせたぐらいが丁度良かったんです。
ここをリノベーションするという話を馬場先生としていたんですが、
「自分たちのニュアンス感を出すには、人に任せてやっても自分が満足いくものが出来ないですねー。」って。
自分の店でそれを実際に学ぶことが出来ました。お願いしても加減ってわからなくて、抜くところは抜くじゃないですけど。
神保さん:
これが6年前のドキュメンタリー映画祭の時の写真です。
市民会館とフォーラムの丁度真ん中が皆さんにとってのハブの場所になると思っていました。それでもう仮設でもいいから、ここをカフェとして開けたいなと思って、奥で映画を流しながら、ヤマガタヤタイをBOTA coffeeの英人君に借りたりしてやっていましたね。
葛西:
お店の準備期間にもここでいろいろ活動していたんですね。店の場所についての話がありましたが、ここ選んだ理由は何でしょうか?
神保さん:
そうですね。もしこの場所が駅前の一等地で、同じ家賃で借りることができても、あまり魅力的じゃないと私は思うんですよね。この路地に入って「ここに面白そうなお店がある、行ってみよう。」ぐらいがいいと思っています。
駅前にあるからついでに行く店というよりは、せっかくならあそこに行きたいなと思えるような店でありたいなって。
ここは路地裏でちょっと離れているけど、駅からは徒歩圏内という絶妙なバランス感の場所なんです。映画館と市民会館に挟まれていることで映画の余韻に浸ったり、劇を見に行く前にご飯食べたり、「こうだったよね。ああだったよね」って話せる場所が自分は欲しいと思うんです。
葛西:
余韻に浸れるのはいいですね。
神保さん:
ありがとうございます。ここなら自分もやってけるかな、やりたいなと思ったんです。ここじゃなかったらやっていたのかどうか分からなかったですね。
葛西:
私が思うにSLOWのニュアンスも今と少し変わってきそうですよね。
隣のスズラン商店街は夜の賑わいって感じですが、この通りはそれとはちょっと違い、
静かな心地よさみたいなのがありますよね。
神保さん:
そうなんですよね。暇すぎてうらやましく思うときもあります。矛盾するんですけど。(笑)
葛西:
私はこの通りがスズラン通りとはまた違う、人の通りはあるけど、どこか落ち着ける、
まさにSLOWな通りになっていくんじゃないかと思います。
神保さん:
それ貰います。(笑)
葛西:
ありがとうございます。(笑)
直近でのイベントは何かありましたか?
神保さん:
直近では展示も終わってしまったんですけど、細野茜さんっていうタトゥーアーティストの絵を展示しました。その時、岩壁音楽祭のアフターパーティーとして、ここでその子の友達がDJしたりライブしたりっていうのが3月くらいにありました。
神保さん:
他にも、「わたしの会社」という障がい者施設があるんですけれども、その施設の方々の絵を飾ったりもしていて。障害のあるないにかかわらず、この場所はみんなが主役であれる場所にしたくて、率先してこのようなイベントをやっていたという経緯があります。
神保さん:
時にはクラブイベントなどもやっているんです。
僕が20代前半の頃には、色んな有名人に会いたくてクラブとかに遊びに行ってたんですよ。だけど今の若い子たちってあまりクラブとかに行かないのかなという印象があります。
葛西:
そうかもしれないですね。
神保さん:
別にいいんだけど、行けない一個の理由として怖いし、どこにあるか分からないってところもあると聞いたんです。
葛西:
周りの目とかもありますよね。チャラいとか、自分はあまり思わないんですけど。
神保さん:
その面もうまく払拭したいなと思っています。うちはガラスで外から見えますからね。日曜の17時くらいから23時くらいでやっているので、意外と若い子たちも行ってみようと思うんじゃないかと。
同じ大学の見たことあるみたいな人でも、ついお酒の力も借りて輪を広がっていくような。「あれどこで友達になったんだっけ?あ、そういえばSLOW JAMのイベントだよね?」って言われるのがめちゃ嬉しいです。
葛西:
いいですね。
さっきの細野茜さんのタトゥーの話とか、クラブの話とか、一見社会的には裏の側面に見えるかもしれないけど、その良さやカルチャー的な物も必ずあると思っていて。神保さんはそこを大事にしている人なんだと伝わってきました。
神保さん:
そうですね。自分もやっぱりそこが好きだし。カルチャー生むまでは出来ないかもしれないけど、みんなが思い出話で「あそこでのイベントだよね。」って言ってくれると自分もやった甲斐があるっていうか。
物は絶対になくなるけど、思い出だけは残るから。そっちのほうがいいかなって。ほんと経営とかよりは、思い出作りのほうが大事で。
葛西:
おすすめや一番人気のメニューはありますか?
神保さん:
今は、タイのカオマンガイというのをやっています。カオヤムというタイの料理は日本でいう「鯛めし」みたいな。お魚が一匹どんと乗ってそれをみんなで混ぜてシェアして食べるというのが向こうの御目出度いときにたべるものがあって。それを山形の野菜とかを使ってSLOW JAMのオリジナルにしたのがこのタオマンガイです。
神保さん:
あと他のメニューとしてはグリーンカレーです。ランチメニューとして出しているのはその二つになります。
山形に居ながらにして旅を味わえたらおもしろいと思っていて。タイはこんな食べ方、イスタンブールではこう食べるんだなんて、それがきっかけで旅とかしてくれたら、なおうれしいんです。旅を楽しんでほしくて。
今はこの二つなんですが、その前はいろんなメニューを出していました。
夜はおつまみメニューを多く出しています。
その中でもやっぱり大事にしているのは、「SLOW」の部分は軸はブレたくないんです。
外食はどうしてもジャンクなイメージになりがちです。その中で、添加物や化学調味料が入っていない、体によいもの、自分たちが納得するものを提供したいと思っています。
葛西:
日本に帰ってきてから、重度の病にかかったというのを記事で見かけたのですが、そこから山形の食材や無農薬無添加を意識したのですか?
神保さん:
そうなんです。白血病で自分が余命3週間を医者に宣告されたんですよ。若いから血も速く巡っちゃって。今は生きていて結果オーライなんですけれども。抗がん剤を打つことで後遺症が残ったり、「果たしてほんとにそれで良かったのか。」なんて思う事もありました。
1週間2週間はさすがに10万人に1人かと思った時に、「10万に1人じゃんけんで負けるのって、よっぽど運悪いな。」と思って。(笑)
悪い事しすぎたなー、なんて。
でも2週間経つともう割り切って、モルヒネだったり、毎月すごい抗がん剤を打たれるんですけど「こんな経験なかなかできないじゃん。」とか楽しむしかなくなっちゃって。
葛西:
振り切れたんですね。(笑)
神保さん:
そう、振り切れちゃって。でも、このまま死んだら何が一番嫌なんだろうって考えたとき、
「まだ沢山の笑顔を見れてない。まだ死ねないな。」という事を考えたんですよ。
“どうせ死んでもあの世とか良く分からないから、あとどんだけの人の笑顔を最後思い出してこの世からされるか。”
と思ったんですよね。
神保さん:
それがこの店を始める一番のきっかけですね。たまり場を作れば、もっとみんなの笑顔を見れるんじゃないかって思ったんです。
以前アパレルで働いていたときも、もちろん精一杯頑張っていました。でもそれ以上にいろんな人を笑顔にすると考えた時、せっかくならそれを体現しているのは料理とかで、
「いいものを食べて、健康かつ楽しく明日の活力になって、いい仲間が増えたらすごくいいじゃん。」と考えました。「SLOW」と「JAM」がこの場所で体現出来たらいいなと思っています。
葛西:
ありがとうございます。この場所でみんなが主役になるきっかけを作れれば、山形はもっと面白い街になりそうですね。本日は取材ありがとうございました。
神保さん:
ありがとうございました。
(文/写真) 葛西大悟
店名:SLOW JAM
TAL:023-687-1320
住所:山形市香澄町2丁目8-1 1F SLOWJAM
営業時間:月~水 11:00~16:00
金~日 11:00~22:00
水 定休日