前回の第4回記事では、1/15に牧野フライス製作所(以下、マキノ)がニデックに要望書を提示したことを紹介いたしました。それを受けて早速、ニデックが1/17に要望者に対する見解を公表していますね。以下になります。
しかし、回答早いですね。この手の大型案件のプレスリリースは起用している法律事務所の弁護士が起案するのが常ですが、ニデック、マキノの起用する法律事務所はどこかは知りませんが、私も20年近くいくつかの大手法律事務所の弁護士とM&Aや企業再編関係などで一緒に仕事をしてきましたが、こういう重要案件で起用する法律事務所の弁護士は優秀だなと毎回思います。
さて、これまでの経緯は以下になります。
本日は今回のプレスリリースなどを簡単にポイントをご紹介します。
「サタデー・ナイト・スペシャル(Saturday Night Special)ではない」
マキノはニデックに対する要望書でニデックが突然に何の前触れなく買収提案をしたことを“サタデー・ナイト・スペシャル”と批判しましたが、ニデックは「ちゃいますよ」という回答をしています。プレスリリースで以下のように記載されています。
私はこの「サタデー・ナイト・スペシャル」という言葉は始めて聞いた言葉であり、米国の買収実務も知らないので、どちらの主張が正しいのかは判断はつきませんが、真向から認識が対立しているようです。
また、事前に打診がないことについては、ニデックは次のように主張しています。
「よーいドン」で同じ土俵で始めるということを重視するのであれば、ニデックの主張はもっともな気もします。
一方、企業の経営陣と株主の間には大きな情報の非対称があると思います。そういう中、買収という極めて重要な問題についてマキノの経営陣に一切の打診なく、マキノの経営陣と株主に「よーいドン」で同時に検討を開始させるのもどうかなと個人的には思うところはあります。
「3ヵ月あれば十分な検討は出来るでしょ」
前回の要望でマキノはTOBの開始が4月4日とされていることについて、期末決算対応で十分な検討の時間の余裕がないので、年度決算発表後の5月9日にして欲しいということを要望していました。
これに対して、ニデックは12月27日に買収提案をしているので、4月初旬まで十分な時間は与えているでしょうという主張かと思います。以下がプレスリリースの記載になります。
個人的にはニデックの主張もなるほどと思います。本決算のタイミングまで待たずとも買収提案の是非について検討は出来るだろうと思いますし、もし、本決算のタイミグで、何か今後の価値向上施策などの新たなコーポレートアクションなどを発表するとした場合でも、ひとまず4月上旬の時点では「今後、本決算のタイミングで具体的な施策を公表する予定です!」といったような開示をしておけば、そのタイミングまでマキノの株主はTOBへの応募の是非を待つということも考えられるように思います。
いずれにせよ、私がもしマキノの株主であったとしたら、本件の行方によって株価が乱高下する状況に置かれているわけであるので、マキノの経営陣の検討結果は少しでも早く知りたいだろうなと思います。
いろはの“い”ですが・・買収提案(TOB)に応じるか否かはマキノの株主が自己判断すること
今回のTOBの中で、情報を提供する、情報を検討する云々がお互いの主張に出ていますが、今更ですが少しだけここを整理します。
買収提案であるTOBに応じるか否かは対象会社の株主が自己責任で自由に判断することです。株式の売買は投資家や株主の判断で行うものであり、当然ですよね。
ただし、株主は判断するにあたって必ずしも十分な情報がない場合があります。特に個人株主の方などは、経営トップと面談しているアナリスト異なり得られる情報には限りがあります。アナリストレポートは読めるとしてもです。買収提案など極めてデリケートな場合には、より精緻な情報が必要になります。
そこで、株主が判断するに十分な情報を対象会社が提供するとともに、株主に検討のための十分な時間を与えよといっているわけです。整理すると次のような感じです。
TOBに応募するか否かは株主が自己責任で判断する
それぞれの株主の株式の取得単価は異なるし、また、投資のタイムホライズンも異なる。いくら儲けたいか、いつまでに儲けたいかの思惑は人それぞれ
結果、株主はTOB価格が「株式価値はこんなもんじゃない。安すぎるわ!」と思えばTOBに賛同しないし、「チャンス!」と思えば賛同する
ただし、株主は必ずしも十分な情報と検討の時間がない場合もある
そこで上記のような判断が出来るよう対象会社は株主に十分な情報と判断のための時間を与える
今回のような同意なき買収があると買収者の行動を感情的に批判する声も出ますし、特に対象会社の従業員の方はそう思う方が多いのかも知れません。
けど、株式を上場しているということは、株式は市場で流通している以上、常に誰かに支配されるリスクがあり、その支配者が良いか悪いかはその株式の株式を保有する株主が判断するということです。