[書評] 嬢王
みなさん、こんにちは。Naseka です。
私は 哲学者・書評家・エッセイスト として、
自らを定義しています。
初めて読んだのは、
たしか大学生の頃だったか
就職した直後の頃だったか。
当時好きだったタレントが
オススメしていたのが、
手に取ったキッカケだったと
記憶している。
本作品はキャバクラを舞台にした
大人のマンガである。
当時は何となく
主人公の女性が魅力的だったことが
印象に残ったくらいで、
あとは何となく
「大人な話をしているなぁ」
といった感想しか抱かなかったが、
ふと思い出して
手に取って読み返してみた。
あれから10年以上経つが、
私もそれなりに歳を重ねて
当時とはまた違った感想を得た。
アダルトな描写も多いので、
未成年には薦められないが
ある程度 社会というものを
経験した人には
ぜひ読んでみてもらいたい作品である。
人の本性
キャバクラといえば、
キャバクラ嬢(以下、キャバ嬢)が
売り上げを競う世界である。
その競争の激しさは
そこいらの会社員の比ではなく、
ズバリ言ってしまえば
「いかに客に金を使わせるか」
の勝負である。
あくまでも「お客様」ではなく「客」、
「お金」ではなく「金(カネ)」。
表向きはどれだけ丁寧な
振る舞いをしようとも、
その本性は客を食い物にする
恐ろしい女性たち。
彼女たちは、
たとえ太客であったとしても
本心では相手を対等に
見てはいないのである。
…というのが、おおよそ作中に現れる
キャバ嬢たちのスタンダードである。
もちろん現実のキャバ嬢たちが
そのように考えているのかまでは、
私の知るところではない。
(仮に店に赴いて尋ねたところで、
本音を聞き出すことは
容易ではなかろう)
ところが、主人公:藤崎彩は
この世界において異例ともいえる
本心から
「お客様と対等に向き合う」
キャバ嬢なのだ。
やむにやまれぬ事情で
この世界に足を踏み入れ、
六本木で No.1のキャバ嬢を
目指していくことになるのだが、
その常識外れな人の良さで
苦戦をしつつも 試練を乗り越えていく。
No.1 を目指して戦う中で
様々なライバルたちとの
勝負を受けるのだが、
どんなときであっても
彼女は自分の信念を貫こうとする。
果たして この熾烈な競争の世界で
「人の良さを守りつつ戦えるのか」
というのが ひとつ、
この作品の主題といえる。
SNS という競争社会の中で
若かりし頃に読んだ時の私は、
どちらかといえば
客側の視点だったように思う。
やれ誰それがタイプだの、
こんな女性と親しくなれたら嬉しいだの、
極めて表面的な部分しか見ていなかった。
だからこそ、
「大人向けのマンガだな」
などという上から目線とも
下から目線ともつかないような
薄っぺらい感想を抱いて
終わってしまっていたのだ。
記憶の限りでは、
一度 最終巻まで読んだ後は
読み返すことがなかったはずである。
だが 10年以上の時を経て
読み返してみると、
当時とは全く違った印象を
受けることになる。
まだ1年にも満たないが、
私もここ数か月で
SNS というものに勤しむようになった。
そこでは自らの発信だけでなく、
端末の先にいる相手との交流を楽しむ。
さりとて「楽しければ満足」と
いうことでもなく、
そもそも始めた動機は
「本業とは別の収益が欲しい」
というもの。
要は「カネ」目的である。
目的が目的だから
筋が通っていると言えなくもないが、
ある時期 私はとにかく
収益の多寡ばかりを気にしていた。
特に目標とする人や
ライバルと(勝手に)思う人と
自分を比べて、
どこかで私も意地になっていた。
「あの人よりも上に行きたい」
だが、その感情が強くなればなるほど
目の前の相手を
蔑ろにしているようにも思えた。
恥ずかしながら、
今振り返ってみて感じた。
あの頃の私の心理は、
「客から金を引き出そうとするキャバ嬢」
そのものだった。
目の前の相手たちは、
今いくら私に出してくれているのか。
今月の売り上げ(収益)は
いったいいくらになりそうなのか。
そこには相手への敬意などというものは
感じられるはずもない。
顔が見えないことをいいことに、
私は欲望を剝き出しにして
SNS に興じていた。
申し訳程度に弁解しておくと、
相手に向けたコメントや
発信した文章については
嘘偽りない気持ちを込めている。
それを書いている
(打ち込んでいる)間だけが、
唯一 私が相手への敬意を
思い出していた時間だった。
だが、改めて
この「嬢王」を読んでみて考えた。
あるべき姿・目指すべき姿は
他のキャバ嬢のような
「戦い」方ではなく、
彩のように
「相手と対等に向き合う」
ことではなかったのか。
私の場合は幸いなことに、
少しずつ成果が表れてきたことで
焦りの中から余裕を取り戻すことができた。
その余裕によって、
本当に大切にすべきこと
すなわち SNSの中での
相手との向き合い方を見直すに至った。
今では「かね、カネ、金」と
卑しくなることはなく、
あくまでも「交流を通した中で」の
収益化を目指している。
自分の中で道を見失い、
また 本来の道に戻って来れたからこそ
彩の生き方に深い共感を覚えたのだ。
立場変われば思いも変わる
SNS で交流することは、
キャバクラに通ずるところがある。
求めるのが「いいね」の数なのか
「収益」なのかの違いはあれど、
承認か金銭かを求める
「欲望」に基づいた行為である。
特に収益化を目指すと、
「目先の利益」ばかりに
目が向きがちである。
そうなれば自ずと
「目の前の相手」を見ることが
疎かになる。
短期的には相手、
すなわち「人」を見なくとも
成果は出せるのかもしれない。
社会の中で生きていく上では、
どこかでそういった戦い方を
求められる場合もあるのかもしれない。
だが、それは
人の「道」には反するのだ。
「道」に反したやり方は、
いつか必ず綻びが訪れる。
得てしてそれは、
自身が窮地に陥ったときに現れる。
非情に生きるなら、それも承知の上で
「非情に徹する」覚悟が
なければならない。
しかし、私が目指す生き方は
「非情」ではない。
そうであるならば、
目の前の相手と向き合う誠意こそが
常に大事にしなければ
ならないものなのではなかろうか。
彼女は相手と向き合う大切さを
思い出させてくれた。
青臭い話かもしれない。
マンガだから成り立つ
キレイ事かもしれない。
それでも彩の姿は、
「斯様に在りたい」と
感じさせてくれる生き方である。
こんな人にオススメ!
・接客業に従事している人
・信念や生き方について考えたい人
・キャバクラの世界(夜の世界)に
興味がある人
・大人の雰囲気が漂う作品が好きな人
こんな人には合わないかも…
・未成年
・性的な描写が苦手な人
(→性的な描写がしばしば表れる)
お読みいただき、ありがとうございました。
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