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故意ってなあに?「悪いと思っていなかった」も重要な争い方

こんにちは、弁護士の髙野です。
性犯罪事件に関連して「同意があると思っていた」という被告人の主張が報道され、多くの方が違和感を覚えたのではないでしょうか。確かに被害者の立場からすれば、そのような主張は身勝手に聞こえるかもしれません。しかし、この主張は法的には極めて重要な意味を持っています。今回は、なぜこのような主張が重要なのか、刑事事件における「故意」についてお話していこうと思います。

「故意」とは?

刑法では、犯罪が成立するためには厳格な要件を満たす必要があります。これは、どのような場合に犯罪となるのかが明確でなければ、私たちは安心して生活を送ることができないからです。その重要な要件の一つが「故意」です。故意とは、端的に言えば「犯罪となる行為だとわかっていて、あえてその行為を行うこと」です。あえて乱暴な言い方をすれば「悪いとわかっていて悪いことをすること」が故意ということになります。刑法は、次のように定め、故意がなければ、たとえ外形的には犯罪に当たる行為であったとしても罰しないとしています。

罪を犯す意思がない行為は、罰しない。 

刑法38条1項

故意がないのに罰せられるのはとても恐ろしいこと

なぜ故意が必要なのでしょうか。それは、ある行為を非難できるのは、その人が「悪いことだとわかっていながら、あえてその行為に及んだ」場合に限られるからです。その人が、悪い行為であることを認識しており、通常その行為をやめなければならないと思うはずなのに、その心理的なハードルを乗り越えてまで行動に出たからこそ、その行為は非難に値するのです。
故意がないということは、この心理的なハードルを乗り越えるというプロセスを経ていないということです。なんの問題もないと思っていた平坦な道を歩いていただけなのに、突然犯罪だと言われてしまう。これが故意がなくても罰せられる世界の怖さです。

過失犯という例外

ただし、日本の法律でも一定の場面では故意がなくても犯罪が成立することがあります。これが「過失犯」です。典型例は交通事故です。一定の場面では、人には「このように行動しなければならない」という義務が課せられています。例えば、車の運転者には「信号を守る」「前方をよく見る」といった義務があります。このような義務に違反した場合、つまり信号を見落としてしまった場合などは、故意がなくても(意図的に信号を無視したわけではなくても)犯罪が成立する可能性があります。
しかし、このような過失犯が処罰されるのは、法律で明確に定められた場合に限られます。それ以外の犯罪については、すべて故意が必要なのです。

故意が争点となる典型的な事例

実務では、様々な場面で故意の有無が争われます。以下にいくつかの典型的な例を挙げてみましょう。
まずは、殺人罪です。確かに相手に向けて包丁を突き出した。しかし手を狙ったのであり、腹に刺さってしまったのは急に相手が動いたからだ、という場合。このような場面では「殺意」という形で故意の有無が争点となります。
次に、薬物の密輸事件です。外国から日本に来た人が持っていた荷物の中に大量の薬物が入っていた場合。荷物に薬物が隠されていることは知らなかった、知らずに持ち込んでしまっただけだから、薬物密輸の故意はないという争い方をすることになります。
最後が、不同意性交等・不同意わいせつ事件です。冒頭でお話した「同意があると思っていた」というケースです。この場合、被害者とされる人が真実同意していなかったのか自体は直接の問題とはなりません。真実同意していなかったとしても、加害者とされる人が同意があると認識(誤解)していたのであれば、故意がないとして犯罪は成立しないのです。この事例については詳しく書いたnoteがありますので、興味がありましたらそちらをお読み下さい。

取調べ対応と弁護活動の重要性

故意は人の内心の問題であり、直接的な証明は困難です。他人の頭の中でどのように考えていたのかは、神ならぬ人には完全にはわからないからです。しかし、犯罪が成立するための要件である以上、捜査機関はこれを立証しなければなりません。
故意を証明する最も簡単な方法は何でしょうか。それは、その本人に故意があったと認めてもらい、供述調書に残すことです。そのため捜査機関は、故意が争点となりそうな事件では、被疑者の供述を徹底的に調書に残そうとします。
ここで重要になるのが弁護活動です。故意が争点となりうる事件では、取調べにおいて適切な対応を取れるよう、弁護士による的確なアドバイスが必要不可欠です。弁護士が故意の問題を理解していなければ、供述調書に安易に故意を認めるような内容が記載されてしまい、その後の防御が極めて困難になってしまいます。

まとめ

したがって、「同意があると思っていた」という主張は、単なる言い逃れではなく、刑法の大原則に基づく正当な主張なのです。このような事案では、故意の有無について慎重な証拠調べと判断が必要とされます。被疑者・被告人の権利を守るためには、故意の問題をよく理解した弁護士による適切な弁護活動が不可欠なのです。

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