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検察官は本気で勾留しようと思って請求してるのか?警察への配慮の可能性

こんにちは、弁護士の髙野です。
先日とある事件で裁判官に検察官の勾留請求を却下してもらうことができました。その際「検察官は本当に勾留するつもりがあって請求したのかな?」と改めて感じましたので、今日はそのことについてお話ししたいと思います。

最大で20日拘束されてしまう

まず、逮捕と勾留について簡単に説明します。 逮捕による身体拘束は72時間までと法律で定められています。捜査機関はより長期の身体拘束である勾留を請求することができ、認められれば最大20日間の身体拘束が可能となります。勾留は被疑者にとって大変な不利益を被るものです。
手続きの具体的な流れとしては、逮捕された人は翌日か翌々日に検察庁に送致され、担当検察官と面談します。検察官は勾留の必要性を判断し、必要があると考えれば裁判官に勾留を請求します。東京の場合、勾留請求された人は翌日裁判所に連れて行かれ、裁判官と面談します。裁判官が勾留の必要性を認めれば勾留が決定され、検察官と会った日から10日間の身体拘束が継続します。この期間はさらに10日間延長することも可能です。一般的に検察官は延長請求を行うことが多く、結果として逮捕から20日以上の身体拘束が続くことになります。

勾留を回避するために弁護士ができること

私たち弁護士は、逮捕された人から依頼を受けた場合、まずは勾留を回避するために全力を尽くすことになります。
最初に行うのが検察官への働きかけです。検察官が勾留を請求しなければその日のうちに釈放されるため、勾留の要件を満たしていないことや必要性がないことを書面にまとめ提出します。具体的には、被疑者の住居や職業の安定性、家族による監督体制、示談の進捗状況など、できるだけ多くの資料を集めて提出するようにしています。
検察官が勾留を請求してしまった場合は、今度は裁判官に対して同様の働きかけを行います。裁判官が検察官の勾留請求を却下すれば、被疑者は釈放されることになります。
それでも勾留決定が出てしまった場合は、別の裁判官3人に勾留決定に誤りがなかったかを審査する「準抗告」という不服申立てを行います。
逮捕勾留について弁護士ができることの詳細は、こちらのnoteをお読み下さい。

検察官は本気で勾留の必要があると考えて請求しているのか?

先日の事件では、送致前日に依頼を受けたため、検察官への働きかけから行うことができました。しかし、万全の資料を提出したにもかかわらず、検察官は勾留請求をしてしまいました。後でお話する理由から、私はある程度このような結果を予想しており、被疑者にもそのことは説明してありました。翌日、同じ資料を裁判官に提出したところ、勾留請求は却下され、依頼者は釈放されました。
ここで気になるのは、検察官が準抗告を申し立てなかったことです。万全の資料を最初から準備できたので、検察官に提出したものと裁判官に提出したものは同じです。検察官が勾留を請求した後に事情の変更があったわけではありません。検察官からすれば、同じ資料を見ているのに裁判官は自分の勾留請求を認めなかった、ということになるわけです。検察官は裁判官の判断は誤っている、と考えるはずですよね。準抗告の申し立ては検察官もすることができます。勾留請求を却下した裁判官の判断は誤りだから、別の裁判官3人で考え直してくれ、と不服を申し立てることができるのです。しかし、そうしなかったのです。実はこれは珍しいことではなく、勾留請求却下の場合に検察官が準抗告する割合は低い印象です。
このような状況を見ると、検察官は本当に勾留の必要性を感じて請求しているのか疑問が生じます。もし必要性を感じていないのに請求しているのであれば、拘束される依頼者はたまったものではありません。

逮捕した警察への配慮が働いているのでは?

あくまで私の推測ですが、警察への配慮が働いているのではないかと思います。通常逮捕の場合、警察は事前に検察官と相談して逮捕に踏み切ることが多いようです。警察としては、裁判官に逮捕状を出してもらうため、それなりの準備をしていますし、資料をまとめ裁判所に提出するなど手間をかけています。警察としては逮捕の72時間で釈放するつもりはなく、当然勾留まで視野に入れているはずです。
もしここで検察官が勾留を請求しなければ、警察官はどう思うでしょうか。検察官は後で警察官から「検察官がGOサインを出したから、色々準備して逮捕したのに、なんで勾留請求しなかったんだ。」と文句を言われるのではないでしょうか。このような事態を避けるために、検察官は私達から意見書や資料の提出を受け、内心勾留の必要がないと考えたとしても請求せざるを得ないのではないかと想像しているわけです。だからこそ準抗告まではしないのです。「勾留請求したけど裁判官が認めなかったのだ」と裁判官のせいにすればよいわけですから。

まとめ

もし私の推測どおりであれば、決して許されることではありません。勾留は被疑者の自由を大きく制約するものです。不必要な勾留によって、被疑者は仕事を失ったり、家族との関係に支障が生じたりするなど、取り返しのつかない不利益を被る可能性があります。その必要性は厳格に判断されなければなりません。
本当に勾留が必要だと考えていないのであれば、検察官は勾留請求自体をやめなければなりません。さらに言えば、そもそも逮捕せずに任意での取調べで十分な事件も多数あるはずです。勾留請求しないのであれば、最初から逮捕する必要もないはずです。警察との関係性に縛られて不要な身体拘束を行うことは、捜査機関による権限の適切な行使とは言えません。
私たち弁護士は、不当な身体拘束に対して積極的に闘っていかなければなりません。

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