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大麻とCBD規制の大きな転換点:2024年12月12日改正法施行

こんにちは、弁護士の髙野です。
2023年12月、大麻に関する重要な法改正が行われました。この改正は2024年12月12日に施行される予定で、大麻に対する規制のあり方を大きく変えるものです。今回は、この法改正によって大麻規制がどのように変化するのか、そしてCBD製品に対する規制について詳しく解説していきます。

大麻の使用が処罰の対象となった

今回の法改正で注目すべき点の一つが、大麻の使用が処罰の対象となったことです。改正前大麻取締法においては大麻の使用を処罰する規定はありませんでした。しかし今回の改正により大麻等が麻薬及び向精神薬取締法における麻薬として扱われることになりました。ここでいう「大麻等」とは、大麻およびその有害成分であるTHC(テトラヒドロカンナビノール)を指します。麻薬及び向精神薬取締法には麻薬の使用を罰する規定があるため、大麻等がこの麻薬として扱われることにより、大麻の使用も処罰の対象となるのです。
これは大麻規制において極めて大きな転換点と言えるでしょう。この変更により、大麻使用者に対する取り締まりがより厳しくなることが予想されます。

大麻の所持罪の法定刑が重くなった

法改正によって変わったのは使用の点だけではありません。大麻の所持罪の法定刑が重くなりました。大麻取締法では大麻所持の罰則は5年以下の懲役でしたが、麻薬及び向精神薬取締法では7年以下の懲役となります。
これまでは、覚醒剤や麻薬の所持罪は初犯であれば懲役1年6月(執行猶予3年)程度であるのに対し、大麻所持の場合には懲役10月〜1年(執行猶予3年)程度でした。他の薬物所持に比べて大麻所持は比較的軽い刑罰となっていたのです。今回の法改正により、大麻所持に対する刑罰は他の薬物所持と同程度まで引き上げられたことになります。この法改正によって実際に言い渡される刑が即座に厳罰化するかどうか、今後の裁判所の判断を注視する必要があります。

大麻取締法から大麻の栽培の規制に関する法律へ

大麻等が麻薬として扱われることに伴い、大麻等の輸出入、譲渡、所持及び使用については、いずれも麻薬及び向精神薬取締法違反として扱われることになりました。そのため、これまでの大麻取締法は、もっぱら栽培のみを規制する法律となります。この変更を反映して、大麻取締法は「大麻草の栽培の規制に関する法律」に変更されることになりました。

CBD製品におけるTHC残留限度値の設定

今回の法改正によるもう一つの大きな変化は、CBD製品に対する規制です。CBDとは、麻または大麻に含まれる化学化合物であるカンナビジオール(Cannabidiol)のことを指します。今回の改正では、CBD製品の形状に応じて、THCの残留限度値が定められることになりました。この残留限度値を超えるTHCが検出された場合、その製品は麻薬として扱われることになります。
パブリックコメントによると、THCの残留限度値は形状ごとに以下のように定められています:

油脂(常温で液体であるものに限る)および粉末:100万分中10分の量(10ppm、10mg/kg、0.001%)
水溶液:1億分中10分の量(0.1ppm、0.1mg/kg、0.00001%)
上記以外のもの:100万分中1分の量(1ppm、1mg/kg、0.0001%)

パブリックコメントより

これらの数値を見ると、極めて微量なTHCの残留も規制の対象となることがわかります。

THC残留限度値の検査の正確性

THC残留限度値を超えたCBD製品は麻薬として扱われ、その所持等が禁止され、刑事事件の対象となることになります。しかし、この規制に関しては幾つかの問題が生じることが予想されます。
まず、THC残留限度値の検査の正確性の問題です。上記のとおり、限度値はかなり精密な数値が設定されています。この数値を超えているかどうかで、その製品が合法か違法かが決まるため、極めて重要なポイントとなります。仮にこの数値を超えているとして刑事裁判となる場合、当該製品に対する鑑定が実施されているでしょう。しかし、このような微量なTHCを正確に検出できる鑑定が果たしてどの程度可能なのか、慎重に検討する必要があります。場合によっては再鑑定なども必要になってくるでしょう。

THC残留限度値を超えた製品の譲渡や所持は故意の有無が争点に

厚生労働省は、行政の買上げ調査などで限界値を超える製品が見つかった場合、事業者に対して回収等の指示を行うとしています。つまり、事業者や消費者が限度値を超えていないものとして売買した製品が、後になって限度値を超えているものと判明する可能性があるということです。また、CBDに含まれる成分の中に熱や酸の影響でTHCに変化しうるものがあるという意見もあるようです。このような場合、外形的には「THC残留限度値を超えるもの=麻薬を売買ないし所持していた」ということになり、麻薬及び向精神薬取締法違反として捜査の対象になりえるということになります。
もちろん、これらの罪が成立するには「故意」が必要です。つまり、残留限度値を超えた違法な物であることを認識したうえで、売買ないし所持していなければ罪とはなりません。ただし、ここでいう故意には「未必的故意」も含まれます。「もしかしたら違法な薬物かもしれない」という認識でも故意は認定されうるのです。 そもそも故意の有無は、捜査が開始され事業者や消費者が取り調べを受けて初めて問題となる点です。つまり、この時点で捜査の対象である被疑者とされてしまう可能性があるのです。しかも、覚醒剤や麻薬の譲渡や所持のこれまでの運用を踏まえると、逮捕されてしまう可能性も否定できません。

取調べ対応が極めて重要

CBDに限らず、故意の有無が問題となる刑事事件は多くあります。その場合、捜査機関の取り調べを受け始める初期の段階でどのような供述をするか(それともしないのか)によって、その後の展開に大きな差異が生じます。事業者であれ、消費者であれ、このような事態に直面した場合は、直ちに経験豊富な弁護士の助言を受けることをお勧めします。
薬物事件の争い方についてはこちらのnoteに書いてありますのでお読み下さい。

まとめ

今回の法改正により、大麻に関する刑事事件では、いわゆる否認事件が間違いなく増えると予想されます。そして個々の事件一つ一つで適切に対応をしていかなければ、誤った運用が定着してしまう危険性があります。法改正直後の事件は、当事者も弁護士もこのことを肝に銘じておく必要があります。今後、この新しい法律がどのように運用されていくのか、そしてそれが社会にどのような影響を与えるのか、注意深く見守っていく必要があるでしょう。同時に、個々の事案において適切な法的対応を行うことが、公正な法の運用につながることを忘れてはなりません。

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