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警察によるDNA型データの管理:抹消は認められるのか?

こんにちは、弁護士の髙野です。先日、刑事裁判で無罪判決が確定した人のDNA型などのデータを国に抹消するように命じた高等裁判所の判決が確定する見通しであるとの報道がありました。今回は刑事事件の捜査でDNA型がどのように利用されているのかについて、お話ししたいと思います。

DNA型鑑定とは

DNA型鑑定とは、個人ごとに異なるDNAの部分を比較することで個人を識別する鑑定法です。

現在警察で行っているDNA型鑑定は主にSTR型検査法と呼ばれるもので、日本人で最も出現頻度が高いDNA型の組み合わせの場合でも、約4兆7千億人に1人という確率で個人識別が可能とされています。

警察庁のウェブページ

DNA型鑑定はどのような場面で利用されているか

このDNA型鑑定が捜査で利用されるのは、現場に残された血液、唾液、毛髪等の持ち主と、その事件の犯人であると疑われる人が同一であるかを判断する場面です。適切な器具が適切な技能を持った人によって用いられ、DNA型鑑定が実施された場合、極めて高い精度で遺留物の持ち主か否かが判別されることになります。したがって、犯人を特定する際の捜査及び証拠としては、DNA型鑑定は極めて重要な位置を占めています。

口腔内細胞の提出

捜査機関はDNA型鑑定の重要性を十分に理解しているため、積極的にDNA型鑑定の資料の提出を被疑者に対して求めてきます。資料として提出を求められるのは、主に口腔内の細胞です。専用のキットを用いて、口の中に綿棒のような器具を入れて頬の内側の壁を擦って採取することになります。
ここで問題となるのは、現在疑いをかけられている事件の捜査においてはDNA型鑑定の必要性がまったくない場合でも、捜査機関が被疑者に対して口腔内細胞の提出を求めてくることが少なくないという点です。これは令状に基づく強制捜査ではないので、被疑者は断ることができます。しかし被疑者は「およそ断れる雰囲気ではなかった」「断れることの説明などなかった」と後になって述べることがほとんどです。

DNA型のデータベース化

なぜ捜査機関がDNA型のデータをそこまで欲するのでしょうか。それは採取されたDNA型データがデータベース化され、将来の捜査において利用されているからです。例えば、性犯罪で体液が発見されそのDNA型鑑定を実施したとします。捜査機関はその結果を踏まえ、同一のDNA型がデータベースに保存されていないか検索します。もしそのDNA型の持ち主が過去に刑事事件の被疑者となり口腔内細胞を提出していれば、検索結果としてヒットし、極めて疑わしい人物として捜査の対象となるのです。
このデータベースはその保存されている母数が多ければ多いほど有効性が高まります。そのため、捜査機関がその時点での捜査にまったく必要のない者にさえ口腔内細胞の提出を求める理由がここにあるのです。
しかし、注意すべき点として、実はデータベース化されるきっかけとなった事件を超えて、将来の犯罪捜査のためにDNA型のデータが保管、データベース化されることについて、明文の法律上の根拠はないということがあります。

不起訴処分の場合に抹消が認められるか

冒頭で触れた裁判は、無罪判決が確定した人が起こしたものです。今後の課題として、不起訴処分となった人、特に「嫌疑なし」で不起訴処分となった人が同じような訴訟を起こしたときにどのように判断されるかが注目されます。冒頭の裁判の第一審判決後に不起訴処分となった人が同様の訴訟を起こしているようですが、いずれもすでに抹消されていたかそもそもデータベースに保存されていなかったなどの状況であり、裁判所が抹消を命じたものはいまだないようです。

まとめ

もし遺留物から自身がそこに存在したことが直ちに明らかにできる情報を捜査機関が持っているとしたら、我々は常にそのことを考えながら生活しなければならなくなります。それは生活を萎縮させるのでhな愛でしょうか。捜査の効率性と個人の権利保護のバランスをどのようにとるべきか、今後も慎重な議論が必要とされるでしょう。また、被疑者となった方々も、自身の権利について十分に理解し、適切に対応することが重要です。弁護士としては、依頼者の権利を守るため、このような問題に対して常に注意を払い、適切なアドバイスをしていく必要があると考えています。

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