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口座売買の誘惑と危険性 - 弁護士が警告する人生を台無しにする罠

こんにちは、弁護士の髙野です。 最近、SNSで口座売買に関する投稿を目にする機会が増えています。あるネット記事によると、Xだけでも口座売買関連の投稿が6万件ほどあるそうです。今回は、この口座売買について、その仕組みと危険性を詳しくお話ししたいと思います。

なぜ他人名義の口座が求められるのか

まず、そもそもなぜ他人名義の口座が求められているのかを理解する必要があります。主な理由は、犯罪組織が自分たちの正体を隠すためです。
振込め詐欺などの金融犯罪において、捜査機関は被害金の流れを追跡します。例えば、被害者がA口座に振り込んだお金が、B口座、C口座を経由してDコンビニのATMから引き出されたとします。
警察などの捜査機関の目的は、犯人を特定し逮捕することにあります。振込め詐欺などの場合、被害者がだまし取られた金銭を受け取りに来る人間が、その程度はともかくとして事件に関与していることは間違いありません。受け取った人を捕まえることができれば、そこから首謀者に辿っていくことも出来るかもしれないわけです。 そのため、詐欺などの財産犯においては、被害金の流れをたどることが最重要の捜査活動となります。そして、捜査機関であれば、銀行等を経由している限り、その流れをたどることはほぼ確実にできるのです。 たとえば、被害者が騙されてA口座に振り込んでしまったとします。その後、何者かがそのお金をB口座へ、そしてまたC口座へ移動させた後、DコンビニのATMから引き出されたとします。捜査機関はまず被害者から聞き取ったA口座の名義人を明らかにし身分証などを含む口座開設時の書類の開示するよう、A口座を持つ銀行に照会をかけます。それと同時に、その口座の利用履歴の開示も求めます。それにより被害金がB口座に移ったことも知ることが出来るのです。あとはこの繰り返しです。そして最後にたどり着いたDコンビニやATMに備え付けられた防犯カメラ映像から、その引き出した者を特定するためのリレー捜査が行われます。リレー捜査についてはこちらのnoteを御覧ください。

そしてその者が特定され、逮捕されることになるでしょう。出し子の場合、多くは末端の使い捨てですが、紹介者などを介して詐欺グループ本体へと迫ることができる可能性はあります。
もし犯罪組織が自分たちの名義の口座を使用すれば、すぐに正体が発覚してしまいます。さらに、一つの口座が発覚すると、その名義人の他の口座も凍結されてしまう可能性があります。そのため、犯罪組織は自分たちとは無関係の他人名義の口座を必要としているのです。

口座はどのように取引されているのか

では、これらの口座はどのように取引されているのでしょうか。主に以下の方法があります:
a) 口座屋と呼ばれる専門の違法業者が、多重債務者やホームレスなどから口座を買い取る。 b) 偽造身分証を使って新規に口座を開設する。 c) SNSを通じて一般人から口座を買い取る。
特に最近問題になっているのが、SNSを通じた一般人からの買取です。Xなどで「口座買取」などと検索すると、多数の投稿がヒットします。これらの投稿には多くの場合、TelegramやSignalなどのメッセージアプリへのリンクが貼られています。これらのアプリはトーク履歴の内容がサーバに保存されない仕組みのため、犯罪組織に好まれています。

口座売買の違法性と罰則

口座売買は、れっきとした犯罪行為です。具体的には、犯罪収益移転防止法違反に該当します。

1 他人になりすまして特定事業者(第二条第二項第一号から第十五号まで及び第三十七号に掲げる特定事業者に限る。以下この条において同じ。)との間における預貯金契約(別表第二条第二項第一号から第三十八号までに掲げる者の項の下欄に規定する預貯金契約をいう。以下この項において同じ。)に係る役務の提供を受けること又はこれを第三者にさせることを目的として、当該預貯金契約に係る預貯金通帳、預貯金の引出用のカード、預貯金の引出し又は振込みに必要な情報その他特定事業者との間における預貯金契約に係る役務の提供を受けるために必要なものとして政令で定めるもの(以下この条において「預貯金通帳等」という。)を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者も、同様とする。
2 相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同項と同様とする。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同様とする。

犯罪収益移転防止法第28条

第28条では、他人になりすまして預貯金契約を結ぶことや、そのための通帳やカードを譲渡・譲受することを禁止しています。違反した場合、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはその両方が科せられます。
起訴されれば前科がつきます。傷害罪や窃盗罪などと違い、被害者との示談で解決することもできません。つまり、不起訴処分を得ることが非常に難しいのです。

さらなる重罪に問われるリスク

場合によっては、犯罪収益移転防止法違反にとどまらず、より重い罪に問われる可能性もあります。例えば、「振込め詐欺に使うから口座を売ってくれ」と言われて売却した場合、詐欺罪の共犯として扱われる可能性があります。詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役であり、口座売買よりもはるかに重いです。

社会生活への深刻な影響

口座売買が発覚した場合、前科以上に深刻な影響が生活に及びます。口座が凍結されると、その情報は信用情報機関を通じて他の金融機関にも共有されます。その結果、すべての金融機関で新たに口座を開設することができなくなります。
これは想像以上に大きな問題です。給与振込、公共料金の支払い、クレジットカードの作成など、現代社会では銀行口座がなければ日常生活を送ることが極めて困難になります。就職の際にも、指定銀行での口座開設を求められることがありますが、それができないとなれば、就職自体が難しくなってしまいます。

結論:安易な誘惑に負けないで

「簡単に小遣いが稼げる」という誘惑に負けて口座を売却してしまうと、取り返しのつかない結果を招く可能性があります。一時的な利益と引き換えに、人生を台無しにしてしまう可能性があるのです。
SNSで見かける口座売買の投稿は、決して「お金を稼ぐチャンス」ではありません。それは犯罪への誘いであり、あなたの人生を狂わせかねない罠なのです。どんなに魅力的な条件を提示されても、絶対に応じないようにしましょう。
もし周りに口座売買を考えている人がいたら、この記事を共有して危険性を伝えてください。また、すでに口座を売却してしまった方や、売却を迫られて困っている方は、すぐに弁護士に相談することをお勧めします。一人で抱え込まず、専門家のアドバイスを受けることが問題解決の第一歩となります。

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