違法な取調べの実態に光をあてるために1:「目的外使用禁止規定」という障壁
(この記事は、私が所属する法律事務所のコラムの内容を、手続の進展にあわせて修正したものです。)
昨今、警察官や検察官の取調べの音声や動画がYouTubeなどで公開され、注目を浴びています。私はこのうちの一つの国家賠償請求訴訟の原告代理人の一人です(取調べ映像はhttps://www.youtube.com/watch?v=XArMxYdhk_U)。
この事件について、これまでの手続きと今起きている問題について、取調べの録音録画映像に関することを中心にお話ししようと思います。
検察官による違法な取り調べの実態
私達の依頼人は、刑事事件の被疑者として捜査機関から取調べを受けた方です。依頼人は取調べにおいて、一貫して黙秘をしました。捜査機関(今回は検察官でした)は、黙秘をしている被疑者に対し、供述をさせ供述調書という書類に署名をさせるため、様々なことをしてきます。この事件の検察官は、依頼人を「お子ちゃま」「ガキ」「僕ちゃん」などと侮辱し、怒鳴りつけました。一度や二度ではなく、合計50時間以上行われた取調べの中で、このような言動を繰り返しました。依頼人を身体的にも精神的にも疲弊させ、屈服させようとしてきたのです。
検察官だからといって何をしても許されるわけではありません。このような取調べは違法です。そこで依頼人と私達は、検察官による違法な取り調べがあったことを理由に、国に対し損害賠償を求める国家賠償請求訴訟(国賠訴訟)を起こしました。
取調べの録音録画制度について
私達は訴訟手続きの中で、違法な取り調べがあったことを証拠をもって立証しなければなりません。密室で行われる取調べの内容を、どのようにして証明すればよいのでしょう。
2019年の刑事訴訟法改正により、一部の事件では取調べがビデオで撮影されるようになっています。これは、捜査機関が行った取調べが適法だったのか、事後的に検証するための制度です。
ビデオ映像は機械的に映像や音声が記録されるので、証拠としての価値は非常に高いものです。そして、刑事訴訟の手続きにおいては、取調べの録音録画記録映像(が保存された記録媒体)を入手することは容易です。刑事訴訟法に定められた類型証拠開示請求をするだけです。特に揉めることもありません。国賠訴訟の代理人である私達は、同時に刑事訴訟の弁護人でもありました。取調べの映像は国賠訴訟を起こした時点で私達の手元にあったのです。
「目的外使用の禁止」という障壁
しかし、実は今の法律では刑事訴訟のなかで入手した記録映像を国賠訴訟でそのまま利用することは出来ません。刑事訴訟法には、目的外の使用を禁止する条文があります。簡単に言えば、刑事訴訟の手続の中で入手した証拠は、刑事訴訟以外では使用することが許されていないのです。これの条文に違反すると刑罰を科されます。
なんとも遠回りなことですが、国賠訴訟でこの記録映像を使えるようにするためには、民事訴訟法で定められた手続きによって、同じ記録映像を国に提出させなければならないのです。
それが文書提出命令申立という手続です。私達が申し立てを行った2022年7月の時点では、取調べの録音録画映像記録媒体について文書提出命令を出した例は見つかりませんでした(現在は大阪の冤罪事件で文書提出命令が出されています)。
この申立を行った結果、国は最終的には自発的に記録映像を提出しました。しかし、文書提出命令を申し立てた2022年7月から、国が提出をするまでには、半年以上期間が経過しています。
さきほどお話しましたように、そもそも取調べの録音録画制度は、違法な取り調べが行われていないかを検証する目的で作られました。そして、国賠訴訟は取調べが違法でなかったかを検証する手段の一つです。それにも関わらず、刑事訴訟手続の中で入手した録音録画記録映像をそのまま利用することが出来ず、それを利用できるようにするまでに半年もの時間をかけなければならないというのは明らかにおかしいことではないでしょうか。この点は、立法によって解決されなければなりません。