至福
沖縄に住む息子が帰ってきた。
2人いる子どもの下の子だけを連れての帰省だ。
今年は、頻繁に帰ってくる。
育休を取得している息子はこう言う。
「人生で、きっとこんな機会はきっともう無いと思うから。できるだけ、父さんや母さんに子どもらと触れ合う時間をとってほしいねん」
こちらも、すっかり「じじバカ、ばばバカ」になってしまっているので、歓迎ではある。
ただ、帰ってくる本当の理由は、「育メン奮闘中」の小休止、いや「SOS」なのでは無いかと妻と話している。他にも、地元の仲間と飲んで騒ぎたいとか理由は一つでは無いだろうが……。
いつも通り、神戸空港まで車でお出迎えだ。
飛行機は予定通り到着し、ロビーに1歳3ヶ月の孫娘が息子に抱かれて登場した。
「かわいい!」
それ以外の言葉はない。
幸い、人見知りも無く、緊張した顔を見せつつも妻に抱かれている。人目をはばかることなく、名前を呼んで顔をほころばせている私。まあ、「孫との対面」なのだから大目に見てほしい。と言っても8月に会っているので3ヶ月ぶりなのだが。
車に乗ってしばらくすると、孫はしっかり眠りについた。
飛行中全く寝ることがなく、息子は大変だったらしい。横に座っていた老夫婦に「大変だったねえ。よく、頑張ったねえ」と降りるときにねぎらってもらったくらいらしい。
飛行機の振動は眠りには向いていないのかもしれない。娘のところの孫もそうだが、車に乗ると大抵すぐに眠りにつく。そして、信号で止まると起きることがある。車の振動はひょっとして胎内に似ているのかもと思ったりもするがどうだろう。
まあ、私たち夫婦2人しておしゃべりなのだから仕方ないが、2人の我が子もよくしゃべる。神戸から乗った阪神高速は、ちょうど大渋滞の時間帯だったが、息子の近況報告で退屈することはなかった。
2時間ほどかかってようやく自宅に到着。無事の帰省となった。
孫は、早速家の中を散策して回る。しっかり歩き出したとは言え、この時期にしかできないちょっと危なかっしい歩き方は見ていて飽きない。
夕食を済まして、一息ついた頃、息子が突然、
「昔のビデオ見られへんの? 俺が保育園の時のお遊戯の様子見たいねん。◯◯(自分の上の子どもの名前)と比べてどうやったんかなあって」
今回は沖縄に残してきたが、3歳になった上の男の子が今、運動会に向けてお遊戯の練習をしているらしい。父親である自分が3歳の時はどうだったのか知りたくなったと言うことだ。
任せてください。
ありまっせええ。
退職した年の専業主夫の期間に、昔撮っていた8mmやVHSのビデオをすべてDVDに焼き直すという作業をやっていたのだ。これは、結構大変な作業だった。焼いたDVDは20枚近くになった。年代順にインデックスもつけて作成した。
「どれどれ、あなたが3歳の時の保育園の運動会なあ。ああ、あった、これや」
プレーヤーに入れて写すと、荒れた画像の中に、30年前の長女や長男のかわいい映像が現れた。
ちょうど、今の我が子と同じくらいの自分の姿を見て、
「いっしょやあああ!」
と息子は叫んだ。
決して上手ではない、リズムに乗り切れてないぎこちない体の動かし方。それでも、一生懸命やっている感はそれなりに出ている。息子はすぐにTVの映像をスマホのビデオに撮っていた。
しかし、しばらく見ているうちにふと気づく。
自分が誰を見ているのか。
もちろん、我が子を見ているのだが、一緒に写っている若かりし妻の姿を見ている自分がいる。思わず、「若いなあ。さすが、女子高生と言われただけあるなあ」と横にいる今の妻を見る。
「もう、なにくらべててんのお! 年取るの当たり前やん」
私は、「いやあ、そんなに変わってないやん」と言ってやりたかったが、強烈な背中パンチが来そうだったのでやめておいた。
いい時間だった。
「やっぱり、残しておいてよかったなあ。たまには見てみるもんやなあ」
私たちが「みて」いたものは、単なる過去の映像ではない。
TVの中の6歳と3歳の子が今は、それぞれ母となり父となりそれぞれに2人の子どもの親になった「しあわせ」だった。
さらに、夫婦でここまで「いい年」をとれたことが身に染みた時間でもあった。
6歳年長組の鼓笛隊の映像になった。
その映像の前で、1歳の孫が音楽に合わせて体を揺らしている。
「ああ」
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