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バトル on the Green

「マークしなきゃダメでしょ!」
「あっ、忘れてた。でも、そんな、きつい言い方せんでもええやん!」
「いや、マナーでしょ!」

 バトルは、突然勃発した。

 妻の友人夫妻が、3年前からゴルフを始めた。いや、正確には、「復活」させた。元々、お二人ともバブル全盛時にかなりの贅沢なラウンドを重ねておられたらしい。
 奥様の方が、妻の高校時代からの友人である。もう、40年以上のお付き合いだ。交流の「濃いー薄い」時期はあれど、これほど長く続いている友人はもはや「親友」と言う言葉だけでは片付けられない関係かもしれない。私自身も妻との関係で結婚前から何度もお会いして懇意にさせてもらってきている。
 私たち夫婦がゴルフを始めていたこともあって、夫婦2組でのラウンドをしようという話がまとまるのに時間は掛からなかった。
 奈良と名古屋の関係なので、中間地点の三重や滋賀でのプレイが多い。冬季の「自主練期間」を除いて月1ペースで3年目に入った。先日21回目のラウンドを数えるまでとなった。これは妻の友人のパートナーの人柄があってこそだと思う。
 ゴルフは、一日中一緒にいるので、気持ちよくプレイできるメンバーでないと会は続かない。
 このメンバー4人でのラウンドは、本当に楽しい。ゴルフより、前ノリの宴会が主になってしまうことがたまに傷だが……。この月1の会があるから練習にも熱が入るのだ。

 さて

 冒頭のバトルは、前回のラウンドでの出来事である。
 大した話ではない。
 グリーン上でマークするのは、確かに当然のマナーというかルールであるが、たまたま友人の奥様が忘れた。そこに「マーフィーの法則」(古っ!)ではないが、こういう時に限って別のボールがマークし忘れたボールに「求愛」してしまうのである。そんな場面だった。

 厳しいルールでのゴルフコンペをやっているわけではない。

 私は、滅多に訪れない自分のパーパットをどう打つかしか考えていなかった。
 でも、奧さんは、結構怒っている。自分に非があることは重々承知の上で、
「なんで、こんな時に、そんな言い方せんでもええやん!」
と怒り心頭のご様子だ。私も「あーあー」と思うには思ったが……。

 ただ、別のところでもう一つのバトルが勃発した。同時多発バトルだ。

 友人ご夫妻の「バトル」をよそに、私の打ったパーパットは見事にカップインした。

「パーです。パーパーパーパー!」

このノー天気な雄叫びに私の妻が反応した。
 顔をしかめて親指を下に向ける失礼なジャスチャーを私に向ける。
 私は、「???」である。
「ナイスパー!」
と言って欲しい場面なのに……。
 パーが取れるのはそうあるわけではない。なのになぜだ。

 全員のプレーが終了し、カートに戻るときに妻は言った。
「あのタイミングで『パーパーパーパー」って言う! 4回も!」
「えっ、4回も言うた?」
「言うたわ! ほんまにもう」
 友人夫妻がマーク問題でバトって、気まずい雰囲気になっている時に、なんという無神経な言動かと…そう言いたかったそうだ。
 私は、「そんなこと何も感じてなかったわ」と返すと、「そこが無神経やねん」と追い討ちをかけられる。しゅんとなってしまい、パーの喜びは青空の方たへファーと飛んでいった。

 この話は続きがある。

その1 実は
 帰りの車は、いつも「反省会」となるのだが、この場面、実は妻もそんなに怒っていたわけではなかったのだという話。友人が気まずくなっている時に、1人浮かれている私を戒めることで、友人夫妻のバトルの矛先を変えたかったと言うことだった。なんと、よく気のつくと言うか、そんなことまで考えてゴルフしてんの? と思いたくなった。

その2 別のところで
 後日、妻がその友人が実家である奈良に帰ってきた際にランチを共にした。
 その時に、友人からこんな話を聞いたらしい。
「帰りの車で私ら(友人夫妻)も『パー事件』が話題になってねえ。「○○ちゃんたち(私たち夫婦のこと)大丈夫やったかなあ。だいぶもめてたけど」
 なんと優しいご夫婦なのかと思うと同時に、そんな風に気遣わせせてしまうほど私たちのバトルは激しかったのかとも思い恥ずかしい。
 昔から、私たち夫婦のやりとりは、周りの方々を心配させてしまうことがよくあった。当人同士は、全く普通の会話なのに、どうも言葉遣いやトーンが「キツイ」らしい。普段の会話なのに、バトってるように見えるらしい。
 妻から、友人に、「実は」の話をして「ええ、そうやったん」と一件落着して「終戦」となった次第だ。


 結局、私の「鈍感さ」から起こった「バトル」だったと言うことだ。
 いや、世間である「バトル」の多くは、こう言う「すれ違い」によるものかもしれないと、無理やり教訓化しようとしている私である。

 でも、あの「パー」はうれしかった。
「ナイスパー!」
 誰も言ってくれなかったこの言葉を改めて自分にかけてみる。

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