ロバのパン屋
歳を重ねると突然、昔話で盛り上がることがある。
妻と、友人、そして私の3人でゴルフ場に向かっていた時の出来事だ。
どんどん、山が深くなり、道も険しくなってきた。家もポツンポツンとしか現れないような山間を抜けて走っている時に、私がふと呟いた。
「ここに住んでいる人たちって買い物とかどうしてんねやろな。ロバのパン屋とか来てくれるんかな」
今の時代、いくら山間の家でも車があればコンビニでもスーパーでも行けるくらいは知っている。きっと、このあたりに住む人々もそうしているに違いない。なのに、なぜ、私の口から「ロバのパン屋」が出てきたのか。それがまず持って不思議なのだが、この私の一言が受けた。
ロバのパン屋を3人とも知っている世代であった。3人の年齢は、64歳が二人と58歳が一人。妻は、「ロバのパン屋はちんからりん」と歌い出す始末である。「アンパン、ジャムパン、ーー」と続けて歌う私。「何でもあります。チンからりん」と友人までもが繋いでフルコーラス歌えたのである。歌詞は、もちろん正確ではないだろうが、メロディーはきっと合っていたと思う。
つい先程のことや、今何喋ろうと思ってんやったっけとか、日常茶飯事で、いわゆる「物忘れ」がひどくなってきたとお互い嘆いている3人である。不思議なもので今から50年近く前のことになるとくっきりと思い出すのである。
子ども心に思っていた。あの音楽がなると母にねだってパンを買ってもらったとか、パンを買っている最中にロバがうんこをしていたとか。話は弾む。
そして、そういえば、お米を持っていって「ドッカアアン」とすごい音を立てて作ってくれたポンポン菓子のおっちゃんもおったなあ。あれはうまかったけど、あの音には本当にびっくりしたなあ。今でも、縁日で復活させている話をニュースで見たとか、
ちなみに、この日のゴルフも「どっかああん」「ファあああ」の声が鳴り響いていた。
ロバのパン屋は、その後どうなったんだろう。今は、どこかのパン屋になっているのだろうか。ウィキペディアに出ているのだろうか。正確な情報より、こうやって懐かしみながら話をするのがいいなとも思うが1度調べてみようか。