挨拶と笑顔
小学校教員時代に、研究会等で他校に赴いた時、時々こんなポスターを目にした。
挨拶の大切さに異論はない。
「あいさつしようね」と「廊下走ったらあかんよ」
これが小学校教員をしているときの、「指導言」回数ワンツーフィニッシュだったと思う。
ただ、「挨拶って人に言われてするもんかなあ」「無理やり言わせられるものなんかなあ」と言う思いがずっとあった。
「挨拶したくなるような環境をいかに作ってあげられるかが大事なんちゃうん」
「いや、形から入ることも必要やで。子どもやねんから」
仲間内で議論したことが懐かしい。
朝ごはんも十分に食べさせてもらえないまま、心も体もしんどい状態でうつむいて校門をくぐる子どもに、明るい声で
「おはようございます!」
と声をかけても返ってくるのは「無言」の疲れた表情だ。
大人になるまでに、挨拶は大事なことだと理解して欲しいなあと言う思いは強くあった。授業で取り上げたり、ロールプレーで体験学習をしてみたり、取り組んでも来た。
でも、なんかしっくりこない。
ましてや、「おあしす運動」なんて目にすると、ちょっと「???」な気分になったものだ。(もちろん、この運動を否定するものではありません)
退職して、1年間の「専業主夫」の期間を経て、大学の守衛職に就くと言うご縁をいただいた。大学の玄関口での業務が多かった。
出勤される先生や職員の方々が、「ピッ」と職員証をかざしてタイムレコーダーに打刻される。
こちらは、お一人お一人に
「おはようございます」
とあいさつをさせてもらう。
入職当初、違和感があったのは、この朝の挨拶の場面だ。
挨拶を返してくださる方の少ないこと。稀にこちらより先にあいさつをしてくださる方もおられるが……。また、同じ方でも、あいさつされる日とされない日があることにも気づく。
私が、流石にこれはちょっとどうなん? って思うのは、あいさつの際、目があっているにもかかわらずあいさつを返さない方。いわゆる「がん無視」だ。さらに、すぐに会った別の方には自分から挨拶されると言うおまけつき。これは、気分の良いものではない。肩書きはたいそうな方だったりもする。
「そうか、私とあいさつしたくなかったってことなんだなあ」
こんな経験をさせてもらえてよかったと思った。
挨拶がいかに大切なものであるか、実感できたからだ。少なくとも自分は、気持ちよく挨拶できる、挨拶を返すことができる人間になろうと思った。
同時に教員時代に子どもたちにもっと挨拶の大切さが分かる取り組みをしておくべきだったとも思った。まあ、そんな問題でもないかとも思うが。
守衛職に就いてから自分の日常の行動で変わったことはいくつかある。自分から進んで挨拶するようになったことはそのひとつある。
いつも利用しているゴルフ練習場の受付の方でそれはそれは気持ちのいい「いらっしゃいませ。ありがとうございます。行ってらっしゃいませ」が言える方がいる。こちらもいつも「はい。ありがとうございます」とお顔を見て返すようにしている。この方が担当でない日に行った日は、少し残念な気がするくらいだ。
車の運転中に、道路や駐車場などで警備にあたっている方やボランティアで子どもの登校の見守りをしておられる方を見かけた時は、自然に「お疲れ様です。ありがとうございます」と軽く頭を下げたり、片手をあげたりするようになった。
先日、とても嬉しい出来事があった。
65歳で、大学守衛の職を退いて、3ヶ月後に再度、別の勤務形態ではあるが、同じ大学にお世話になることになった。
「また、お世話になることになりました」
と関係部署に挨拶しに行くと、思いがけない「笑顔」にたくさん出会った。お忙しい中で仕事の手を止めての「微笑みがえし」である。中には、「おかえりなさい」と言ってくださった方もいた。正直、予期していない反応だったので嬉しくてたまらなかった。そして、ウキウキした気持ちになり「また、仕事頑張ろう」と言う高揚感を覚えた。
何を言いたいんだろう。
「『あいさつ』は大事やで」「人と人と繋ぐアイテムやで」「自分のモチベーションを上げる力になるで」と言うことの実体験を書いて残しておきたかっただけかもしれない。
65歳になって、何を今さらと言う話なのだが、ふと書きたくなった。
今、学生相手に、鍵のやり取りをする業務にあたっているが、彼らが鍵台帳に記名し終え、鍵を手渡す際「はい。ありがとう」、鍵を返しに来た学生には「時間守ってくれてありがとうね。お気をつけてお帰り下さい」と気持ち悪がれない程度を心がけて笑顔であいさつしている。「はい」と笑顔で返してくれる学生もいる。こちらもつい、ニコリとしてしまう。
「ありがとうとごめんね おはようにおやすみ それくらいでほんとは なんとかなるんだよ」
「こんにちはとさよなら 愛してるが言えたら かなりのことは多分 解決するんだよう」 (玉置浩二 「おいでよ僕の国へ」より)
なぜか、この歌が頭に浮かんできた。大好きな玉置浩二のお気に入りの曲である。
さあ、明日も、元気にあいさつして行こう。
きっと、いい笑顔が待っている。
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